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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく


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166.感動の父娘の対面

 メルテンス子爵と令嬢ソフィーの対面に、ガブリエルは同行することとなった。というのも、エッカルトとクラーラが朝食の席で「二日ほど留守にする」と言い出したからだ。王家絡みの仕事の依頼があったと聞けば、一緒にいたいと我が儘も言えない。


 申し訳なさそうなクラーラの謝罪を受け入れ、ガブリエルは宿に残ろうとした。小さなお茶会も少し時期をずらす連絡をしたばかり。その様子を見ていたアウグストが思わぬ進言をしたからだ。


「ソフィー嬢は、テンツラー男爵家に恨まれているだろう。加えて、先日の失礼な貴族の関係者が逆恨みする可能性もある。護衛につきたいが、ガブリエルを宿に残す選択はできないから……一緒に行動してくれ」


 あまりに簡潔に結論を引き出した。ガブリエルから離れる選択肢はない。だがソフィーも心配だ。だったら二人が一緒にいたらいい。確かに間違っていないのに、すごく我が儘な提案に聞こえた。くすくすとガブリエルが笑い出し、ソフィーも笑顔で承諾する。


 ほっとした顔のエッカルトが、クラーラと頷き合った。


 食事を終え、すぐにお互いの準備に入る。先に出発するのがシェンデル公爵夫妻であったため、ソフィーとガブリエルは見送りに立った。二人を乗せた馬車が見えなくなると、すぐに部屋へ取って返す。


 先日購入した服の中から、ソフィーが選んだのは白いワンピースだった。裾や襟に銀の刺繍が入り、とても上品な印象を与える。ガブリエルは紺色に白いレースがあしらわれた服を着た。紺色の絹は柄が織り込まれ、花模様の白いレースが映える。


「どちらも立派なお嬢様だな。さて、両手に花を体感させてくれるか?」


「もちろんよ、叔父様」


「腕を借ります」


 おどけた口調で両腕を腰に当てて肘を立てれば、二人がするりと腕を絡めた。ガブリエルは嬉しそうにはしゃぎ、ソフィーも父に会える期待で笑みがこぼれる。アウグストは珍しく馬車に乗り込んだ。


 出発した馬車は、こじんまりとした建物で止まった。さほど距離は離れていない。ただ中心街から外れた地区であるため、静けさがあった。街の騒々しい物音はほとんど聞こえない。療養に特化した治療院だった。


 通された先は最上階の奥、居心地の良い病室だ。窓からは、白い花を咲かせる木が満開の枝を揺らすのが見えた。風に乗って花の甘い香りが病室の空気を染め変える。エッカルトが手配した病室に入るなり、ガブリエルは壁際に控えた。


 ベッドに寄りかかってクッションで体を支える男性は、痩せていた。繊細そうな顔立ちがソフィーによく似ている。一目で親子だとわかる二人は、何も言わずに見つめ合った。


 涙ぐむソフィーの手が震えている。数歩で立ち止まり、動き出せば勢いよく抱き着いた。ベッドサイドに膝を落とし、祈りを捧げる敬虔な信者のように……父親の手を握って額に押し付ける。しばらく、言葉は必要なかった。

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