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七光り

 ――結果的に言うと、あっさり納得してもらえた。


 何故なら、私の隣にいたヘリアン王子が、一から十まで私の代わりに現状の説明を詳細に行なってくれたからである。


 助かった。ありがとう、ヘリアン王子。

 彼の協力がなかったら、最悪私は騎士団の面々相手に大立ち回りを演じる羽目になっていただろう。


 やはり彼はとても良い人である。

 私の中で彼への好感度がうなぎ上りだ。


 ちなみに私は横でじっとして一連の会話を聞いているだけであった。

 仕方が無い。

 下手に何か話して罵倒の言葉を吐いたりなんてしたら本末転倒だし、それに苦労して賊を捕らえたというのに、態度が悪いせいで賊の一味呼ばわりなんてされでもしたら堪ったものではないからだ。


「……なるほど、分かりました。賊は尋問のためこちらで預からさせて頂きます。しかし、それにしてもご無事で何よりです、ヘリアン殿下」


 そう言葉を発するのは、今回ここまで急いで駆けつけてくれた王立第一騎士団の団長である。


 厳めしい雰囲気をまとい、訓練によって鍛え上げれた見事なまでの巨軀。その何気ない所作の一つ一つからでも、かなりの実力の持ち主であろうと察することが出来た。


「ああ、彼がいなければ今頃どうなっていたか分からない。彼には感謝の念しか無いよ」

「殿下、その……彼と言いますと、その少年は……」

「レイン・メアリクス。僕の学友で、恩人だ」


 すると、第一騎士団の団長は、こちらをぎょっとした表情で見るのだった。


「……メアリクス? やはり、この少年はメアリクス公爵家次期当主殿なのですか!? ひぃっ!!」


 厳めしい雰囲気の第一騎士団の団長が、突然情けない悲鳴を上げたのだった。


 ……えっ、何、急に。

 私は困惑するしかない。

 一体、どうしたんだ。私はただ立っていただけなのに。


 ――いや、それにしても、「ひぃっ!!」ってなんだ、「ひぃっ!!」って。


 何故、私を見て悲鳴を上げる必要があるのか小一時間問い詰めたい気分である。


 そして、第一騎士団の団長の声を聞いて、他の騎士団員たちからも、遅れてどよめきが生じる。


 ――「え、メアリクス……?」、「は? マジで???」、「やべえよ、やべえよ。あの時みたいに半殺しにされる……」、「……そういえばアーロン殿のところの双子は殿下と同い年だったな」、「そうだ! 王族が関わる緊急時には基本メアリクスがいるのを忘れてた!!」、「え、本物のメアリクスなの? 今日命日?」、「とにかく許して欲しい……」、「踊りますんで……逆立ちして白目剥きながら狂ったように踊りますんで……」、「勘弁してよぉ!」――


 耳をすまさずとも、色々な声が聞こえてくる。阿鼻叫喚であった。


 それを見て、私は唯々絶句するしかない。


 いきなり騎士団の人たちに怯えられてしまった。

 何故だ。いや、本当に何故だ。


 私はまだ何もしていないでは無いか。


 酷くない……?

 こんな理不尽な目ってある???


 そう思っていると、第一騎士団の団長は、引き攣った顔でわけを説明してきた。


「す、すまない。皆、君の父君を思い出しただけなんだ。誓って他意はない。信じてくれ……」


 まるで懇願するかのように言う第一騎士団の団長。


 彼曰く、若手の騎士を除き、ここに所属するベテラン騎士の大半が私の父と同じ時期に学園に通っていた者たちだと言う。


 そのため、彼らはお役目のため『悪役』として振る舞っていた父にかなりの苦手意識を持っていたのだった。


 とにかく彼らは皆、学園時代には語り尽くせないほど散々な目に遭ったらしい。


 仮に一例を上げるとしたら、私の目の前にいる騎士団長の彼だ。


 彼は武芸の入試において主席合格を果たしたという。けれど入学初日、一つ上の学年であった父に目をつけられて決闘を行うこととなり、手も足も出ずに呆気なく敗北したらしい。


 公衆の面前でプライドを完膚なきまでに粉砕された彼は、その時から父に対して強い苦手意識を持つようになる。

 どうやら父に会うたび、悲鳴を上げていたらしい。


 だが、学園時代のその苦い経験を糧として弛まぬ努力を続け、今では第一騎士団の団長にまで昇進したというのだから凄いものである。


 他の者たちも、彼と同様だ。

 研鑽を続けた結果、今では、王立騎士団の中でも特に第一騎士団は、精鋭と名高い実力を有するまでとなったのだという。


 身につけた実力の大半は彼らの努力の賜物であると思うが、その一助となったのなら父も悪役冥利に尽きるというものだろう。


 ……でも、正直やりすぎだと思う。


 それと彼らのリアクションからして、苦手意識どころでなく、もはやトラウマレベルにまで達しているのでは、とそう思わずにはいられない。


 今回聞かされた父の学生時代の話が本当ならば、私たちの方がまだ可愛いものである。


 ……いやまあ、そんなことを比べたからといってどうなるわけでもないけれど。


 私は心の中で彼らに何度も詫びながら、彼らからの謝罪の言葉を受け取る。


「今回は目を瞑ってやろう。有り難く思え、三下」

「その傲慢な態度、その物言い。アーロン先輩そっくりだ……! ひぃっ!!」


 一応、私も頑張ってみたのだが結局呪いが発動してしまった。

 それにより第一騎士団の団長は再度情けない悲鳴を上げることとなってしまうのだった。

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