半年間を振り返り、そして
悩みながらも、私たちは母への返事を書き終わった。
そして、何事もなく自室で普通に過ごしていると、気がつけば就寝時間まであと少しとなっていた。
寝巻きに着替えると私はベッドに潜り、おもむろに目を閉じる。
眠りにつくまで私は、これまでの学園生活を振り返るのだった。
当初に立てた計画が予想外のことで台無しになり、ヘリアン王子にフェアではない決闘で勝利し、その後はヘリアン王子から何度も決闘を挑まれるようになった。
ヘリアン王子の誘拐事件という大騒ぎもあったが、けれど、今のところ『悪役』として、とても順調に過ごしてきた。
順風満帆と言ってもいいだろう。
悪役として生活を送る上で何一つ問題となることはなかった。
これからもずっと私は、こんな毎日を送っていくのだろう。
不満はない。むしろ充足感に満ち溢れている。
私はメアリクス家に生を受け、そしてメアリクス家が任された大任をしっかりとこなすことが出来ているのだから。
誇らしい気持ちで一杯だった。私たちが真面目に悪役としてのお役目をこなすことで両親が喜んでくれるし、従者たちも喜んでくれる。
そして、それを見て私たちも喜ばしい気持ちになれる。
これほどやりがいのある人生はそうないだろう、とそう思わずにはいられない。
私たちはとても幸せだった。
けれど、私たちには唯一気掛かりなことがあったのだ。
決して誰にも言えない、双子である私たちだけの秘密が――
♢♢♢
――皆寝静まった深夜に、私はひとり目を覚ます。
十分休むことが出来たため、体に疲れは残っていない。
小さな蝋燭に明かりを灯して、懐中時計を確認すると、時刻は深夜の三時まであと十分ほどとなっていた。
――よし、丁度いい。あと少しだ。
私はベッドから出ると、準備運動を行い、念入りに寝起きの体をほぐしていく。
そして、いつでも戦闘のような激しい運動が出来るレベルまで体を温めると、準備運動をやめてベッドの下に潜る。
ベッドの下には、ヘリアン王子誘拐事件の時に使用した二本の直剣が隠してあった。
当日の事件後に自室に持ち込んだそれを、ベッドの下部に紐で括り付けて掃除に来たメイドや使用人たちに見つからないように工夫を施しておいたのだ。
それを回収し、そのまま装備する。
武器は、今から使うこととなるだろう。
私たちの通り道の障害となる者を排除するために、これは必須である。
そして、次に部屋の中にあるクローゼットから寝巻きを一着取り出して、ベッドの上に置く。
これで私の方の準備は整った。
三時ぴったりになると私は寝巻きのまま窓に近づく。
そして、鞘から抜いた剣を鏡代わりに使って、小さな蝋燭の明かりを反射させた。
私はその明かりを、丁度中庭を挟んだ位置にある弟の部屋の窓辺りに来るように調節する。
すると、私の部屋の窓に向かって弟の部屋からも小さな明かりが反射してくるのだった。
実は、三時になったらお互いがちゃんと起きているのか確認する手筈となっていたのだ。
どうやら弟の方も準備は万端らしい。
良かった。これで弟が寝たままだったら、どうしようかと思った。
なぜならば、この一週間を使って私たちはある作戦を立てたのだった。
――それは、入れ替わった状態のお互いが元に戻るための作戦である。
そのための用意として私は剣を隠したり、深夜に巡回している警備の兵士たちの行動パターンを覚えたりもしたのだった。
そして、あとはいよいよその作戦を実行に移すだけとなったのだ。
一体どんな作戦かというと、別に難しいものではない。
私たちはお互いの部屋に誰にも見られていない状態で一目散に向かう。ただそれだけだ。
実は十年前に同じことを一度行って失敗しているが、今回は十分勝算がある。精一杯頑張る所存だ。
廊下を進んでお互いの部屋に着いたら、すぐにベッドの上に置いてある異性用の寝巻きに着替えて今まで着ていた寝巻きと剣はベッドの下に隠して、ひとまず作戦完了となる。
隠した寝巻きと剣は後でどうするか決めるとして今は、目先のことだ。
この計画を昼間に行わない理由としては、もちろん人の目に入らないようにするため、というのが大きい。
それと、ドレスは一人では着るのが難しいというものがある。
その点、寝巻きは比較的簡単に素早く着替えることが出来た。
さて、お互いに準備は整っている。
あとは、一歩踏み出すだけ。
私たちの部屋は三階に位置し、歩いて二分ほどで着く。
走れば三十秒ほどだろうか。
いずれにしても、今回で全てが決まる、
このわずかな時間で行われるこの作戦が成功すれば、私たちはこの先より晴れやな気持ちでお役目をこなせるのだ。
覚悟はとうに決めている。
いつかやらなければならないことを今日行うだけなのだから。
それと何故、今日決行するのかと問われれば、このままずるずると現状のままでいるといずれ大変なことになるかもしれないからである、と答える。
たとえば、仮にヘリアン王子と婚約することとなったら、その時にまだ戻れていなかったらさすがにまずいだろう。
万が一、そのまま王妃としての教育を受けることになったら?
万が一、ヘリアン王子と結婚することになったら?
そんなことがこの先有るかもしれないし、ないかもしれない。
けれど、とてもではないが楽観視は出来なかった。
何しろ元に戻るチャンスは依然として訪れず、半年経っても誰も自分たちの入れ替わりに気づいてくれない。
このままだといけない。
ただ機会が訪れるのを待つだけでは駄目なのだと思わずにはいられなかった。
やはり、自分たちから行動しなければならない。機会が全く訪れないのなら、自分たちで機会を作るしかないのだ。たとえ、それが強引なものでも。
そうしなければ、始まるものも始まらない。
心からそう思う。
今の気持ちとして、不安は一切なかった。むしろやる気に満ち溢れ、絶対に上手くいくぞという気持ちがどんどん湧いてくる。
私は扉のドアノブに音を立てないように慎重に手をかけた。
ああ、言い忘れていたけれどこの作戦の名は、『夜遊び』作戦である。
今までで一番の真っ向からの真剣勝負だ。
気を引き締めて、取り掛かることにする。
――さあ、そろそろ始めようではないか。
私たち双子の一世一代の『遊び』を――
そして私は、弟に明かりで作戦開始の合図を送った後、廊下に飛び出すのだった。




