第24話 本望
ケルベルスの尾も動きを止め、ゼインごと床に落ちた。
そして、ケルベロス本体も、ドサッ、と音を立てて倒れる。シオンもその動きに巻き込まれて倒れ込んだ。
「くっ」
だが、直ぐにそんな声が漏れ、シオンの身体が動いた。
タイミングは完全に相打ちだった。だが、シオンだけは致命傷を免れていた。それは、シオンが仲間たちにも隠していたある能力の効果ゆえだった。
ともかく、命を拾ったシオンは、どうにか立ち上がり、直ぐにゼインの下に駆けつける。
ゼインも、まだ生きてはいた。しかし、左肩に牙を突き立てられ、何度も何度も全身を床や壁にぶつけられ、体中の骨が折れ、虫の息だ。そして、それだけではない。
シオンは倒れ伏すゼインの傍らに跪く、すると、蛇頭に咬まれている左肩周辺が、どす黒く変色している事に気付いた。
(毒!?)
そう考え、急いでゼインの肩を咬む蛇頭を外す。
「あ、ああぁ」
ゼインは、最早意識も朦朧としているのか、そんな声を漏らした。
(これは、もう……)
人の死を身近に見る事を何度か経験していたシオンには、その事が分かってしまった。
それでもシオンは、ゼインの頭を自分の胸元まで引き寄せて抱きしめ、必死に声をかける。
「ゼイン、ゼイン、しっかりしろ。敵は倒した、俺たちの勝ちだ。しっかり、しっかりしろ! ゼイン!!」
ゼインも意識を取り戻し、シオンに顔を向け、途切れ途切れに告げる。
「あ、ぅ、シ、シオン。そ、そんなに、さわぐな。こうなる事は、分かってただろ。弱い俺が、お前と一緒に戦えば、俺だけ死ぬ。分かっていた、ことだ。そうならないように、俺を、追放したんだろ? 分かっていたよ。俺だって。お前が、俺を、死なせない為に、追放したんって、な。
でもよ、俺は、それでも、お前と一緒に、戦いたかった。俺だけ死ぬことになっても。だって、俺たちは、ずっと、一緒だったじゃないか。一緒に、2人で、伝説になるんだって、そう言って、一緒に、冒険者に、なって……」
「ゼイン、ゼイン」
シオンには、もう友の名を呼ぶことしかできなかった。
「だから、俺は、本望だよ。お前の、腕の中で、死ねるなら……」
「馬鹿な事を言うな! ゼイン。お前が、それで良くても、俺は、残された俺は、どうなるんだ、ゼイン、しっかりしろ!!」
そんなシオンの声を聞きながら、ゼインは静かに目を閉じた。
バシャ
直後にそんな音が響く、ゼインとシオンに、水が浴びせかけられていた。
そして、随分と冷えた声が聞こえた。
「何やら2人して盛り上がっているが、まさか、私の事を忘れているのではあるまいな?」
“治療師”の声だった。
そして、見る間にゼインとシオンの傷が治って行く。ゼインを冒す毒の効果すらも速やかに消えていき、数瞬の後には、両者は共に全快していた。
更に“治療師”が、冷めた口調で続ける。
「で、そなたら、いつまでそうして抱き合っているつもりだ?」
シオンはゼインを抱きしめたままだった。
「あ、ああ」「いや、これは……」
そんな事を言いながら、2人は互いに身体を離して立ち上がった。
“治療師”がゼインに向かって告げる。
「戦士殿よ。そなたが、随分強い意志をもって敵に立ち向かったのは事実だ。それには敬意を表しよう。だがな、実際のところ、そなた程度の技量であの魔物の蛇頭と渡り合えたのは、私が霊薬で支援していたからだ。その事を忘れるな」
実際“治療師”は2人が戦っている間支援を途切れさせてはいなかった。特に、技量に劣るゼインがあそこまで粘れたのは、本人の不屈の意思に加えて、確かに“治療師”の支援あったればこそだった。
「ああ、分っている。ありがとうよ」
ゼインはそう答えた。
更に“治療師”は、シオンとゼインの2人に交互に目線を向けてから告げた。
「一応聞いておくが、そなたら、ひょっとして、男同士で好き合っているのか?」
「ち、違う!」「馬鹿な事をほざくな!」
2人はそろって否定する。
「そうか? 先ほどは随分とおかしな雰囲気を出していたぞ。
人の趣味にとやかく言うつもりはないが、私は同姓で愛し合うなどという事を好まない。見るのも聞くのも不快だ。だから、男同士で乳繰り合うなら、私のいないところでやってくれ」
「だがら、違う」「そ、そんなんじゃあねぇよ!」
「ならば、それで良い。
まあ、とにかく、身体は治っているのだ、ぐずぐずせずに、直ぐに広間を探索してみよう。ケルベロスもまた、デーモンと同じ異世界の存在。このケルベロスはデーモンが番人として召喚しておいたものだろう。番人を置いておくという事は、この場に相当重要な何かがあるという事だ。
得られるものは手掛かりどころではないかも知れない。心して探す必要がる」
「分かりました」
「おお、分った」
シオンとゼインはともかく同意する。
3人はケルベロスの死体を越えて広間に入り、改めて探索を開始した。




