戦闘開始 1
地図に示された場所近くまで来たので、私は一旦馬から降りることにした。
鬱蒼と生い茂る森を迂回するようにして移動すれば、目的地はもうすぐそこだ。
いつ賊と遭遇するか分からないため、周囲への警戒を怠らないよう気をしっかり引き締める。
賊には、見つからないようにしなければならなかった。
森の袂であるため、いざとなれば逃げ込まれる恐れがあるからだ。
慎重に行動するべきだと思ったが、賊も同じように考えているかもしれない。
ならば、相手の裏をかく気でいこうと思う。
私は、あえてそのまま森の中に入り、内部から目的地を目指すことにしたのだった。
その試みは成功したらしく、しばらく森の中を移動すると、賊のすぐ目の前まで来ることが出来た。
良かった。ちゃんと地図の場所にいた。見たところヘリアン王子も無事らしい。
どうやらまだ私の存在に気が付いていない様子。
相手の逃走経路を塞ぐ形となったし、ちょうどいい。
絶好の機会だ。
ヘリアン王子の位置も把握したし、さっさと奇襲して一網打尽にしてしまおう。
そう思ったのだが、どうやらヘリアン王子を誘拐した賊は思いの外優秀だったらしい。
剣を鞘から抜いて駆け出した瞬間、賊のほとんどが私の奇襲に気づいてしまった。
うわあ、今までちゃんと気配消してたのに次の瞬間にはバレるんだ。……少し甘く見ていたかもしれない。
賊が有するであろう大まかな実力について、自分の中で上方修正を加える。
まあ、仕方ない。気付かれてしまったのだから。
――なら次の手としては、やはり強行突破でいくしかないか。
そう判断した私は、そのまま賊の一人を強引に斬り伏せることにする。
攻撃を一度は受け止められるが、今の私は双剣である。
「――がっ!?」
続け様のニ撃目はしっかりと直撃させる。
もろに斬撃を受けた賊は、地面に倒れ込んだのだった。
「くそ、よくもぉ!!」
沈んだ賊の近くにいたもう一人が、激昂しながら向かってくる。
慌てて賊のリーダーらしき人物が、指示を飛ばすがそれさえも耳に入っていない様子であった。
向かってくる相手のその身のこなしからは、技量の高い相手であることが伺い知ることが出来る。
けれど、如何せん冷静さを失い、剣を持つ両手も力み過ぎている。
怒りにより、剣筋が鈍ることになるのが容易に見て取れる。
そんな相手ほどやりやすいものはなかった。
「がはっ――」
相手の一撃を身を屈めるようにして避け、すれ違い様に反撃を浴びせる。
相手は地面にゆっくりと崩れ落ち、これで二人目だ。
眼前の賊は、全部で六人いた。
残り四人。
いや、賊の一人は非戦闘員かもしれない。
貴族然とした中年男性を除いて、後三人倒すだけで良さそうだ。
そう考えていると、捕まっているヘリアン王子が私を見て驚きの声を上げる。
「レイン・メアリクス!? なぜ君がここにいるんだ!!」
いや、何故って……。
そんなの、ヘリアン王子が誘拐されたからに決まっているではないか。
ヘリアン王子が今日も何事もなく学園に登校してくれれば、わざわざこんなところまで急いで馬を飛ばして来る必要は無かったのだ。
といっても、別にヘリアン王子が悪いわけではない。
悪いのは、突然ヘリアン王子を誘拐した賊である。
だから、このやるせない気持ちを賊相手にぶつけることにしよう。
「――よくもやってくれたな、溝鼠共」
残る賊たちを睥睨するように見回した後、私は口を開くのだった。




