165.公爵閣下は忙しい
様々な手配を終えて、エッカルトは一息ついた。妻クラーラ達の警護はアウグストに任せている。お茶会の会場を王家所有の別邸にしたことで、内部での安全も確保できた。さすがにあの場所で愚かな言動をする貴族女性はいないだろう。
いないはず……だった。罪人の処分や彼らの財産没収、その後の領地管理に関することまで大量の書類を片付け、エッカルトは満足していた。久しぶりにこれほどやりがいのある仕事を得たと、やめたはずの葉巻を咥える。
「クラーラに叱られる」
咥えただけで片付けた。葉巻の臭いがしたら、クラーラに叱られてしまう。だが捨てずに持ち歩くあたりが、エッカルトの未練を示していた。
この状態で飛び込んだのが、お茶会に同行させた侍女からの報告だ。四人つけたのは、緊急時の連絡係としての役割を与えたから。その一人が大急ぎで戻り、エッカルトに報告を入れる。呼ばれていないピータック子爵夫人が飛び込んだ、と。
「なるほど。ピータック子爵は婿だったな……」
ふむと頷いて侍女に休むよう伝えた。
どう処理してやろうか、無言のエッカルトは情報を整理する。入り婿の子爵は愛人がいた。慎ましい生活を送る平民の愛人は、子爵夫人の嫌がらせを受けながらも子を産んで育てている。
今回の騒動にかかわったすべての貴族家の情報は、頭に入っていた。逃げた婿は平民の女性と幸せになる。そうだな、彼に証言を頼むのも一つか。愛人を選んだ夫に裏切られれば、さぞかし堪えるだろうな。後押しで、新しい生活を始める婿に金を渡せば完璧だ。
子爵夫人の言い分が通らなくなる。夫を取り戻そうとしても、後ろ盾に我が公爵家がついていれば……誰も相手をしないはずだ。あれこれ策を練るエッカルトは、明日の準備にピータック子爵家への対応も組み込んだ。
明日、ソフィーが父親と面会する。保護してから手厚く面倒を見たため、ようやく話ができる状態まで回復した。医師の話では何らかの薬を盛られたのではないか、と聞いた。婚約前から病弱だったので誰も疑わなかったが、急に体調が悪くなった原因がハイモ・テンツラーなら?
医師はエッカルトに「毒」ではないと断言した。好意的に解釈するなら、新薬で回復を願ったと取れる。だが、格上の子爵家を乗っ取ろうとする男爵家三男だ。あの悪辣なやり方から判断すれば……わざと強い薬を与え、弱った体にダメージを与えようとした可能性がある。
こんな話は女性達の耳に入れたくない。エッカルトは自分が背負って終わらせるつもりだった。お茶会から帰ってきた妻が、寝室で「明日は私も同行しますわ」と言い出すまでは……。




