第19話 偽りの強さ
「はッ、何が偽りの強さだ。どこぞの司祭様みたいな綺麗ごとをほざきやがって」
ゼインが発したその言葉を聞き、シオンは眉をひそめた。『どこぞの司祭様』という言葉が、図らずも正鵠を射てしまったと思ったからだ。
だが、シオンが止める間もなく、ゼインが言葉を続ける。
「どんなものだろうが、強さは強さ、力は力だろうが、強さに偽物も本物もねぇ。強ければいいんだ。それだけだ」
“治療師”が即座に言葉を返す。
「確かにそれも、一面の真理ではある。如何なるものでも強さは強さ、力は力、だ。だがな、私が問題にしているのは、それが誰の力、誰の強さか、という事だ。
よいか、誰かから授けられた強さは、授けた誰かの強さだ。授けられた者の強さではない。だから、強さを授かった偽暗黒神信者や愚者にとっては、本当の自分の強さではない。そのような意味で偽りなのだ。即ち、他者から与えられた力は、他者の力であって与えられた者の力ではない」
「その言い草が、綺麗ごとで、下らねぇ理屈だってんだよ」
「いいや、理屈や理念上の問題ではない。もっと現実的は話だ。考えても見よ、誰かから授けられた強さは、その誰かによって簡単に剝奪される。それが当然ではないか?
もしも授かったものが武器や道具などの形ある物なら、持ち逃げして自分のものに出来るかも知れない。だが、何らかの方法で他者によって授けられた力や強さ、或いは特殊能力などが、その後も永遠に自分のものになるとなぜ保証できる?
他者に力を授けるなどという事が可能な者ならば、当然いつでもその力を取り戻せる。それが普通だし、そう考えるのが当たり前だ。授けられた者から見れば、いつでも奪い返されてしまうという事だ。
他者の意思で、いつでも奪われてしまう強さ。そんなものが、授けられた者にとって本当の強さだと思うか?」
「……」
「偽暗黒神信者が己の娘まで生贄に捧げる羽目になった理由は、多分それだ。与えられた強さによって、名声を得て、富を得て、貴族家の婿養子にすら成れそうだった。そんな状況で、与えられた強さを剥奪された。今の自分の基となっている強さを、な。
そして、再び強くなるには、生贄が必要だと言われ、最早後に退けなくなっていたから、言われるままに生贄を捧げた。繰り返し何度もだ。
結果、本当の極悪な犯罪者となってしまい、更に後に退けなくなった。だから、ついには己の娘すら手をかけた。
実際、先ほど精霊剣士殿が言っていただろう、生贄の女童に短剣を刺すまで、偽暗黒神信者は弱かった、と。その時点では、強さを奪われていたのだ。
つまり、他者から与えられた強さに縛られ、操られていた。それは、自身の自由になる本当の強さではなく、むしろ自身を縛る枷だ。これを偽りの強さと言わずして何という?
繰り替えずぞ。他者から与えられた強さは、与えられた者の強さではない、与えた者の強さだ。与えた者の意思で、いつでも剥奪出来るに違いないのだからな」
「……それでも、俺は強さが欲しい。誰かに与えられたものでも。強くなりたい。強くなれれば……」
その言葉を聞きシオンは、なぜゼインが“治療師”に食って掛かったのか分かった気がした。ゼインは、自分がアクセルと同じ立場になった場合、自分も強さを授かろうとする。そう実感していたのだろう。だから、その行為を愚行と切り捨てる“治療師”の言葉が気に食わなかったに違いない。
“治療師”は更にゼインに告げる。
「勘違いをするなよ。戦士殿。誰かから力や強さを授けて貰う事は、自分が強くなるのではない。強くして貰う事なのだ。言い換えれば、誰かの作品になるという事だ。誰かが、そなたを素材にして、強い者を作るということだからな。間違っても、そなたが強くなるのではない」
「それでも、それでも、俺は強さが欲しい。もしも、そんな機会があったなら、俺は……」
「それが戦士殿の判断なら、無理に止めるつもりはない。だがな、一つ忘れるな」
“治療師”は、そう告げると、手袋をはめたままの右手の人差し指を立てて、ゼインの前に突き付ける。そして、言葉を続けた。
「仮に今後、誰かに強さを授けて貰うなどという機会があったとしも、そなたが他者から与えられた力は、そなたの力ではない。それだけは忘れるな。
だから、頼むからその強さを『俺の強さ』などと嘯くのは止めてくれ。それは、余りにも痛々しすぎる。
そなたが、自分の強さと言えるのは、自分自身の鍛錬と経験の結果得られたもののみだ。そこに加えるならば、父母より受け継いだ生来の素質。それが、本当の自分強さの全てだ。他者に授けられた力、強さ。それは、そなたのものではない」
「……」
ゼインは、反論の言葉もなく沈黙した。




