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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく


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167.提案は打算を含んで相談に変わる

 感動の対面に、ガブリエルは潤んだ目をハンカチで覆った。もし自分が同じ立場にいたら、想像するだけで怖くなる。かつて、ガブリエル自身もひどい目に遭った。その話は聞いているが、実感はなかった。まるでガラスの向こうの出来事のようで……それが俄かに変化する。


 目の前で家族を処刑され、自分も殺された。その話が事実で、時間が戻った。父母に記憶がありガブリエルと感動の対面を果たしたなら。たくさん甘えてくればよかったと思う。もっと、幼い子供みたいに抱き着いて泣いて、たくさん撫でてもらう。


 帰ったら実行に移そう、長い旅行の後だからおかしくない。自分にそう言い聞かせたガブリエルは、旅の終わりの予定を心に刻んだ。


「苦労、させて……すまない」


「お父様がご無事でよか……った……」


 泣き崩れたソフィーのミルクティ色の髪に、子爵の手が触れる。何度も確認するように撫で、最後に引き寄せた。不安定な姿勢なのに、ソフィーの後ろ姿は美しい。両手を伸ばして素直に感情を示す娘に、父は優しく何度も「もう大丈夫だ」と口にした。


 シェンデル公爵家が後ろ盾になる話は、すでにメルテンス子爵にも通っていた。他家が手を出すことはできなくなるし、ソフィーの嫁ぎ先も安全な家を見つけてくれる。その安心感が、子爵の気持ちを軽くした。


 病弱な身に万が一があっても、娘の幸せは保証される。口に出さない安心が、子爵の表情を柔らかくし、口調を穏やかにした。


「頼んでみるか」


「何を?」


 洟を啜ったガブリエルは、アウグストの言葉に反応する。独り言に近い小さな声を聞き取った姪に、アウグストは肩を竦めた。


「うちの息子二人、どちらかに嫁いでもらえないかと思ってな。メルテンス子爵の療養地としても、ロイスナー公国の自然が適している。それに……ソフィー嬢はいい子だ」


「……カールお兄様とケヴィンお兄様?」


 正直、二人にはソフィーはもったいないと感じる。その反面、もし実現したらずっと一緒にいられると打算が働いた。


「そうね、おじい様達に頼んでみるわ」


「ああ、任せる」


 俺が口にするより意見が通るだろう。アウグストはにやりと笑って、後半の言葉を呑み込んだ。聞こえなかった部分もしっかり把握しながら、ガブリエルも頷く。


 テンツラー男爵令息の話は出さず、二人は連絡が取れなくなってからの日常をぽつぽつとやり取りし始めた。療養と称して、見知らぬ家に移動させられた子爵の話。別の子爵家に売られそうになって抵抗したソフィーの話。どちらも長くて、すぐ終わりそうにない。


「残りは明日にしたほうがいい。顔色が悪いぞ」


 メルテンス子爵の様子を見ていたアウグストの介入で、今日の面会は終了した。また明日と約束したソフィーに、子爵は「楽しみにしている」としっかりした口調で返す。


 帰りの馬車の中、ソフィーは嬉しそうに微笑みを湛えていた。明日も、その次の日も。会いたければまた会える。ごくごく当たり前の状況が幸せに直結していることを、ソフィーは噛み締めた。

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 報われぬ脳筋たちに春がッ!?(笑)
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