道案内 4
私たちの宣戦布告に、チンピラのリーダーとその弟である眼鏡の優男は、目に見えて狼狽するのだった。
「なっ、何を言ってるんだてめえら!?」
「そ、そうですよ! こ、告白だなんて、まるで私たちが彼女たちに一目惚れしたみたいな……」
「――ふん、事実そうだろうが」
この後に及んで悪あがきをしようとした二人に対して、私は変えようのない事実を突きつける。
「ああ、悪いが僕からでも、そう見えた。眼を見れば分かる。君たちは、間違いなく一目惚れをした。そうだろう?」
ヘリアン王子が「どうか正直に答えて欲しい」と問いかけると、二人はぐっと言葉を詰まらせる。
やはり、そうだ。
私たちの目は誤魔化せない。
彼らは、私の弟とサフィーア王女に一目惚れをしている。
ならば、私たちが取る行動は一つ。
――戦う。それしかない。
「君たちには心から感謝をしている。僕たちでは、彼女たちが行きたいと望む場所へ導くことが出来なかった。だから、正直とても心苦しい。こうして恩を仇で返すような真似をしなければならないのだから……」
ヘリアン王子が悲痛な表情をする。
私も心が痛む。
とても親切にしてもらったというのに、私たちはそんな彼らに牙を剥かなければならないのだ。
悲しくてたまらない。このような出会い方はしたくなかった。
彼らとは、何の憂いもない状態で、気の許せる友達同士のようなそんな楽しげな関係を築きたかった。
だが、それはかなわない。
ああ、この世はなんと不条理なのだろうか。
思わず嘆きたくなる。
「僕は妹の幸せを願っている。心の底からそう願っている。何故なら、僕は生まれた時からずっと彼女の兄だからだ。だから、君にその資格があるのか、この手で確かめさせてもらおう」
ヘリアン王子が、拳を握り構えを取る。
そして、眼鏡の優男を睨めつけた。
「さあ、来い。君に僕の妹を幸せに出来るかな?」
私も背の高いチンピラのリーダーを見上げながら、拳をぐっと握る。
「さっさとかかってこい。言葉は不要だ」
悪いが弟に告白はさせない。
何故ならうちの弟は、男子に告白されるたび強い精神ダメージを受けるのだ。
そして、断る際は大抵呪いが発動するので、告白してきた相手も相当の深手を負ってしまうことになる。
結果として相討ちとなるため、誰も幸せにならない。
故に、是が非でも止めなければならなかった。
私たちが本気だと悟ったのか、チンピラたちがざわつく。
「ど、どうするんすかリーダー、副リーダー……」
そう声をかけられ、チンピラのリーダーは苦い顔をする。
「くそ、そうか。そうなるのかよ……ちくしょう」
そして、私たちに語りかける。
「お前たちは、家族思いな良い奴らだ。それに誠意がある」
「……私たちは、あなたたちと争いたくはありません」
眼鏡の優男も、眼鏡を正しながら声を発する。
チンピラのリーダーは、「だが」と言葉を続けた。
「だが、俺たちのこの気持ちは本物だ。それは自分でもよく分かっている。悪いが、嘘はつけない」
「ええ、あなたたちの言う通り、私たちは彼女たちに一目惚れをしたのでしょう。こんな複雑な気持ちになるのは生まれて初めてです。出来るならば、彼女たちに伝えたい。そう思います」
だからこそ、彼らは自分の中で明確な答えを出せずに迷っているのだった。
自分たちは一目惚れをした。
この気持ちを相手に伝えたい。
だが、私たちとは争いたくない。
おそらく、そのように二人は強く葛藤しているのだろう。
私たちは、何も言わない。
ただ、彼らの中で答えが出るのを待ち続ける。
そして、
「くそっ、駄目だ。分からない、どうすりゃあいいのか。少し考えさせてくれ……」
「私も同じです。すみません、少し時間を下さい」
その言葉に、私たちは頷いた。
チンピラたちは、踵を返して雑踏の中に消えていく。
私たちは、その背中を見送った。
出来るなら、彼らには今後、後悔することのない選択肢を選んで欲しい。心からそう願う。
存分に考え、存分に悩むといい。
そう、これが、これこそが青春……。
「うっわ、何だこいつら。くっそ面倒くせぇ……拗らせすぎだろ……」
近くで姿を隠していたケルヴィンが、真顔でぽつりと呟いたのだった。