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休日 5

 私がぐしゃりと紙飛行機を握り潰すと、ケルヴィンが「どうかしたのか?」と声をかけてくる。


 私は首を横に振った。

 キースの抗議に関して、私は何も見なかったことにしようと思ったのだった。


 何しろ誰に対しても凄いどうでもいいことだったからである。


 ケルヴィンは不思議そうな顔をしていたが、気にしないことにしたのか手に持つ焼き菓子をかじり始める。


 私も果汁ジュースを飲み終えたので、もう一杯買ってこようとベンチから立ち上がった時だった。


 ちょうど足元にころころと丸められた紙屑が転がってくる。


 一見何の変哲もない紙屑だったが、それを見て何故か嫌な予感がするのだった。


 私は無言で足元にある紙屑を拾う。


 そして、くしゃくしゃになっているそれを広げると、中には文字が書かれていた。


『ずっと奴を監視しているのですが、未だ不審な動きがありません。もういっそのことこちらから仕掛けますか? コツは、躊躇わないことです。一気に頸動脈を掻き切りましょう』


 ドロシアである。


 キースに引き続き彼女まで、私にメッセージを送ってきたのだった。

 もしかして暇なのだろうか。彼らは。

 今のところ、一切問題らしい問題が起きていないため、暇だと感じるのは理解出来る。


 しかし、だからといって、何故私にちょっかいをかけてくるのか。

 それがまったく分からなかった。


「あ? どうした。何かあったのか?」


 再度ケルヴィンが問いかけてきたので、今度は黙って文字の書かれた紙を彼に渡す。

 渡したのは、ドロシアのメッセージだ。


 それを受け取ったケルヴィンは、一瞬固まる。


 その後、すぐさま彼はベンチから立ち上がり、私に対して本気で頭を下げてくるのだった。


「これからも世のため人のために働く元気な良い子でいますんで、仕掛けて来ないで下さい……」


 敬語口調で、私を怯えた目で見てくるケルヴィン。


 いや、仕掛けないよ。

 するわけないじゃん……。


 けれど、ケルヴィンはそう思わなかったらしく必死に命乞いをしてくる。


 どうやら私に一度負けているため、襲撃されると絶対敵わないと思っているらしかった。


 いつもどこか飄々とした雰囲気であった彼が取り乱した様子で、私に自身の助命を嘆願してくる。


 あまりの必死さに、彼の中での私の評価が一体どうなっているのか疑問を抱いてしまう。


 どこからどう見ても、絶対良く思われていないだろう。

 正直言って、ちょっとショックだった。


 傷付いていると、今まで一人で周囲の催し物を回っていたヘリアン王子が私たちに対して声をかけてくる。


「二人とも、これを見てくれ! 僕の似顔絵だ。すぐそこの絵師の人に書いてもらったんだ。どうだ? 感想を聞かせてくれないか」


 弾んだ声で話しかけられ、思わず私はそちらに目をやる。


 嬉しそうに自分の顔の横に絵を持ってきて、ヘリアン王子は聞いてくる。


 いや、えっ、どうって言われても……。


 私は感想に困った。

 頭を上げて、絵を見たケルヴィンも、「何だこりゃ」と顔を顰める。


 何故ならば、ヘリアン王子が持つ絵は、似顔絵とは名ばかりの極めて抽象的なものだった。


 つまり、そこにヘリアン王子の姿が一切描かれていない。

 歪んだ形の太陽みたいなものが白紙一杯に描かれているだけだ。


 だから似顔絵と言われて、私とケルヴィンは「え、どういうこと? 似顔絵……?」と怪訝に思ってしまったのだった。


「絵を描いてくれた彼は、僕の似顔絵だと言っていたから、おそらくそうだと思うのだが、やはり君たちから見てもこれは個性的な絵に見えるのだな」


 個性的……?

 いや、個性的で済む次元では無いだろう、これ。


 だってこの絵の中には、どこにもヘリアン王子がいないのだ。


 正直「本当にこれ、ヘリアン王子の姿を見て描いたの?」と疑ってしまう。何一つヘリアン王子の要素が見当たらないのだから。

 その絵師には悪いけれど、お金を払って描いてもらったなら、返金を要求してもいいレベルのように思える。


 だが、どうやらヘリアン王子はこれをタダで描いてもらったらしい。


 そしてヘリアン王子を見て、「ああ、私の太陽。ようやく見つけた……!」と呟いていたらしかった。


 話を聞いているだけで、その絵師がなかなかヤバそうな相手だとビシバシ伝わってきた。


 でも、絵を描いてもらったことに関しては嬉しく思っているらしく、「勿体ないから捨てずに持って帰ろう」とヘリアン王子は絵を丸めて担いでいた荷物袋にしまう。


 私としては、ヘリアン王子が別に良いのなら何も言うことはない。


 まあ珍しい経験をして良かったね、と思うだけだ。


 そう思っていると、ケルヴィンがすっとヘリアン王子へ何かを渡す。


 よく見ると、先程私が渡したドロシアからのメッセージだった。


 ――あっ、ちょっ!


 慌ててヘリアン王子がそれを読むのを止めようとしたが手遅れだった。


 こちらを見て、ドン引きしてくる。


「君……まさか……?」


 いや、だから襲撃しないって。そんな目で見ないで欲しい。

 それと、まさかって何?


 もしかしてヘリアン王子もケルヴィン同様に私のことをそういう風に思っているの???


 ショックだ。


 私は再度、内心傷付くのだった。

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