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受信

 ――あれから、二ヶ月が経った。


 季節は完全に冬となり、外は肌を刺すような冷たさで、ずっと部屋に閉じこもっていたい気分になる。


 ロドウェール王国の北方では、雪がしんしんと降り、一面が銀景色に彩れているらしい。


 王都は毎年、雪がちらほらと降る程度なので、そんな光景を一度は見てみたいなと思う。


 でも、それは後の楽しみとしよう。

 私たちには、やるべきことがあるのだから。


 私たち双子は、休日の日から今まで積極的に行動するよう努めてきた。


 一日でも早く自分たちが元に戻るため。


 だが、残念ながら未だ元に戻るに至っていなかった。


 やはり、そう簡単にいくはずはない。


 現状は、かなり困難なものであったが、しかし私たちは微塵も絶望していなかった。


 まだ手段はいくらでも残っている。

 試していないことが一杯あるのだ。


 だから、どれだけ歩む道が困難であろうと、たとえ何度失敗しようと私たちは諦めない。

 必ず、やり遂げてみせよう。


 そう、私たちは意気込み次の策を実行することにしたのだった。



 ♢♢♢



「どうしたんだ、お前たち。そんな改まったような顔をして」


 父が、私たちを見て不思議そうな顔をする。


 現在、私たちは父の書斎に訪れていた。


 何故、父の元を訪れたかというと、あるお願いをするためだった。


 父がこちらを視認した後、二人で小さく頷く。


 そして、弟が一歩前に出て、口を開いた。


「お父様、実はお願いがあります。どうか私たちのお話を聞いては下さいませんか?」

「聞こう。どういったものかな?」


 父がしっかりと私たちに向き直る。


 真剣な様子の私たちを見て、重要な話だと察したらしい。


「私とレインは、来月に開かれる『夜会』に出席したいと思っています」


 その言葉を聞いた途端、父はとても複雑そうな顔をした。


「『夜会』か……」


 そして、目頭を指でほぐしながら、父は考え込む。


 まあ、そうなるよね……。


 私と弟は、心の中でそう呟いた。


 『夜会』とは、ロドウェール王国で毎年行われているデビュタント舞踏会のことだ。


 この国では、十六歳になると社交界に出ることが許される。

 そして十六歳となって、社交界に出ることが出来るようになった貴族の若者をデビュタントと呼んだ。


 そんな彼ら彼女らを大勢集めて夕方から朝にかけて開催されるのが、『夜会』である。


 開催場所は王宮にある、ダンスホールだ。

 まだ見たことがないが、とにかく煌びやかで凄く広いところらしい。百人くらい集まっても大丈夫だとか。


 そこへ有名な音楽隊を呼び、一流の料理人が作る料理が並び、若い男女が優雅に踊りながら、一夜を過ごす。


 大体そんな感じの大きなイベントであるらしかった。


 王家が主催であるため、当然ヘリアン王子とサフィーア王女も参加する。


 通常の参加者にとって年に一度、いや、一生に一度の極めて重要なイベントだった。


 そんな重要なイベントに私たちは出席したいと、願い出たのだ。


 そうした理由は、二つある。


 一つ目は、入れ替わったままの私たちが、元に戻るための策を実行するための舞台として必要不可欠であると言うこと。


 二つ目は、弟がサフィーア王女と出かけた二ヶ月前の休日の時に、出来たら一緒に『夜会』に出席しようと約束したからであった。


 もちろん一つ目の理由は正直に言えないので、私たちは二つ目の理由だけを父に話す。


 すると、父は「うーむ」と唸り声を上げる。


 私たちが出席するかどうかで父が、思い悩むのも至極当然のことだった。


 何故なら、私たち双子が、他ならぬメアリクス家の者であるからだ。


「……お前たちの気持ちはよく分かった。だが、事は難しい問題だぞ」


 父は重々しく口を開いた。

 そして、ゆっくりと私たちに対して諭すようにして言う。


「そもそもメアリクス家の者が基本、公の場に姿を現さないのは、他者を、そしてこの国を配慮してのことだ。……何かと関わるたび大事になるからな、我々は」


 そうなのだ。

 常に悪役として振る舞っているため、メアリクス公爵家というだけで、トラブルの当事者になってしまうことが頻繁にある。


 問題に巻き込まれたり、問題を起こしたり……とにかく様々だ。事例を挙げると、きりがない。


 そのため、父を含めてメアリクス家の人間は、今まで可能な限り公の場に姿を見せないようにしていた。


 例外はうちの母である。

 まあ、母は自分ではなく他所のトラブルを解決するのが仕事だし、そもそも別に国から禁止されているわけではなく、あくまで私たち側が自重しているというだけなのだが。


 父曰く、国王含めてメアリクス家をよく知る他の者たちはそのことを十分理解しているらしく、「まあ確かに仕方がないので時々プライベートで顔を見せてくれれば、それで構わない」といった感じらしい。


「とにかく今この場で判断を下すのは難しい。一度国王陛下とも相談して、後でお前たちに答えを――いや待て」


 父が何かに気づいたように、突然冷や汗を浮かべる。


 そして、慌てたような様子で私たちに言う。


「分かった。お前たち、出なさい。国王陛下には、私から直接お伝えしておこう。安心して『夜会』に出席するといい」


 いきなりの心境の変化である。

 思わず私たちは、「はい?」と声を漏らしてしまう。


 私たちが説明を求めると、父は呻くようにして告げた。


「お前たち、悪いが説明は出来ない。これは直感なんだ。『夜会』で王族が面倒なことに巻き込まれるかもしれないと、私の第六感が告げている……!」


 父が何かを受信した。

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