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後編

 

 王宮の大広間はしん、と静まり返っていた。


 まぁ、暗黙の了解ともいえる公然の秘密だったものが、ようやく公にされただけだけど。


「今日の卒業を待って、正式に侯爵家の者として処分する手はずになっていたのに」


 すでに侯爵家へと籍は移っているけど、なんせ本人が理解していないから処罰を与えようにも侯爵がしゃしゃり出てきて話にならなかった。侯爵もバカが処罰されると自分も連座だとわかっているから、表面上は守りに入っていたし。


 当人である侯爵は最初はニヤニヤして見ていた、というか王族の血が流れているはずのない自称王太子(バカ)を止めない時点で貴方も国家反逆罪に問われるのに、なんでそんなに余裕綽々で笑ってたのかしら。今は拘束されて跪き、真っ青な顔でバカを見ていた。


 知ってるのよ。(バカ)を止めるどころか次期国王と持ち上げて増長させていたこと。


 卒業してデビューしたら成人。自分のやったことに対して責任を負う歳。王宮で国王に謁見するデビューで全てを片づけてしまおうとしていたの。そしたらバカに会うのは一回ですむもの。本当はその前なら一番良かったのだろうけど、バカはバカをやらかしすぎたわ。隠しようがないほど。これほど自業自得という言葉がお似合いなバカも珍しいわよね。


「……じゃぁ、お前はなんなんだ」


 ぽつり、と上がったその声はバカのもの。最初のとは違い勢いも大きさもない小さな声。というか、ようやくそこに想い至ったの?


「お前呼ばわりとは不敬である!!」


 バカを押さえつけてる近衛騎士隊長が……ちょっと、隊長自らなにやってるの。え? 団長もいるの? あー、副団長が使い物にならないからと言っても、わざわざ団長がすることじゃないと思うの。だから、男爵令嬢(ビッチ)を離しなさい?


「このお方は国王陛下の第一子であらせられ、また立太子なされるルナリディア王女殿下である!」


 そうなのよね。私がこの国唯一の王女なのに、あのバカが殿下なんてありえないのよ。


「……は? なに、を」

「わたくしはルナリディア第一王女。だからあなたと婚約した覚えもないし、そちらのご令嬢になにかしたこともないわ。ああ、もちろんあなたを愛したこともなければ近づこうとしたこともないわ。する意味がないもの」

「…………は」

「うそよぅ! しっとしてわたしをいじめたじゃないのよぅ! でんかをとられるとおもったんでしょう!」


 子供の方があなたより聞きやすい言葉を話すと思うわ。


「王女であるわたくしがあなたに嫉妬する意味がない、と先程も言ったのだけど。あなたには耳がついていても、理解する頭脳が優秀じゃないのね」


 残念だわ。とため息を添えて呟く。


 嫉妬、ねぇ。幼いとしかいいようのない顔立ちは、目ばかり大きくてアンバランス。前か後ろか判断がつかない身体つきなのに、胸元がざっくりあいたデザインのドレスは不恰好すぎる。


 こんな残念な方のどこに嫉妬したらいいのかしら。


「あなた方は不敬罪が確定しているわ。王子を自称していた身分詐称、そして脅迫罪、暴行罪その他諸々で投獄。そしてそれを諌めずむしろ唆した教唆罪。よかったわね、仲良く牢で反省なさって?」


 その言葉の意味を察したのか、近衛騎士隊長と騎士団団長がバカ達をひとまとめに縛り上げた。当然口には枷。うるさいんだもの。


「それでは皆様。パーティーを始める前に、私からひとつ」


 バカ達を連れていく前に、これだけは言っておきたいのよね。私が視線を向けると、心得たとばかりに彼が私の隣に立ってくれた。


「彼は、私の最愛であり、婚約者であり、また私が女王の座についた暁には王配となる、隣国の第二王子殿下です」


 淡い金髪に深い緑の目。整った顔立ちは優しく微笑んでいる。王族としての立場をきちんとわかっているから、姿勢を正して私をエスコートしてくれている。

 バカが驚きで目を見開いているけど、まだ現実が見えていなかったのかしら。お隣のご令嬢は彼を見てうっとりとしているけれど、今の自分の状況がわかっているのかしら。


「リオンです。わたしが持つ隣国の王位継承権は放棄して参りました。ルナリディア第一王女を第一に、愛し、敬い、大切に致します。ルナ、わたしと結婚して下さいますか」

「もちろんですわ」


 これでめでたしめでたし、なはずよね?




 あれからどうなったかというと。簡単に言えば、私は立太子してリオンと結婚したわ。二人でいる時間も欲しいし子供だって授かりたいから、国王であるお父様にはまだまだ頑張ってもらうつもり。


 あのバカ達は、一緒の牢で反省を促したつもりだったのだけど、お互いに罪を擦り付け、最後には掴みあっての殴り合いになったわ。ご令嬢は隅で震えていたそうだけど、「わたしは悪くない」と言い張っていたので、情状酌量の余地はないわね。


 結果的にバカとバカの祖父である侯爵、その二人は侯爵家の地下牢に生涯幽閉。他の取り巻きはそれぞれの領地に蟄居。ビッチなご令嬢は魔の森近くの修道院に監禁されることになった。常時結界が張ってある所だから逃げることはできないだろう。男にちやほやされ続けた彼女が、女の園でどれだけ我慢できるかしら。


 これを機にお花畑脳から目覚めればいいのだけど。……無理かしら、ね?



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