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護衛たち 2

 ――かつて賊だった人間の登用。


 それについて、ヘリアン王子はかなり難色を示していたが、結果的に溜息を吐きながら「そういうことならば、了解した」と頷いたのだった。


「……これがメアリクス公爵家現当主殿の案であり、そして最終的に僕の父がその案を起用したということならば、僕から言えることは何もない。――けれど、一つ確認したい。そこの彼が、問題を起こさないという根拠や確信はどこにも無いと思うのだが」


 その言葉に対して、キースは答える。


「その気持ちはごもっともだと思います。なので、もしも何かあれば、彼女が対応することになっています」


 そう言って、キースが目を向けたのは奥に座るドロシアだ。


 キース曰く、彼女は、ケルヴィンの監視要員であった。


「彼女は、第一騎士団の中でも指折りの隠密専門の隊員です。気配や空気のわずかな変化に聡いので、ケルヴィン下級騎士が何かしでかす前に必ず止めてくれますよ」

「……ご安心を。この者が不審な動きを見せた瞬間、即座にこの者の喉を掻き切ります」


 そう言ってドロシアは、いつの間にか手の中に隠し持てるサイズの黒く塗られた小型ナイフを取り出して、ケルヴィンの喉元にぴったりと添えていた。


 速い。いや、これは皆の無意識の隙を突いたのだろうか。


 いずれにせよ、かなりの技量の持ち主であった。


 私が感心していると、キースが「ちょっ、ドロシアさん!?」と驚きの声を上げる。


「抑えて、抑えて。また、暗器をケルヴィン下級騎士の喉に当てて……。もう、何度も言っているじゃないですか。無力化は別に殺さなくても出来るって。やるなら、手や足の腱を狙って下さいよ」

「キース、こちらこそ何事も効率的に行うべきだと提案している。こちらの方が手っ取り早い」

「いや、それだと取り返しのつかないことになるかもしれないじゃないですか。少しでも長く彼を有効活用する方向で行きましょうよ」


 騎士団員二人で言い争いになるのだった。


 そしてその二人に挟まれた形で他人事のように成り行きを見守るケルヴィン。


「まあいつもこんな感じなんだよ、もう慣れたぜ。まだ三日目だけどよ」


 私とヘリアン王子に視線を向けて、そんな感じの余裕さえ見せていた。

 しかも、「もう先に俺たちで何か頼んでおこうぜ。あ、何か嫌いものとかあるか?」と喉元にナイフを突きつけられた状態のまま席に置かれたメニュー表を開く有様である。


 ……何だこれ。

 側から見て、かなりおかしな光景だ。


 ヘリアン王子も困惑していた。


 もしかして傭兵は、図太い性格でないとなれない職業なのだろうか。

 そういえば、前に一国の王子の誘拐なんて所業をやらかしたわけだし、やはりナイフを首元に当てられても動じないくらいのメンタルが無いと駄目そうだ。


 凄いな、傭兵。

 尊敬する。絶対なりたくないけれど。


 そう思いながら、先ほどよりヒートアップしている騎士団員二人を眺める。


「――せめて薬を使って下さい。それなら、こちらも許容出来ます。用法容量を守れば、そう簡単には壊れないでしょうし」

「薬は扱いが難しい。手軽に扱えるものではないし、それに管理するのがかなり手間なんだぞ。やはり、ここは手っ取り早く喉を掻き切るのが一番だ」

「だから駄目ですって。効率効率って言いますけれど、むしろ後始末に一番手間がかかると思いますよ、それ」

「私が言いたいのは、被害を最小限に抑えるための効率化についての話だ。何かあってからでは遅いんだぞ。分かっているのか」

「それはそうですけれど、殺して終わり、となるほど物事はそう単純ではありませんし、やはり対象の四肢の自由が利いていない状態であれば――」


 ……どんどん話の内容がえげつなくなっていっている。


 私は思わず耳を塞ぎたくなった。


 それと、どうやら、まだ駄目そうである。


 私は無言でヘリアン王子を連れて、席を移動することにした。

 無言で、私の後をついてくるヘリアン王子。

 それを見たケルヴィンが、ナイフを首元に当てられてた状態のまま寂しそうな顔を向けてくるのだったが、今はどうしようもないので見捨てることにする。


 騎士団員二人の言い争いはしばらく続きそうな気配を見せていた。


 なので、私はとりあえず店員に声をかけて紅茶を二つ頼むのだった。


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