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休日 15

「あなた、一体何を言っているの……?」


 突然のサフィーアの言葉にカティアは、少なからず戸惑いを見せる。


「カティアさん、初めて会った時からあなたのことが嫌いでした。あなたは、いつも私の上を行く。いつも私のことは、眼中にないというような態度をとる。それが、堪らなく不愉快でした。だから、あなたのことを放っておくことは絶対にしません。あなたが目障りだ、迷惑だと言ったとしても、私はこの先ずっとあなたに構い続けます。意地でも――」


 これは嫌がらせなのだと、サフィーアはカティアに言った。

 その言葉に、カティアは面食らうのだった。


「何それ……あまりにも身勝手すぎる」

「はい、否定しません。私は身勝手です。とても自分勝手な人間なんです」


 けれど、それでいいと思っていた。

 サフィーア・リィン・ロドウェールとは、そうあるべきなのだ。


 そうでなければ、意味がない。


 だって、それが自分の在り方なのだから。


「昔からそうでした。ただわがままを言う相手がいなかっただけです。そこにあなたが、現れた。それだけの話なんです。――それに、これくらい自分勝手でなければ、あなたの相手は務まらないと思っています」

「この話の流れで、どうしてそうなるのかしら……。あなた、いつか破滅するわよ?」


 サフィーアは、首を横に振る。

 心配ない、というように。


「そうさせないために、カティアさん――あなたがいるのでしょう? あなたは、私がどれだけ道を踏み外そうとも、きっと私を正してくれる。なら、何も心配はいりませんね」


 それは紛れもなく挑発だった。

 サフィーアが、カティアへ向けての。


 それを聞いたカティアは、開いた口が塞がらないといった表情になる。


 それに構わずサフィーアは告げる。


「――これは、勝負です。サフィーア・リィン・ロドウェールとカティア・メアリクスの。私は自身の生涯を賭して、あなたの在り方を否定します。あなたの悩みを解決してみせます。あなたのお友達になってみせます。あなたの力になり、あなたの助けになってみせます。それが、私の勝利条件です」


 サフィーアは、ルールを設定していく。


「カティアさん、あなたの勝利条件は、私の在り方を否定することです。私がいつか破滅すると言うのなら、全力をもって私を正してみせて下さい。――ああ、まさか、出来ないなんて言いませんよね? 逃げるつもりはありませんよね? それなら、私の勝ちになってしまうのですが、どうしますか?」


 それはまるで子供のような身勝手な言い分だった。

 有り得ないほどに低俗な挑発だった。


 普通なら、そんな安い挑発に乗る人間などいない。


 けれど、サフィーアは半ば確信していた。


 何を隠そう、自分の目の前の相手は、あのカティア・メアリクスなのだ。


 サフィーアはカティアを見据える。

 カティアは、やや顔を伏せる。そのため、その表情はよく分からなかった。


 いつもより抑揚のない声で、彼女はサフィーアに対して言葉をかける。


「……あなたは、この私に対して勝負を持ちかけようと言うの?」

「はい、私はあなたに宣戦布告します。あなたの敵としてあなたの前に立ちはだかるつもりです。何故なら、あなたのことが大嫌いだからです」

「……一度も。ただの一度もあなたは、私との勝負で勝ったことがないわ。それなのに、私と勝負しようと言うの……?」

「それに何の問題がありますか? まだ半年です。なら、この先私が勝つ日が、いつか来るに決まっています」

「その自信は一体どこから湧いて出てくるのかしら……」


 やや呆れ気味な声音で、カティアは言う。

 一方サフィーアは、彼女に問いかける。


「それで、どうしますか? 勝負を受けますか? 受けませんか? 私は、あなたと『遊び』たいんです。私の全てを賭けているのですから、不満だとは言わせません。それともカティアさん、あなたは私と遊んでくれないのですか?」


 それが、カティアにとって止めの一撃となった。


 その瞬間、カティアが肩を震わせる。


 おかしくておかしくてたまらないと言うように。


 目尻に涙をためながら、彼女はもう我慢が出来ないと言わんばかりに。


 彼女は楽しそうに笑っていたのだ。


「――そう、そうなの。あなたが遊んでくれるの。この私と」


 サフィーアに対して、彼女は屈託のない笑みを浮かべる。それは、まるで年相応の少年のような笑みだった。


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