18.余計なことを言いやがる
パーティーが始まった。
俺は招待客に挨拶を済ますと、俺はすぐに皆の元に戻った。
一二三四……あれ?
そういえば、一人足りないぞ。
招待した「お友だち」は五人のはずだ。
ミラ、レグルス、ミモザ、リゲル……
俺は指を折りながら数える。
あと一人。
アルファルドがいない。
「あの、アルファルドは?」
「わたしは見ていないぞ」
「そうね」
俺の呟きに、レグルスもミラも頷く。
驚いたような顔をしていたのはジェード兄妹だった。
「アイツが来るのか?」
リゲルはあからさまに嫌そうな顔をしていた。
そういえばリゲルとアルファルドは犬猿の仲だった。
どちらも犬っぽいのに何でこうも気が合わないのか。
しかし、気の合わないという点においては、逆に合っている気もする。
「ええ。アルファルドもお友だちですので」
その言葉に反応したのはミモザだった。
「お友だちですって? 本当にただのお友だちなの?」
ミモザは冷たい目で俺を見つめる。
え、もしかしてお友だちはまずかったか?
ミモザはアルファルドが好きだからそんな顔をするんだな。
ミモザが嫉妬するするほどの仲でもないのだが。
「ええ、ただのお友だちです。手紙を出しても返ってこないんですけど、少なくともわたくしはお友だちだと思っています」
俺は頷く。
事実だ。
アイツに出した手紙で返ってきたものは誕生パーティーの招待状の返信ぐらいなものだ。
筆不精にもほどがある。
ここにもまだ来ていないみたいだし、嫌われたという可能性もあるが。
「そう。ただのお友だちならいいの。でも、害虫なら排除しなきゃ……ね」
ミモザは暗い瞳をしていた。
ミモザさん、顔が怖いんですけど。
しかも、排除って何されるんだ?
もしかして、殺されるの、俺?
ゲーム開始前にアルキオーネ死すとか、嫌だぞ。
俺が死んだら、ゲームのストーリーだって変わるぞ。
俺とアルファルドの間には、何にもないんだから殺すとかなしだぞ、ミモザ!
「そ、そんなわけないです。ただの友だちですから!」
俺は慌てて叫ぶ。
「違う。友だちじゃない」
背後から低い声がした。
誰だよ。
余計なことをいう奴は!
俺は振りかえった。
振り返ったのはいいが、俺は固まった。
「あ、あの、どちら様ですか?」
そして、思わずそう呟いた。
俺の背後にいたのは、銀髪に青い目の少年だった。
身長はレグルスよりも少し高いくらいだろうか。
中世的な顔立ちに、冷めた瞳をしている。
「忘れたの、アル?」
悲しそうに眉を下げる少年。
髪や瞳の色、その呼び方はまさかアイツじゃないよな?
「まさか、アルファルドってことはないですよね?」
俺は恐る恐る尋ねた。
こくんと小さく少年は頷く。
「そのまさか」
そして、そう呟く。
嘘だろ! 俺よりも小さくて、大きなくりくりとした可愛い瞳のあのアルファルドがこんなになって帰ってくるなんて。
可愛かった俺のアルファルドを返せよ!
「おお、アルファルド、遅かったじゃないか」
レグルスがアルファルドの肩を叩いた。
「ごめん」
アルファルドは俯きながら答える。
「あの……レグルス様、本当に彼はアルファルドなんですか?」
俺は信じたくない一心でレグルスに問う。
だって、見た目もそうだが、声だって全然違うんだぞ。
男の娘キャラじゃなかったのかよ!
「嗚呼、この二、三か月でグンと伸びたらしい。わたしもこんなに大きくなっているとは思っていなかったが……」
レグルスは頷きながらそう返す。
「成長期が来た」
アルファルドも付け足すように答えた。
「成長期でも、俺にはまだまだ届かないみたいだね」
リゲルが嬉しそうに笑う。
確かにリゲルと比べるとアルファルドはまだまだ小さく見える。
ただ、アルファルドに限ったことではなく、俺たち全員、リゲルよりも小さい。
俺たちからすれば、リゲルが無駄に大きいだけだ。
しかし、リゲルは勝ち誇ったような顔をしていた。
「無駄吠えするな」
アルファルドはリゲルを睨みつけた。
「俺は犬猫じゃないんだけど」
リゲルもアルファルドを睨みつける。
どちらも引かぬ睨み合いが始まった。
面倒臭いことになったぞ。
オレはどちらに味方をすることもできず、ただ二人の睨み合いを見つめた。
均衡を破ったのはミラだった。
「あ、あの、つかぬことお聞きしたいのですが、アルキオーネと……そこのアルファルド様はどういう関係で?」
ミラが興味深々に尋ねる。
待てよ、ミラ。
その話題は忘れてくれていいんだよ。
なんで掘り返すんだ。
俺は突き刺さるような視線を感じた。
そちらを見なくても分かっている。
視線の主はミモザだ。
「私もどういう関係だか聞きたいわ」
邪悪な声が聞こえた。
ミモザさん、声が低いです。
アルファルドと一緒で声変わりが来たんですね。
まさか怒っているわけじゃないですよね。
「いや、お友だちですから!」
「違う」
アルファルドが即答する。
「いえ、お友だちです! 信じてください!」
「違う」
「アルファルド、誤解を生むようなこと言わないで下さい!」
「だって、友だちじゃない……」
嗚呼、もう、執拗いな。
だから、余計なことを言って、話をややこしくするんじゃねえ!
俺はアルファルドを睨みつける。
アルファルドはキョトンとした顔をしてから、笑顔を作る。
相変わらずぎこちない笑い方だ。
「へえ……見つめあったりして、そういう仲なんですね」
ミモザの低い呟きが聞こえる。
あ、俺、死ぬかもしれない。
いや、死んだ。
「友だちじゃなければ何なのか、わたしも知りたいな。説明してくれ、アルファルド」
レグルスも微笑みながら呟く。
こちらも瞳が全く笑っていない。
もしや、レグルスさんも血祭りに参戦されるおつもりですか?
俺は味方を求めて周りを見回す。
ミラはにこにこしてるし、レグルスもミモザも笑顔だけど怖いオーラを放っている。
最後の良心であるリゲルはアルファルドを睨みつけたままだ。
どうやら誰も俺の味方をしてくれる奴はいないようだ。
俺は戦々恐々とした。
アルファルドの答え次第では、俺は死ぬ。
みんなが見守る中、アルファルドは口を開く。
「護衛、騎士、ナイト。だから、友だちと違う」
あっさりとアルファルドは言ってのけた。
そっちかよ!
まだ諦めてなかったのか。
拍子抜けして力が抜ける。
「それは断ったでしょう」
「気持ちは受け取るって言った」
「言ったけど、断りましたよ!」
「強くなったのに……」
アルファルドは下を向く。
そんな顔するなよ。
大きくなっても、アルファルドはアルファルドのままだな。
「えーっと、つまり、アルファルド様がアルキオーネの護衛ということかしら?」
「違います! 護衛はアントニスだけです。アルファルドの場合は自称です。本当にただのお友だちなんです」
俺は頭を振った。
誤解が解けるなら首が取れてもいいかもぐらいの気持ちで振り続ける。
お友だちで充分じゃないか。
なんでアルファルドに守られなければならないのだ。
「そっか……じゃあ、アルファルド様は押しかけ騎士なのね」
ミモザは納得したように呟いた。
「押しかけ騎士……なるほど」
レグルスは小さく呟くと頷いた。
腑に落ちたようで何よりだ。
しかし、アルファルドの発言に落ち着いたミモザとレグルスとは眼光の鋭さを増す男がいた。
リゲルだ。
今度はなんでお前が怒っているんだよ。
「アルファルド、いいかい? アルキオーネの背中を守るのは俺だからね。譲る気はないよ?」
痺れるような威圧感を放ちながらリゲルは微笑む。
顔は笑っているが、人を殺しかねないような凶悪な顔だ。
先ほどのミモザやレグルスが可愛く見える。
アルファルドは首を傾げた。
そして、考え込んでから表情を明るくする。
何か思いついたようだ。
「じゃあ、お前ごとアルを守るから大丈夫」
明るい顔でアルファルドは頷いた。
リゲルの眉間に深い皺が刻まれる。
「馬鹿にしてるのかな?」
「してない。おまえはアルキオーネの背中を守る。俺はアルを守る。結果、俺はおまえごとアルを守る。そうでしょ?」
アルファルドは同意を求めるようにリゲルに尋ねた。
リゲルはひくひくと顔を引き攣らせて微笑んだ。
そして、アルファルドにグイッと顔を近づける。
「違うだろうが。それなら俺がお前ごと守ってやるよ」
低い声でリゲルは凄んだ。
目が戦っているときのリゲルの目になっている。
やばい。このままだとうちの屋敷で血の惨劇が起きる。
いや、そもそも、俺にはアントニスという護衛がいるのに二人は何を言っているんだ。
そうだよ。
俺にはちゃんと護衛がいるわけだし、コイツらに守られる必要なんてないんだ。
ちゃんと断ってやろう。
俺は慌てて二人の間に入り込んだ。
「あ、あの! わたくしはアントニス以外に守られる気はありません。だから、リゲルも、アルファルドも、わたくしを守る必要はありませんから!」
二人は顔を見合わせる。
「敵はお前じゃないようだな」
「嗚呼」
二人は頷く。
「ねえ、アルキオーネ、アントニス殿は何処に?」
「え?」
「隠しても無駄。全力で探す」
アルファルドは辺りを見回す。
「多分、離れたところでわたくしを見守っているはず……」
「いた!」
リゲルは叫ぶ。
「先に行く」
リゲルの指す方にアルファルドは走り出した。
「おい、抜け駆けするなよ!」
リゲルはアルファルドを追いかけた。
「あ、二人とも、何処に……」
二人は俺の声を無視してアントニスめがけて走っていった。
おいおい、アイツら、実は仲良しなんじゃねえか。
「嗚呼、アルキオーネったら火に油注いで……」
「ホント、お兄様が可哀想だわ」
ミラの呟きにミモザが頷く。
「え? わたくしはどちらかというと消火活動をしようと……」
「いや、あれは逆効果だとわたしも思うぞ」
レグルスは首を横に振る。
そんなつもりはないんだけどな。
俺はため息を吐いた。




