夜会開始前 1
そして迎えた『夜会』当日。
そろそろ夕方に差し掛かろうとしている時刻、私たちは、屋敷の玄関ホール前に集まっていた。
「よく似合っているよ、お前たち」
私たちが正装を身につけて父の前に現れたことにより、父が感嘆の声を漏らす。
私が身にまとっているのは、黒と薄紫色を基調としたドレスだ。
全体的にフリルをあしらえてあるが、コンセプトは『大人のドレス』ということでその量は控えめである。
施された意匠もどことなく落ち着きのあるもので統一され、着る者を一回り大人びた雰囲気にさせるようデザインされていた。
あと、ドレスの効果で悪い顔をすれば、かなり悪役令嬢っぽい感じになれる。
緊張せずに落ち着き払って薄く微笑んでいれば、それだけでもお役目をこなせそうだと思うほどだ。
ちなみに、今の私の髪の長さはロングくらいだ。この前の時に弟が王都の雑貨屋で購入したウィッグを用いている。
質が良かったので、新しく買う手間が省けたのだった。
あと、髪型はシニヨンである。
頭の後ろでまとめて、いざという時の行動に支障が出ないようにしている。
宝石が散りばめられた櫛形の髪留めは、万が一の際に武器として使うことが出来るので、髪留めが使えるこの髪型は何かと都合が良かった。
それと、弟に買ってきてもらったさらしも使っている。
体の線が見えにくい下着を身につけているので、屋敷のメイドたちにドレスの着替えを手伝ってもらってもバレることは無かった。
今の私は、どこからどう見てもお嬢様である。
そう、私はついに成し遂げたのだ。
まだ仮ではあるが、私はようやくお嬢様に戻ることが出来たのである。
――やっとだ。ここまで長かった。本当に長かった……。
鏡を見る度に、嬉しさで顔がにやけそうになって大変だった。
何とか表情を無理やり引き締めて耐えたが、やはり嬉しくて仕方がない。
だって、ドレスを着るのなんて約十年振りのことだ。
今までスーツしか着てこなかったので、ドレスを着ただけで思わず舞い上がってしまう。
なので、口元が緩んでしまいそうになるのも仕方のないことだった。
「ありがとうございます、お父様」
そう口調を直した状態で言葉を返すと、同時に弟も「ありがとうございます、父上」と応える。
弟は、紺色のスーツを身につけていた。
私と同じコンセプトは『大人のスーツ』なので、いつもより大人びて見える。
要所要所に銀と金のボタンがあしらえてあり、全体的に上品な仕上がりとなっていた。
ちなみに今現在の弟の髪の長さは、今までの私と同じベリーショートである。
しかし実のところ、弟は髪をほとんど切っていない。
ばっさり切ろうとしたのだが、皆に止められた、が正しいだろうか。
そのため、弟はカツラをかぶっていた。
どうしてもカツラに入らない髪の部分は、少し整えることにして、カツラで完全に髪型を変える、ということになったのだった。
弟としてはばっさりいきたかったのに皆から止められたため、そこら辺は不満に思っていたようだが、今は念願のスーツを着ることが出来ているので先ほどからずっとご満悦な表情であった。
「私は先に王宮に行っている。時間になったらお前たちも来なさい」
父の言葉に、私たちは「分かりました」と頷く。
父は警備のため、先に会場に向かう予定である。
今まで騎士団と協力しながら入念な警備の準備を行なってきており、本番前にもう一度確認したいらしかった。
そのため私たちは、父とは別の馬車で向かうことになった。
そして、時間になったら私たちも出発することになる。
といっても、私たちの馬車が到着するのは、『夜会』が始まった後なのだけれど。
どうやらそういうルールがあるらしい。
爵位が高ければ高いほど会場に遅れてくるのが慣例なのだとか。
そのため、私たちは『夜会』が始まって三十分から一時間くらいの間に到着出来るようしばらく待つ必要があった。
私たちは、従者たちと共に父の姿を見送る。
そして、ただ待つのももったないと思い、私たちは出発の時間となるまで正装の格好のまま今までのレッスンの復習を行うことにしたのだった。




