20.ドキドキのお泊まりイベント二回目
自宅に帰らないのは、ミモザだけのはずだった。
なのに、何故か屋敷にはリゲルもアルファルドもレグルスもミラもいる。
リゲルとミラのせいだ。
ミモザが泊まると言うとこの二人がごねたのだ。
リゲル曰く、「俺以外はアルキオーネの家に泊まったことがあるのに、俺は泊まったことがない。またミモザが泊まるのはずるい」とのことだ。
また、ミラ曰く、「私だってアルキオーネの家に泊まったことがない。リゲル様も泊まるとなるといよいよ私だけ泊まったことがないことになる。私は最初のお友だちのはずなのに」とのことだ。
こんなことを言われては二人を泊めざるを得ない。
ミモザもリゲルもミラも泊めるとなって怒りだしたのが、レグルスとアルファルドだ。
レグルスは「わたし以外と誕生日の夜を一緒に過ごすのは許せない。わたしもお泊まりに参加させてくれ」と言い、アルファルドは「俺は護衛。アルを危険から守らなきゃ」と言って騒いだ。
コイツら全員、何で俺の家に泊まりたいんだよ。
うちは夜景が見えるホテルでも、豪華な懐石料理がでる旅館でもない。
勿論、自慢の庭園が見える部屋と温かくふかふかなベッドと美味しい料理くらいは提供出来るが、ホテルや旅館と比べると普通だ。
だって、ここはごくごく一般的な貴族の屋敷なのだから。
俺は困ってしまった。
そんなに沢山の人を予定外に泊めていいものだろうか。
上手いこと断ることはできないだろうか。
唸りながら考えた。
しかし、それを見たお母様は「そんなに言うなら、皆、今日はお泊まりしていけばいいわ。ついでに豊穣祭も見ていったらいいじゃない」と言ってしまった。
流石はお母様、俺のできないことをさらりとやってのける。
そこにシビレて憧れればいいのだろうか。
それを聞いたミモザは不服そうな顔をしていたが、「二人きりで遊ぶといってもどうせ護衛も必要なのよね。別にお兄様がいても一緒だわ」と渋々頷いたのだった。
いや、兄妹だろ。
そもそも、今日泊まることをちゃんとリゲルに言っておいてくれれば、もっと穏便にことが進んだはずだ。
皆が急に泊まることになって一番不服なのはこの俺だ。
ミラとミモザはいいとして、何で男とも一緒に夜を過ごさねばならないのだ。
特にアルファルド。
アイツが泊まるとなると油断ができない。
アイツは俺の家にいるとき、何度も俺の部屋やベッドに入り込んできたんだからな。
今日、もしもそんなことをしたら、俺かアルファルドがレグルスに殺されるぞ。
そんな未来は絶対にやだからな。
なんとか避けなきゃな。
「あ、私、お姉様のお部屋で寝たい!」
考え込んでいた俺の腕にミモザが絡みつく。
ミモザは本当にスキンシップが多いな。
俺は微笑みながらミモザに目を落とす。
ミモザは無邪気な顔で笑う。
流石、本物の妹。女子力ならぬ妹力が高い。
俺はミモザのおねだりに思わず頷いてしまう。
「じゃ、私も一緒がいいわ。三人の方が楽しいと思わない?」
ミラも俺の空いている腕に抱きついた。
腕に柔らかい感触がする。
おお、この弾力がありつつも柔らかいものはおっぱいというやつじゃないか。
いいのか? 誕生日だからって出血大サービスしすぎじゃないのか?
前世では美少女巨乳のおっぱいなんて一生触れないと思っていたのに、女に生まれ変わったことで触れるようになったなんて。
神様に感謝しなければならないな。
ありがとう、神様!
「そ、そうですね。ベッドも小さくないですし、三人で眠れるとは思いますけど……」
思わず鼻の下が伸びそうになる。
ダメだ。今まで頑張ってきたアルキオーネのイメージが崩れてしまう。
アルキオーネはこんなところで鼻の下を伸ばすような変態ではないのだ。
もっと可愛くて優しいご令嬢なんだよ!
「やった! じゃあ、私はお姉様の隣がいいわ!」
「私はどこでも構わないわ」
「じゃあ、ミラ様は私の隣にしましょう!」
ミモザとミラはどんどん話を進めていく。
待ってくれ。
腕におっぱいが当たるだけでこんなになるのに、三人で寝て、俺の理性は大丈夫だろうか。
あ、おっぱい揉むくらいなら多少……許されねえよ。
いたいけな少女の胸は聖域なんだ。
揉んだらダメだ。殺される。
俺は頭を振った。
俺は視線を感じた。
何だか物言いたげにアルファルドがこちらを見つめている。
俺の邪念を感じ取ったのか?
そんな目で見つめないでくれ。
「羨ましい……」
アルファルドが呟く。
嗚呼、やっぱり、アルファルドも男なんだな。
女の子に囲まれている俺を見て、羨ましいなんて言うんだから。
俺は妙に納得した。
「俺も女なら……」
そう言いながら、アルファルドは自分の胸に手を当てる。
そして、自分の胸をじっと見つめてから、揉み始めた。
コイツは何をしているんだ。
そこを揉んでもお前の胸は大きくならないし、女にもなれないぞ。
俺はアルファルドの奇行を見守り続けた。
「何をしてるの? まさか、自分の胸が大きくなれば、アルキオーネと一緒に寝れると思ってるのかな?」
小馬鹿にしたようにリゲルが笑いながらアルファルドに話しかける。
アルファルドはムッとした顔をしてリゲルの方を見た。
「うるさい、馬鹿犬。吠えるな」
「へえ……君はそんなに怪我がしたいんだね」
馬鹿犬と呼ばれてカチンときたのか、リゲルは引きつった笑いのまま、そう答えた。
本当に何度喧嘩したら気が済むんだよ。
俺はため息を吐いた。
仕方ねえな。
コイツらの喧嘩が本格化する前に止めてやるしかない。
俺は息を吸った。
「あれ、いいな! リゲル、アルファルド、わたしたちも三人で寝るか?」
俺が声を発する前にレグルスが妙にハイテンションになって二人に尋ねる。
「は?」
「え?」
リゲルもアルファルドもレグルスの言葉にびっくりしたように目を見開いたまま固まる。
「せっかくのお泊まりだろう! 友だちと何処かに泊まるというのは初めてなんだ。寝るまで色々話をしよう!」
レグルスはキラキラとした瞳で二人を見つめた。
どうやら、友だちとお泊まりというのが初めてでテンションのメーターが振りきれてしまったらしい。
期待に満ちた顔で両手で拳を握ったまま、ぶんぶんと振り回している。
暴君俺様キャラのぼの字もない。
ただの無邪気な少年だ。
妹が言う「冷たさとデレのギャップ」という萌え成分が全てなくなっている。
俺はそれはそれで好ましいと思うのだが、この姿を妹が見たら何と言うのだろうか。
「いや、俺はちょっと……身長も高いし、体が大きいから」
「俺も……最近大きくなったから狭い」
「いいだろう! 頼む! こんなチャンスないんだ」
レグルスは二人に食い下がるように腕に縋った。
「だって、男三人が同じベッドは狭い……」
「狭くない!」
レグルスは必死に首を振った。
必死過ぎてちょっと怖い。
アルファルドはため息を吐いた。
「俺は一緒でもいい」
流石に可哀想に思ったのか、アルファルドは頷く。
「アルファルドはああ言ってるんだ。いいだろう?」
リゲルはアルファルドを「裏切り者め!」という目で睨んでから、困ったような顔で笑う。
「それって本気?」
「本気だとも!」
レグルスは大きく頷く。
リゲルは少し唸りながら頭を掻き毟った。
「アルキオーネ、ベッドって大きい?」
そして、こちらを向いて問う。
「え、ええ、それなりには」
急なパスに俺は驚きながら答えた。
リゲルはため息を吐く。
「分かった。それじゃあ、一緒でいいよ」
「やった! じゃあ、三人だな!」
レグルスは満足げに頷くと、メリーナの方へと走った。
三人を同じ部屋にしてもらうようにお願いに行くつもりなんだろう。
嬉しそうな顔のレグルスとは裏腹にリゲルとアルファルドはどんよりとした顔をしていた。
俺はリゲルとアルファルドに同情した。
男三人で一つのベッドに寝るとか何の罰ゲームだよ。
俺は嫌だな。
このときばかりは俺は女に生まれてよかったと思った。




