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遥かなるエトワール。


 未来の自分の肖像画と姿見の鏡に映る自分と何度も見比べてみる。

 特徴を得た肖像画は良く描かれていて、意地の悪そうな笑みが嘲笑うかのように私を見ている様に感じられて咄嗟に視線を床に落とした。


 「…嘘でしょ…?頭混乱してきた…」


 眩暈がしそうだ。小さな手で額を抑えて無機質な床を睨み付ける。

 

 アンジェに関わる人物の名前を思い浮かべる度にこの世界は確かに前世の私がプレイしていたゲームの世界なのだと思い知らされる。


 婚約者のレティクス・ヒュウ。トゥルク王太子殿下。

 彼は乙女ゲーム「遥かなるエトワール」の攻略対象のメインキャラだ。


 兄のカティスも攻略対象で間違いない。

 8歳の時点で攻略キャラに囲まれてるなんて地獄か!!寧ろ地獄以外なんと例えていいのかすら今の思考じゃ考えられないし、考えたくない。


 この「遥かなるエトワール」での私の立ち位置は悪役令嬢。

 スチル全開放の為に睡眠時間を削り倒してプレイしていたし、攻略ノートなる自作のノートまで作ってやり込んで居た過去が役にたつなんて前世の私は考えてもなかっただろう。





 遥かなるエトワール。

この物語は主人公、アリス・エトワール・リュミエが貴族が集う学園、クラリス王立学園に入学する所から始まる。アリスは下位貴族である地方の領主、リュミエ男爵の末っ子で王都にある学園に通う身分では無かったが、13歳で受ける魔力適正検査で非常に珍しい光属性の適応が確認され、特例で王都の学園に入学が許された。

 

 容姿は大きなオレンジ色の垂れ目、夕焼けが降りかかった様な濃い橙色がウェーブを描いている。

所謂、ゆるふわ。私が勝気な美女ならこちらは甘い可愛い雰囲気で優しそうな美少女だ。


 物語の内容は魔法に勉学にと勤しみながら、時として難題に立ち向かい、攻略対象と恋模様を楽しみつつ学園の最高峰であるミス・クラリスになる事。ミス・クラリスになると叶えられる範囲で何でも願い事を一つ叶えて貰えるという物。

 勿論、その願い事は愛しい彼と幸せな未来を、が定番だけれど。


 在り来たりな定番の乙女ゲームのあらすじなんだけれど、このゲームが他の乙女ゲームと違う所がある。

 それは選ぶルートで全然物語がとんでも方向に行く所である。


 王太子ルートを行けば学園でのすったもんだののちにミス・クラリスに選ばれ王太子妃。

 カティスルートを選べば年の差なんのその学園で嵌められた罠で記憶喪失になった主人公を兄が拾い献身的に面倒を見て云々かんぬん、公爵家の妻。


 他にも攻略対象が4人程居るが全員が全員ストーリーが全く違うのだ。何だったら魔族と戦うストーリーが用意されている人物も居たりする。そんな美味しいストーリーが王太子では無いのが笑うのだが。


 その中で全てのストーリーに関わってくるのが、わたくし、アンジェリカである。


 レティクスのルートでは王太子の婚約者で、レティクスが気にかける男爵令嬢アリスを牽制し、虐める悪役令嬢。最終的にミス・クレストになったアリスとミスター・クレストになったレティクスのお披露目の場で婚約破棄と公爵家からの追放、そして王族への不敬罪として幽閉されてしまう。


 カティスのルートでは大好きな兄に近寄る正体不明のアリスが気に食わなくて池に突き落としたり、夜盗を装い殺そうとするが最終的に兄や両親にバレて公爵家追放の後に山賊に襲われ奴隷商人に売られるという最近の乙女ゲームってパネェ…という結末だ。


 他、4人のルートの結末もとんでも無い物だったけれど、最初から王太子の婚約者と決まっているルートは確か王太子ルートだけだ。最初にどのキャラを攻略するか選べるので、その選んだキャラによって私の立ち位置は決まる。最悪幽閉だなー。


 って!!!

 ちょっと待って!!!

 病気で死んだ前世も相当だけど、生まれ変わってまで婚約破棄に追放に幽閉とか濃すぎる。


 盛大な溜息を床に吐き落として重い足を引き摺るとベッドに身を投げた。ボッスっと音と共に柔らかい羽毛に自分の体が埋まる。天蓋を見上げながら一気に流れてきた情報量に舌うちを零す。ここにアンが居たら失神ものだ。ただ、今はお嬢様で居るより、これからどう立ち回るかの方が頭の中を占めている。


 「ストーリーを変えなくちゃ…、せっかく生まれ変わったのにバッドエンンドしかないなんて冗談は夢の中だけにして欲しいんだけど…。」


 ぽろり。

 ぽろり。


 無意識に琥珀の瞳から涙が零れてきた。意識は16歳の前世と8歳の女の子が混じっていたとしてもキャパオーバーなのは間違いない。止まらない涙を手の甲で拭いながらアンジェは身を丸くして敷布に顔を埋め、声を殺して泣いた。


 暗い部屋に、

 ただただ、声を殺した嗚咽だけが小さく部屋の中で消えて。


 いつの間にか瞼を腫らしてアンジェは深い眠りに落ちるのだった。




ブックマークありがとうございます。

ブックマークが増える度に頑張って書こうと思えます。

行き当たりばったりなお話しですが宜しくお願い致します。

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