158.祖父、祖母、叔父……次は私でしょ?
お茶会当日の朝、エッカルトは届いた手紙に目を通し眉根を寄せた。不満を示すように「ふん」と口元を歪める。そのまま、手紙をクラーラに手渡した。開封済みの手紙に目を通したクラーラは「あらまあ」と呟いて、今度はアウグストに回す。
じっくり読んだアウグストは「こんなもんだろ」と手紙を畳んだ。次は私の番と思って待っていたガブリエルが立ち上がる。朝食の席で突然椅子の音を響かせた孫娘に、エッカルトが首を傾げた。
「どうした、何か嫌いなものでも入っていたか?」
「リル、お行儀が悪いわ。ちゃんと座って」
祖父母の対応に、慌てて座り直すも……ガブリエルは言葉まで我慢しなかった。
「今のお手紙は何? 私にも見せて」
「リルにはまだ早い」
手を伸ばす姪を避けて、アウグストが手紙を胸元に差し込んだ。
「ソフィーお姉様は?」
「客人に見せる内容じゃない」
これまたぴしゃり。そうやって阻まれれば、阻まれるほど気になる。
「気になって食事どころではなさそうね。先日の無礼な家の一つが、お詫びを寄越したの」
ドナート伯爵夫妻の離縁、娘を修道院へ送る話を伝える必要はない。
「それだけ?」
「ええ、それだけよ。今日のお茶会にも参加しないわ」
クラーラの説明に、あっさりと納得した。ガブリエルにしたら、知りたかっただけなのだ。順番に回ってきたから、自分も教えてもらえると考えた。それが手前で止まったので、ものすごく気になっただけ。知ったら興味は一瞬で薄れる。
「ガブリエル様、公爵夫人にお礼を仰って」
「あ、そうね。教えてくれてありがとう、おばあ様」
「どういたしまして。ソフィーもありがとうね」
穏やかなやり取りに、エッカルトの表情が和む。一緒に過ごす間に、ソフィーは「公女殿下」ではなく「ガブリエル様」と呼ぶほど仲良くなった。そのことが単純に嬉しい。
「メルテンス子爵の病状も落ち着いたから、明日になったら宿へ移そう。我がシェンデル公爵家が後ろ盾になると示す意味でも、子爵と過ごす時間が必要だ」
エッカルトの中で、メルテンス子爵家の保護は決定だった。傘下に加え、他の貴族からの手出しや干渉を排除する。ソフィーの人柄が気に入ったことが一つ、この街に新たな拠点ができる利点もあった。この利点を表に出すことで、メルテンス子爵家の面目や立場が守られる。
一方的に庇護されるだけの荷物と判断すれば、何らかの手でソフィーを手に入れて利用する貴族が出るからだ。何十手も先を読むことが、公爵家当主の日常でもあった。手を出されて後悔するより、その前に万全の手を打つ。
「急いで着替えないと間に合わないわ」
ガブリエルが立ち上がるのを見て、クラーラとソフィーが顔を見合わせる。お茶会なのになぜ? そんな様子に、ガブリエルがきょとんとした。
「え? ゼークト王国では、そんなにゆっくりしているの?」
「ええ。お茶会なら着替えて化粧や髪を整える程度よ」
祖母の思わぬ発言に、アードラー王国の準備を思い浮かべる。朝から肌を磨いて、香油を塗り込んで……あの作業が、ない?! 驚いたガブリエルの言葉に、クラーラは「それは王宮での夜会くらいね」と苦笑いした。




