160.招かれざる客の乱入
クラーラの言葉通り、建物の内装は豪華だった。外観を必要以上に豪華にしない理由は、防犯や使用頻度の問題があるらしい。大人の事情よ、と笑う祖母にガブリエルはそれ以上追及しなかった。
玄関ホールのステンドグラスは綺麗で、管理人も親切だ。送ってきたアウグスト達騎士は、近くにある飲食店で時間を潰すという。女性貴族の集まりであるお茶会に、護衛であろうと男性が同行するのはマナー違反だった。
「叔父様、あとでね」
手を振って別れ、屋敷側で雇った女性騎士について奥へ進む。すでにかなりの人数が集まっていた。主催なのに遅れてもいいのか、疑問に思ってガブリエルが尋ねる。
「ねえ、おばあ様。主催が最後でもいいの?」
「ゼークト王国では普通よ。始まる時間までに集まればいいし、爵位の低い人が先に来ていることが多いわね。そうすれば、上位の人が来るたびに挨拶できるでしょう?」
微笑みながら、周囲の挨拶を受けるクラーラの言葉に、ガブリエルは衝撃を受けた。学んだ知識が違いすぎる。もしかしたら、私が習った内容はアードラー王国以外では役立たないのかも。きちんと厳しい教育や作法を身に付けたつもりでいた。だから俯いてしまう。
「ガブリエル様、落ち着いてください。これから、お茶会ですよ」
周囲の貴族に見られています。遠回しに注意するソフィーに微笑みを作った。お茶会が終わったら、クラーラやソフィーに教え直してもらおう。おかしな点は直せばいい。ガブリエルは深呼吸して、ソフィーの手を握った。
「ソフィーお姉様、離れないでくださいね」
少女が年上の姉のような女性にお願いするフリで、彼女を守る盾になる覚悟を示した。作法が多少違おうと、公女である肩書きは裏切らない。祖母クラーラも同じ会場にいるのなら、サポートしてくれるだろう。
この度胸と覚悟の決め方は、王太子妃教育で培ったものだ。
「皆様、急でしたのに集まってくださって嬉しいわ」
シェンデル公爵夫人としてクラーラが挨拶し、人々は決められた席に落ち着いた。招待状を持つ人であれば、必ず席が用意される。あぶれる人はいない。それなのに……甲高い声で侍女を叱りつける女性がいた。
「このあたくしの席がない、ですって?! どういうつもりなの!」
騒いでいるのは、ピータック子爵夫人だった。招待状もないのに押しかけ、断ったのにどこかから入り込んだ。慌てる侍女達より、女性騎士の動きのほうが早い。招かれざる客の処理は、騎士の職分だ。
「こちらへどうぞ」
一応は貴族夫人なので、丁重に退室を促す。背を押すように添えられた手を拒んだ瞬間、立場が変わった。このまま退室すれば、勘違いによる謝罪で済む。だが残ろうとすれば……この場にいる誰かを害する気のある刺客として扱われる。子爵夫人は、その事実に気づけなかった。
ゼークト王国の公爵夫人が主催し、ロイスナー公国の公女殿下が同席する茶会。その格式と警護体制は、子爵夫人が思うより高いのだ。賊の制圧へと対応を切り替えた女性騎士により、ピータック子爵夫人は会場の外へ引き摺り出された。




