道案内 3
ヘリアン王子曰く、人の良いチンピラ集団は、王都の裏通りを中心に活動しているらしい。
彼がやることは、基本人助けである。
悪事は何一つ働かない。
そもそも彼らは悪事を働かなければならないほど生活に困っているわけではないのだ。
ロドウェール王国は、小国だ。
けれど、資源は他国と比べて豊富にある。
国内の生活水準はそれなりに高く、職にあぶれるような者はほとんどいない状況であり、率直に言って困窮した生活をしている者は、皆無と言っていい。
仮に貧しい生活を送る者がいたとしても、国から手厚い保障がされるので結局のところ生きていく上での最低限度の生活は送れるような仕組みになっている。
なので、この国において国民は積極的に悪事を働く必要がない。
この国はとても豊かだった。そんな中で、普通の生活に馴染めない者だっている。
彼らチンピラ集団は、そういった者たちの受け皿となる役目も果たしていた。
……だがまあ、皆心根が優しい者ばかりなのでやることと言えば、慈善活動やボランティア活動のような人助けばかりなのだが。
本人たちはとても満足そうにしているので、こちらとしては何も言うことはない。
これからも頑張って欲しい。
そんなことを考えていると、チンピラ集団たちは、「それじゃあ、お嬢さん方。あばよ!」と立ち去ろうとする。
「怖がらせて悪かったなー!」
「いい休日をー!」
「王都を存分に楽しんでくれー!」
「へっへっへっ、じゃあな、またな!」
チンピラのリーダーの弟である眼鏡の優男も、二人に対して別れ際に小さく会釈する。
「それでは、これにて失礼させて頂きます。また何かありましたら、いつでも声をかけて下さい。私たちの知る範囲で幾つかオススメさせて頂きますので」
それに対して二人は、「ありがとう」と感謝の言葉を述べる。
「助かりました、それとすみません……先ほどは怖がってしまい……」
「いえいえ、こちらこそ取り囲んでしまい申し訳ありません。誤解されたままだと、そのまま騎士団の詰所に駆け込まれて通報されることがままあるので……仕方ないとはいえ、こちらこそ怖い思いをさせてしまいました」
そう言って眼鏡の位置を正す優男。
その顔は、サフィーア王女を見て赤くなっているように見える。
突如として、隣にいるヘリアン王子の眼光が鋭くなった。
えっ、急にどうしたの……? まるで敵を見るような目をして。
彼らは良い人で、無害だとあれほど力説していたの、一体どうしたというのだろうか。
そう疑問に思っていると、弟がチンピラのリーダーに話しかける。
「知りたいことがあったら、また尋ねさせてもらうわ」
「お、おう。いいぜ、何でも聞いてくれ! ここら辺のことについて俺たち以上に詳しい奴はいねえからよっ」
胸を叩いて応じるチンピラのリーダー。
その視線はキョロキョロと右往左往しており、まともに弟の姿を見れないでいた。
彼のその頬は赤く染まり、まるで弟を前にして照れているようだ。
……ああ、なるほど。
ヘリアン王子の気持ちが今分かった。
これは、あれだ。
そう、あれだ。
――戦である。
お互いに頷く私たちを見て、ケルヴィンがぎょっとするのだった。
♢♢♢
チンピラ集団は、弟たちと別れて道を歩いていた。
そこへちょうど前方を塞ぐ形で、私とヘリアン王子が姿を現す。
より強い威圧感を与えるため、サングラスと動物の耳を模したカチューシャを私たちは装着している。
二人でズボンのポケットに手を突っ込み、仁王立ちをしているので今の私たちはチンピラよりもチンピラらしい雰囲気が出ているに違いない。
ちなみに、先程の勝敗の結果としてケルヴィンのジャッジにより、私が負けてネズミ耳となった。
悔しい。
そしてヘリアン王子は「やった! レイン・メアリクスに初めて勝った! 決闘では勝てないけれど! よく分からないけれど、とにかくありがとう!!」と死ぬほど喜んでいた。
後で見ていろよ、ケルヴィン。絶対許さない……。
再戦を固く誓う。
――その話はさておき。
チンピラ集団は、私たちの姿に気づいて、恐れ慄いていた。
彼らは私たちを見て、「えっ、な、何だこいつら……」、「やべえよ、こいつら……」、「こっわ」、「どうする、リーダー……?」と口々に言う。
どうやら威圧感を与えることに成功したらしい。
チンピラのリーダーが前に進み出る。
「おい、てめら。何のつもりだ?」
凄んでくるが、私たちは意に介さず仁王立ちを続ける。
そして、ヘリアン王子が声を発した。
「久しぶりだな、君たち」
「久しぶり……? てめえ何を言って――いや、待てもしかしてお前……!」
怪訝な顔をしたチンピラのリーダーが突然、目を見張る。
「まさかその声は、『ヘンリア』さんですか……?」
リーダーの弟の優男も驚きの表情を浮かべる。
二人の声に反応して、チンピラは「ああ、なるほど」と思い出したようで、挨拶をしてきた。
「おお、ヘンリアさん! お久しぶりっす、ヘンリアさん!」
「ヘンリアさん、ちーっす!」
「この間、紹介したメシ屋どうでした?」
「うまかったでしょ? 俺らもよく行くんすよあそこ」
「ああ、絶品だった。素晴らしい店を紹介してくれて心から感謝する」
「本当っすか? 良かったっす!」
チンピラたちは、口に合って良かったと喜ぶがしばらくすると、こちらの雰囲気があまり友好的ではないことに気付く。
何かあったのだろうか、と心配したのかチンピラたちを代表して、リーダーと眼鏡の弟が恐る恐るといった様子で声をかけてきた。
「おい、どうしたんだ、ヘンリア。それにその格好……」
「ええ。それに隣の方は、お友達でしょうか?」
「ああ、僕の友人だ。それと、君たちが先程まで案内していた二人の女性のうち、黒髪の女性がいただろう? 彼は、彼女の弟でもある」
すると、チンピラの一人が「へえ」と声を上げる。
「えっ、そうなんすか? 超美人さんでしたっすね。金髪の女性も超可愛いかったですし」
「ちなみに、その金髪の女性は僕の妹だ」
それだけヘリアン王子が言うと、チンピラたちは「あっ、あちゃー……」と察して素早く視線をチンピラのリーダーとその弟の方に向けた。
そう、彼らは理解してしまったのだ。
チンピラのリーダーと眼鏡の弟も、理解したのか顔が蒼褪めていく。
「彼女たちの道案内をしてくれて、心から感謝する」
「ああ。だが、それはそれ、これはこれという話だ。そうだろう?」
私たちは拳をポキポキと鳴らす。
「決闘ならいつでも受けて立とう」
「ああ、貴様らを何度でも捻り潰してやる」
『――姉(妹)に告白したければ、この俺(僕)を倒してからにしてもらおうか――』
私たちは口を揃えて、目の前のチンピラ二人に宣戦布告したのだった。




