目覚め
身嗜みはばっちり整えた。
それとさらしは今度、どうにかしてより高価で機能性のあるものを手に入れることに決める。
今回のような失敗は二度としたくない。
私のメンタル的にも。
ヘリアン王子の身体ダメージ的にも。
そして、当の本人であるヘリアン王子なのだが、それなりの時間が経ってもどうしてか起きてくれない。
もしかして、強く蹴りすぎたのだろうか。
流石にやり過ぎだったと思うが、現状その方法以外取れなかったのだ。
このまま目覚めなかったらどうしよう。
そう私は不安になりながら、ヘリアン王子の顔を覗き込む。
すると、
ね、寝てるぅ……!
ヘリアン王子は気絶した後、そのまますやすやと眠ってしまっていたのだった。
なんて清々しいまでの健やかな寝顔だ。
けれど、良かった。何とも無さそうである。
私はそれを見て、ほっと胸を撫で下ろす。
しかし、よく見ると、彼の目元には隈がある。
おそらく寝不足だったのだろうか。
それにしても、何という豪胆さだ。
誘拐されたというのに、その後何事もなかったかのようにぐっすりと眠れるなんて。
……いや、私が気絶させたからだった。ごめんなさい。
後で起きたら、誠心誠意謝りたいところだが、それをやってしまったら自分が何故あんな行動を取ったのか問い詰められることになるだろう。
それは避けたい。
つまり、私の取れる選択肢は一つである。
誤魔化す。
それしかなかった。
♢♢♢
しばらくしてヘリアン王子が起床すると、私は彼の気絶する直前の記憶が曖昧であることをいいことに、彼が突然意識を失ったということにするべく、あることないことをどんどんと吹き込んでいく。
張りつめていた緊張が解けてその疲れから眠ってしまったのだと、何度も私はヘリアン王子に対して説明を行うのだった。
「そうだったか? いや確かにそうだったかもしれないな。なるほど……」
ヘリアン王子は、納得するような顔を見せる。
よし成功だ!! そして、ごめんなさい!!
私は心中で勢いよく土下座をするのだった。
「なら、あれは夢だったのか……? もしや僕の願望そのものだと言うのか……?」
小さく呟くようにして、独り言を言うヘリアン王子。
あれ、まだ完全には説得出来ていなかったのだろうか。
少し危惧するも、ヘリアン王子は「まあ、今は考えても仕方ない」と呟いて、立ち上がるのだった。
「帰ろう。皆にも、そして君にも迷惑をかけてしまった」
「当然だ。この借りは必ず返してもらうぞ」
「ああ、このヘリアン・ウェン・ロドウェールの名に誓っていつか必ず――」
いや、重い重い。
そんな気軽に誓わないで、ヘリアン王子。
ちょっとした軽口のつもりだったのだから、真に受けないで。
そう思うが、彼の表情はとても真摯であったので、今更訂正出来ようはずがない。
まあ正直ヘリアン王子がこうも気負うのは仕方がないといえば、仕方がないのだ。
私の場合、通常のお役目としてここにいるため、「まあ別にいつも通りのことだな」としか思っていない。
けれど、ヘリアン王子の場合、大勢を心配させることとなったのは紛れもない事実である。
いずれ国を担っていく王族として、それを彼は自分の中で重く受け止めているのだ。
なので私は、「そうか、期待しておいてやる」と鼻を鳴らすことしか出来なかった。
そして私は口笛を吹いて、やや遠くに待機させていた軍馬を呼び寄せる。
ヘリアン王子には、この軍馬に乗って行ってもらおう。
ちょうど賊が乗っていた馬もいることだし、わざわざ二人で同じ馬に乗る必要も無いだろう。
「馬は乗れるな?」
「ああ、大丈夫だ」
その返事を聞いて安心した。
そして、私たちはさあいよいよ今から王都に戻ろうと考え始めた時、遠くからかなりの数の馬が走ってくるのが見えた。
あちらは王都の方角である。総勢百人はいるだろうか。
なら、おそらくあの馬に乗っている者たちは装備からも判断して、皆騎士団の者たちに違いないと思う。
ここに来て、ようやく主役のお出ましである。
いや、しかし正直彼らがここに駆けつけるのは、かなり早い方であると思う。もっと遅くなると思っていた。
あの人数からして通常なら準備に大分時間がかかるだろうし。
なら、かなり急いで来たと言うことだ。結構な無理を利かせたに違いない。
この国の騎士団は優秀な人材が揃っているらしい。素晴らしいことである。
……それにしても騎士団か。
大丈夫だろうか、と私の中で不安になってくる。
このまま彼らがここまで来れば、私は十中八九、状況の説明を求められるだろう。
説明、説明かあ。
……私ちゃんと出来るかなあ、騎士団相手に説明。
煽らないように、毒を吐かないように、そんな普通な対応が果たして今の私に出来るだろうか。
私は少し考えると、至極当然の結論へと至る。
――うん、やばい。普通に無理かもしれない。どうしよう……。
ここに来てかなりのピンチが到来してしまった。
私は次第に近づいて来る大勢を目にしながら、どうにか呪いを発動させないようにして、この現状をどう簡潔に説明すればいいだろうかと頭を悩ませることになるのだった。




