暗躍
男は裏通りを駆け足で移動していた。
興奮のあまり胸の高鳴りが抑えられず、自然と足が早まったのだ。
――ようやく見つけた。私の。私たちの太陽を。
今までこの王都で見てきた紛い物とは違う、正真正銘その存在は本物だ。
ああ、なんて自分は幸運なのだろう。素晴らしいことだ。
このことを皆に知らせなければならない。
そして、一刻も早く彼をこちらの手中に収めなければ。
そう考え――ヘリアンに絵を渡した絵師は、仲間の元に急ぐのだった。
彼らは、ロドウェール王国の者ではない。
彼らは、自分たちの行く道を照らしてくれる主を欲していた。
自分たちを楽園に導く存在――それこそが『太陽』だった。
そのために彼らは、遥か遠くから、理想の『太陽』を探し出すために幾つもの国を渡り歩いてきた。
この国も、空振りかと落胆していた時であった。
見つけたのだ。ここに来て念願の『太陽』が。
絵師の男は、仲間共の潜伏しているアジトに向かう。
脇目も振らずに、一目散に。
普段ならば、様々な枝道を通って限りなく遠回りをしてアジトに帰還する。
もちろん、尾行されていないかどうかも念入りに確認を行なっていた。
絵師の男は、そういった知恵が回る男だった。
だが、この時は長年の悲願を成し遂げたことにより、浮かれてそんな初歩的なことを疎かにしてしまっていた。
「皆の者! 朗報だ!! 聞いてくれっ、ようやく我らの――」
そう叫びながら、アジトの扉を開こうとした時だった。
「――道案内、感謝する。もう寝てくれて構わないぞ」
背後から声がかかり、絵師の男は地面に突っ伏すことになる。
――か、体が動かない。い、意識が……。
背後からの不意打ちを受け、絵師の男の意識は急速に薄らいでいく。
「よし、突入する! ――動くな、ロドウェール騎士団だ! お前たちを連続誘拐未遂の容疑で拘束する! 下手な抵抗はするな! お前たちは我々によって完全に包囲されている!!」
絵師の男の霞む視界には、何人もの人間がアジトに乗り込んでいく光景が映る。
――だ、駄目だ。た、太陽が……。我ら……の太陽、が……。ここに来て……それは……あってはなら、ない……。
必死に手を伸ばす。
だが、無情にも彼の意識はそこで途絶えたのだった。
♢♢♢
「どうやら大漁のようですね」
キースが建物の屋根の上から今し方突入した騎士たちの様子を見守りながら、呟く。
突入は、順調のようだ。
ヘリアン殿下と接触した者を警戒しておいて良かった、とひとりごちる。
次々と宗教組織の者が拘束されていく。
それを眺めながら、視界の端で騎士たちの包囲網を突破した者がいないか探す。
キースが手に持つのは、丈夫な素材で編んだ投石具だった。
弓矢は使わない。
目立つし、殺傷力が高い。
投石ならば、力加減によってある程度威力をコントロール出来るという自信が彼にはあった。
それに、投石の飛距離は弓矢を凌駕する。
視界に捉えた獲物を逃すつもりはない。
キースは、極めて冷静に周囲を観察する。
いた。
一人だけ運良く包囲網から抜けた宗教組織の人間が、表通りの人混みに紛れようと逃げていく姿を見つける。
キースは、出来るだけ呼吸を整える。
そしてよく目標に狙いを定めて投擲した。
その数瞬後、見事宗教組織の人間の足に命中する。投石が直撃したその者は派手に地面に転がるのだった。
「確保!」
すぐに駆けつけた騎士たちが倒れたその者を拘束する。
これでいいだろう。
正直、宗教組織のアジトを包囲している騎士たちは皆、第一騎士団を代表する精鋭ばかりだ。
自分が手助けしなくとも勝手に各々できっちりとした成果を上げてくる。
彼らはそんな人間だった。
だが、キースとて仕事をしなければならない。
ただ何もせずに見ているだけだと、後で「お、面倒なことは先輩に任せて後輩はサボりか。いいご身分だなあ?」と難癖をつけてくるのは目に見えていた。
そもそも全体の指揮を押し付けてきたのは、その先輩達なのに。時々理不尽な責め方をしてくる。
残念ながら、彼らはそんな人間でもあった。
「はあ、ドロシアさんと仕事を代わりたい。交代してくれないかなあ……無理だろうなあ」
気が重くなったキースは、一人呟くのだった。




