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第10話 神前決闘

 決闘の日時は改めて設定された。

 そして、その日には多くの観客が決闘の場に集まった。

 トゥーゲル神殿が宣伝したからだ。神前決闘で話題を作り教団の存在を誇示したいのではないか、というシオンの推測は正解だったようだ。

 その観客の中には、当然シオンのパーティメンバー達もいた。


 多くの観客の前で、シオンとアクセルは向かいあう。

 シオンはバスタード・ソードを、アクセルはロングソードを手にしている。といっても、いつも使っているものではなく、刃を潰した練習用の物だ。殺し合いをするわけではないので当然である。


 ちなみに、戦いは剣で行われるものとされ、錬生術と呼ばれる身体強化などを成す術以外は使用禁止とされた。死亡事故の可能性を下げる為の措置だという。

 剣だけではなく精霊術も用いて戦うシオンにとって不利なルールだ。


 だが、シオンは、このルールを了承した。自分にとって不利なだけではないとも思ったからである。


(アクセルが急に強くなったのは、きっと、何らかの特殊な術を使っているからだ。もしそうなら、それを試合中に暴く事で、このルールに抵触したとして反則負けにする事が出来る)


 シオンはそんな目論みももっていた。


 やがて、ルールの説明を終えた審判役の司祭が試合の開始を宣言する。


「双方、尋常に、試合開始!」


 シオンは、ロングソードを構えるアクセルに鋭い目線を向け、その様子を改めて油断なく窺った。

 対するアクセルは、試合が開始されても不敵な笑みを浮かべている。 

 しばし、にらみ合いが続いた。


(構えは前から変わっていない。少なくとも強くなった様子はない)


 そう判断しつつも、シオンは侮ってはないなかった。最近のアクセルが、少し前には到底倒すことなど出来なかった魔物を倒しているのは事実だからだ。

 今のアクセルには、以前はなかった何かがある。そう思っていた。


(だが、このままにらみ合っていても始まらない)


 そう考えたシオンは、素早く前進し、袈裟切りにバスタード・ソードを振るう。まずは、様子見の一撃だ。

 アクセルは、その一撃を半歩退いて避けた。


(速い)


 シオンは瞠目した。アクセルの動きが知っているものに比べて明らかに速かったからだ。

 続けて放った斬り返しもやはり容易く避けられる。


(体さばきとか、間合い、先読み、そういう技術ではない。単純に体を動かすのが速い)


 シオンはそう見て取った。単純に身体能力で避けているのだ、と。そのような身体能力は、今までのアクセルにはなかった。

 だが、芸がない身体能力によるものでも、回避に優れているという事実に変わりはない。実際、続けて放ったシオンの攻撃も尽く避けられる。


(このまま、守りを固められては埒が明かない)


 そう考えたシオンは、アクセルを挑発してみることにした。


「どうした? 逃げてばかりでは勝てないぞ。また、怖気づいたのか?」


 我ながら安い挑発だと思ったが、咄嗟にはそのくらいしか思いつかなかった。

 だが、効果はあったようだ。


「誰がッ!」


 アクセルはそう口にして、攻撃に移った。ロングソードを真上から振り下ろす。

 それは予想内の動きだった。やはり、以前の攻撃よりも速い。しかし、それも想定内だ。シオンは、バスタード・ソードでロングソードを上手くいなし、隙を作って攻撃しようとした。 


「ぐッ!」


 だが、シオンはそんな声を漏らした。アクセルの攻撃は想定以上に重かったのだ。

 剣さばきだけではいなせず、身体を右に動かして辛うじて避ける。しかし、続く振り上げは避けきれなかった。

 ロングソードがシオンに左腕を掠めた。直撃ではない。しかし、それでも無視できない衝撃が走る。


 シオンは背後に跳び距離をとる。

 アクセルは追撃しなかった。代わりに、また余裕有り気な笑みを浮かべながら告げる。


「どうした? 顔色が悪いぞ。あんたこそ、びびってるんじゃあないか?」


「……」


 シオンは答えない。問答をしている余裕はなくなっていた。


「じゃあ、こっちから行かせてもらうぞ」


 アクセルはそう言うと、猛然と攻撃を開始する。

 シオンは守りを重視することにした。そうやって時間を稼ぎ打開策を探るつもりだ。しかし、それでも幾つもの攻撃がシオンを打つ。真剣ではない為致命傷にはなっていないが、ダメージは積み重なって行く。


 打開策は思い浮かばない。

 実はシオンには、仲間達にも秘密にしている戦法があった。だがそれは、今のような試合で使えるものではない。そして、他に手は思いつかない。

 シオンは必死に回避を続けた。


(この動き、どこかで……)


 アクセルの攻撃を受け続ける中で、シオンはその攻撃に覚えがあるような気がしていた。だが、それが何時だったか思い出す前に、アクセルから渾身の力を込めた攻撃が放たれる。

 

「くッ!!」


 また、声が漏れる。

 シオンはその攻撃を辛うじてバスタード・ソードで受けた。が、上手く捌けず、衝撃が走り、隠しようもないほど手に痺れが残った。


 ロングソードがまた振るわれる。

 それは、シオンのバスタード・ソードを狙っていた。

 避けることも、上手く受ける事もできず、バスタード・ソードが強打される。シオンの手は、再度の衝撃に耐えられなかった。バスタード・ソードが弾き飛ばされ宙を舞う。


「それまで! 勝者、冒険者アクセル」


 審判役の司祭がそう叫んだ。

 武器が失われた時点でシオンの敗北と判定されたのだ。

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