表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(性的に)呪われた騎士を救えと言われても、テニスラケットしか持ってません!  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/88

3.呪われた騎士


 次の日、わたしは朝早くから騎士エスターの訪問を受けた。


「ユリ様、この度は誠にお世話になりました。御礼に、私にできることでしたら、何なりとお申し付けください」

 ひざまずき、頭を垂れるエスター。


 うーん、騎士様にひざまずかれてお礼言われるとか、異世界を実感する。

 この部屋自体、どこの宮殿? という壮麗さで、わたしは昨夜、人生初の天蓋付きベッドで眠った。壁にもタペストリーやお高そうな絵画などが飾られていて、こんな部屋に泊まれるの、最初で最後だろーなーと思いながら眠りについた。

 まあ、異世界に召喚されること自体、最初で最後だろうけど。


 わたしは、ひざまずく騎士様に、にこやかに言った。

「いえいえ、そんな、気になさらないで下さい。わたしはただラケットを振っただけですし、ちゃんと元の世界にも帰していただけるというお話ですから」


 ていうか、こんな珍しい体験させてもらえて、かえってラッキー! という気がする。

 楽しいミステリーツアー(しかも無料)を堪能させていただきましたありがとー! って感じだ。


 エスターは立ち上がり、キラキラの笑顔で言った。

「寛大なお言葉、感謝いたします。ユリ様は、強大な魔力をお持ちのうえ、お優しい方なのですね」


 何もかも的外れな賞賛に、わたしはハハハと乾いた笑いを返した。

 社交辞令にしてもあり得ない。強大な魔力ってナニ。それに、ラケット振っただけで優しいとか。


 だが、世にも稀なるイケメン騎士が、勘違いとはいえ褒めてくれているのだ。その気持ちだけは、ありがたく受け取りたい。


 わたしはエスターに案内され、食堂に連れていかれた。

 一階に、城勤めの文官や騎士たちが食事をする大広間があるらしい。

「大きなお城なんですね」

「王城ですから」

 さらりと返された言葉に、わたしは仰天した。


 まるで宮殿みたいだと思っていたが、ここは本当に、本物の宮殿らしい。

「私は呪いを受けて以降、こちらに足止めされておりました。しかし、まさか異世界からの召喚が計画されていたとは夢にも思わず……、ユリ様にはご迷惑をおかけ致しました」


 わたしは隣を歩くエスターを見上げた。

 最初に見た時から、特にどこか変わったようには思えないのだが。


「あの、エスターさんが受けた呪いって、一体どんな……?」

「どうぞエスターとお呼びください」

 恭しくエスターが言う。


「私が受けた呪いは……、その、剣を振るうと、体に不具合が起こるというもので……」

 言いづらそうにエスターが呪いについて語る。

「戦わなければ問題はないのですが、私は騎士ですし、魔女との戦いは熾烈を極めます。次に魔女が目覚めるのはおよそ一年後、それまでに何とかしてこの呪いを解かなければ、と焦っておりました。あらためて御礼を申し上げます」

 足を止め、礼儀正しく頭を下げるエスター。


 わたしは首を傾げた。

 よくわからないが、騎士なのに戦えない呪いなんて、それはさぞ困っただろう。

「呪いが解けてよかったですね!」

 まるきり他人事だが、まあ、良かった良かった。

 さー、朝食たべたら帰るぞ!

 と思ったのだが、


「ユリ様、王弟ラインハルト殿下がお見えです」

 ふわふわの白パンの美味しさを堪能している最中、使用人らしき人物からとんでもない事を告げられ、わたしは思わずむせた。


「……え、おう……? 王弟? 殿下って。え、どうして?」

「ユリ様」

 慌てるわたしに、エスターが言った。


「ラインハルト様は、ユリ様を召喚された筆頭魔法騎士ですので……」

「え、王弟殿下が?」

「はい……」

 エスターが困ったような表情で説明してくれた。


 なんでも、この国の王弟、ラインハルト・ロージャ様は、大陸一と称されるほど優秀な魔法騎士で、魔力量も規格外に多いのだとか。

 実質、騎士エスターとラインハルトの二人でもって魔女を封印したのだが、その際、呪われてしまったエスターに、ラインハルトはいたく心を痛めたらしい。


 なんとかエスターの呪いを解きたい。そう思ったラインハルトは、秘密裡に魔法使い達と異世界召喚の準備をすすめ、そして昨日、わたしを見事、召喚するのに成功した。

 が、その召喚で膨大な魔力を消費したラインハルトは倒れてしまい、先ほどまで寝込んでいたらしい。


「え、じゃあその王弟殿下が、わたしを元の世界に帰してくださるんですか?」

「はい、主要な魔力はラインハルト様からいただくことになるでしょう」

 当然のようにエスターは言うが、うーん、さっきまで寝込んでた人にそんな事させて大丈夫なんだろうか。わたしが不安に思っていると、


「そなたが異世界の魔法使いか」

 大広間の入り口に、王弟ラインハルトらしき人物が現れ、わたしに声をかけた。


 エスターが立ち上がるのにつられ、わたしも席を立った。

「殿下」

 エスターが一礼する。

 殿下ってことは、本当にこの方が王弟なのか!

 わたしは失礼にならないよう、ラインハルトをそっと見た。


 ラインハルトは……、可愛かった。


 わたしの胸くらいまでの身長、肩で切りそろえられた黒髪に、吊り気味の大きな赤い瞳を持つ、美少女にしか見えない容姿をしている。

 かわいい、と思わずつぶやくと、隣に立つエスターが微妙な表情になった。不敬だと思われたのかもしれない。


「異世界の魔法使いとやら」

 話しかけられ、わたしは慌てて頭を下げた。

 ど、どうすべきなんだろ。ひざまずいたほうがいいのかな。


 ラインハルトの靴音が近づき、わたしの目の前で立ち止まった。

「頭を上げよ」

 そろそろと顔を上げると、美少女顔の殿下が、じっとわたしを観察するように見ていた。


「異世界の偉大な魔法使いのはずだが、まだ年若いようだな」

 いや、それあなたに言われても。


「……ともあれ、私からも礼を言う。騎士エスターは、私の身代わりとなって呪いを受けたゆえ、心苦しく思っていたのだ」

 ラインハルトの言葉に、わたしは思わずエスターを見た。


 身代わりって、そんなの初めて聞いた。


 エスターはすっと膝を折り、ラインハルトに言った。

「騎士が主をお守りするのは、当然のこと。殿下がそのように気に病まれる必要などありませぬ」

「よい。立て」

 ラインハルトがエスターの肩に手をかけた。

 と、ラインハルトは動きを止め、いぶかしそうな表情になった。


「待て、エスター。これは……」


 ラインハルトはエスターの肩や頭、背中などをぺたぺたと触った。可愛い。じゃなくて、

「おかしい、これは……」

「殿下?」

「呪いが、消えていない……?」

 ラインハルトの言葉に、エスターは顔を強張らせた。


「まさか、そのような」

「いや、表面上は解呪できているが、根が消えていない」

 ラインハルトは可愛らしい顔を歪め、言った。


「……おそらく、エスターが受けた呪いは、魔女の命と繋がっているのだ。表面上は消えたように見えても、剣をふるえば再び呪いはその身を蝕むであろう」

「なんと、それでは……」

「うむ。戦いのたびに、解呪をする魔法使いが必要となる」

 二人はそろってわたしを見た。


 ……なんか、イヤな予感がする。

 いや、その、わたし、帰りますんで。

 問答無用のミステリーツアーは、ここまでということで、よろしくお願いいたします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ