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その少女は異世界で中華の兵法を使ってなんとかする。  作者:
第19話 略甲篇=強力な敵を撃破するには?
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その3(全3回) 今のところ打つ手がない

 空中戦艦による帝都空襲の(しら)せを受けたとき、北部辺境守備軍の幹部たちは最初、だれもが耳を疑った。


「そんな空想小説(ファンタジー)のような話があるはずない」


 しかし、帝都から次々と伝わってくる続報が、空中戦艦の話は夢物語ではないことを雄弁にものがたる。否定したくても、否定できない。


 それに、よくよく考えれば、連邦に空中戦艦が存在する可能性については、すでに情報をつかんでいた。


「連邦では、制空権を手にするため、空中戦艦を建造しておる」


 捕虜にしたテロリストのリーダーは、こう言っていた。


「あの話は本当だったのか……。となると、帝国にとって、とんでもない脅威(きょうい)が出現したことになる」


 フミト皇太子は、たんたんと感想を述べるように言った。とくだんの驚きも感じられなければ、恐れも感じられない。


 あえて動揺を隠そうとしているのだろうか。非常時にリーダーが動揺すれば、他のみんなにも動揺が伝わってしまう。みんなが動揺すれば、危機に対処できなくなるものだ。


「まったくであります」


 そう言うヤマキ中将は、キツネにつままれたような表情をしていた。


 帝都からの(しら)せでは、帝国軍がいくら砲撃や銃撃を加えても、空中戦艦はびくともしなかったと伝えられている。


「ふつうに攻撃しても太刀打(たちう)ちできないなんて、まいったな――」


 フミト皇太子は、苦笑いしながら言う。


「――ときに軍師殿は、これについて、どう思う?」


「強敵だと思う」


 ちなみに、このときクリーは、西部での「3賊=海賊・馬賊・山賊」の討伐が終わって、北部に帰還したばかりだった。


「軍師殿の一族に伝わる教えには、こんな場合の対策などもあるのではないか?」


 ヤマキ中将が期待のまなざしをクリーに向ける。


「強敵を撃破する教えとして“略甲”がある。しかし、すでに失われてしまっているので、よく分からない」


 クリーは、クールに答えた。


「そうか……」


 ちょっとガックリするヤマキ中将。その動きは好々爺(こうこうや)そのもので、こういうときに不謹慎な言い方だが、その場の緊張をある程度なごませてくれる。


「それとは別に“兵力が上なら囲み、兵力が同じなら戦い、兵力が下なら逃げる”という教えがある――」


 クリーが言っているのは、『孫臏(そんぴん)兵法』ではなく、『孫子』の兵法にある教えのようだ。そのことを本人が知っているのかどうかは不明だが。


「――だから、もし敵と対等に戦えるようになりたいなら、敵と同じ兵力をもつ必要がある。そのためにも、まずは空中戦艦について知る必要があると思う」


「うむ。まあ、それは道理だな」


 ヤマキ中将がうなずきながら言う。


「わたしたちは、これまで“空中戦艦”のことを現実味がないとして、知ろうとしなさすぎたところがある。テロリストの尋問(じんもん)を改めて行う必要があるね」


「こうなりますと、中央がテロリストの処理について、なにも返事をくれなかったことが幸運に思えますな」


 北部辺境守備軍は、取り調べの結果、テロリストの正体が連邦の人間であると判明すると、どのように対処すべきかについて、中央に問い合わせていた。


 しかし、例によって中央からの返事は来ないままだった。わずらわしい問題をそのままにさせて、北部辺境守備軍を困らせようとしたのだろう。


 それが今回、幸いしたかたちだ。空中戦艦について知る手がかりになる。


「というわけだから、頼む」


 フミト皇太子は、憲兵隊長に笑顔を向ける。


「はっ」


 憲兵隊長は、さっと敬礼して答えた。


 しかしながら、改めてテロリストを尋問(じんもん)してみたものの、空中戦艦のことを知っているのは、占い師の老人――テロリストのリーダーだけだった。


「連邦科学院の情報セキュリティーは万全じゃからな――」


 老人はたんたんと語る。


 その老人は、名をカー・シュエシェンと言い、テロリストたちからは「博士」と呼ばれていた。


「――同じ建物のなかにいても、隣の部門でなにをやっているのか、まず分からん」


 ここは北部辺境守備軍の地下牢。逮捕したテロリストたちを収容している。


 フミト皇太子は、じかに話を聞くため、地下牢に足をはこんでいた。ヤマキ中将、クリー、アルキンも同行している。


「その割には、貴様は空中戦艦のことを知っていたではないか」


 ヤマキ中将が、詰問(きつもん)するように言った。


「隣室におれば、それなりに話が聞こえてくるもんじゃ」


「隣室……?」


「だから何度も言ったじゃろうが。わしの正体は、心術担当官じゃと」


「は?」


 ヤマキ中将は、カー博士がなにを言いたいのか、イマイチ分からなかった。


「つまりは、ご老体は連邦科学院にいたということか?」


 フミト皇太子が、おだやかに問うた。


「そうじゃ」


 カー博士によると、連邦科学院には催眠術などの心理戦について研究する部門である「心理部門」があり、そこで勤務している研究者が「心術担当官」だそうだ。


 その事務室と研究室は、空中戦艦の建造を担当した「技術部門」の隣にあったらしい。


「情報セキュリティーうんぬんと言う割には、情報がダダもれとは、ずぼらだな」


 ヤマキ中将がイヤミを言うと、カー博士はキッとなって言う。


「ふん。現在、技術部門が防音設備を研究中じゃ。それも帝国の野蛮人どもが思いつかないほどリッパなものをな。隣室の声が聞こえなくなるのも時間の問題じゃて」


「だが、今は情報がダダもれであることには変わりあるまい」


「なんじゃと」


 だんだん話が、おかしな方向に脱線していく。


「ところで、ご老体にうかがいたい。空中戦艦とは、どのようなものなのか?」


 フミト皇太子が話をさえぎるようにして言った。


「まあ、空中戦艦が姿を見せたということは、威嚇(いかく)の段階に入ったということじゃから、特別に教えてやるわい――」


 カー博士は気をとりなおして言う。


「――知れば、おまえらも怖くなって、戦意を失うじゃろうからな。連邦の戦略目的の達成に貢献できるというもんじゃ。ふふふ」


 と、ドヤ顔で言う割には、カー博士は大した情報をもっていなかった。


「――話をまとめると、“空中戦艦は、特殊なガスを使って浮かびあがり、高度3千メートルを時速80キロで飛行し、敵地にのりこんで空襲する”ということでいいかな?」


 フミト皇太子が確認した。


「そうじゃ。恐れ入ったか。かっ、かっ、かっ」


 カー博士は、まるで鬼の首でもとったかのようにうれしそうに笑う。


 そんなカー博士をよそ目に、フミト皇太子はクリーのほうを見た。


「軍師殿は、なにか聞きたいことはあるかな?」


「えっと……。ない」


「なんと!?」


 いきなりカー博士が目を丸くして言った。


侍女(じじょ)殿かと思いきや、軍師とな!?」


「……」


「おい貴様、れっきとした軍人を侍女(じじょ)よばわりとは失礼であろう――」


 ヤマキ中将がなじるように言う。


「――そもそも軍服を着ておるのだから、その時点で軍人であることくらい分かるというものであろう。それとも本気で侍女だと思いこんでおったのか? となれば、とんだ勘違(かんちが)い野郎だということになる」


 しかし、カー博士は、ヤマキ中将の言うことなど無視して、興味津々(きょうみしんしん)にクリーのことを見ていた。


「イグ族でありながら、その若さにして軍師となれば、年ごろからして、もしや“チムルの魔女”か?」


 言われてクリーは、ピクッと身震(みぶる)いし、少し息苦しそうになる。


「貴様と言うやつは、かえすがえすとんだ勘違い野郎であるな。軍師殿は、ミン族の出身だ」


「は? もしかしてイグ族に会ったことがないのか?」


 カー博士は、クリーから目をそらさず、あきれたような口ぶりで言う。


「――軍人のくせにして見聞が狭いな。この顔だちは、どう見てもイグ族のものではないか。どうかな? 侍女殿、……もとい軍師殿?」


 クリーは黙っている。


 顔が引きつり、青ざめ、冷や汗もにじんできている。


「大丈夫かい?」


 フミト皇太子は、クリーの異変に気づき、心配そうに言った。


「どうした!? 調子でも悪いのか!?」


 ヤマキ中将は、まるで病気になったわが子に対するような感じで問いかける。


 しかし、クリーからの返事はない。うつろな目をしたクリーは、その場に立ちすくんだままで、ますます息づかいが荒くなっていく。


「失礼いたします」


 アルキンは、フミト皇太子に一礼するや、クリーを連れ出そうとする。


「ほう、軍師殿は、PTSDか?」


 カー博士は、珍しいものでも見るかのような目つきで言った。


 PTSDとは、たとえば災害などに巻きこまれて、心に強いショックを受けると、ふいに災害のことを思いだし、まるで今、災害にあっているかのように感じて苦しくなり、気が動転したりする症状のことだ。心的外傷後ストレス障害とも言う。


「まあ、あれだけの惨事(さんじ)だったのじゃから、PTSDになるのも無理ないか」


 カー博士は、訳知(わけし)り顔でつぶやきながら、クリーを見ている。


 アルキンに支えられながら立ち去ろうとしていたクリーだったが、いきなり(うな)り、頭をかかえ、その場にうずくまった。ガクガクと全身が(ふる)えている。


 そして、苦しそうに(もだ)えながら、なにやら意味不明の言葉をつぶやいたかと思うと、そのまま卒倒(そっとう)した。


全文訳『孫ピン兵法』略甲


 完全武装の兵士を攻略する方法としては、敵兵が方陣~無~

~これを攻撃したくても、その勢いとしてできないとします。その場合は、これを~下し~

~これを~するには階級章を使い~狂ったように戦いたがっているとします。その場合は、布陣を少なくし~

~反~その場合には、まず一般の兵士を使って攻撃し、それから精鋭を使って奇襲し、必ず~しよう~

~精鋭を使って奇襲し、必ず~

~左右からの側面攻撃をすることで互いに走ります。これを「畟釣撃」と言います~

~の気は心にしまわれ、全軍の兵士は~これに従~すを知~

~将軍は(その)軍を分けることでその~を修め、人手や兵士が少しで人民~

~威~その困難を~は、将軍の~です。その兵隊を分け、その~を乱し~

~布陣は鼓舞されません。ですから、死は~せず~

~これを遠くに引き出し、敵はやる気をなくすことで~遠~

~治~その将軍を孤立させ、その心を動揺させ~撃~

~その将軍が勇ましく、その兵士が多く~

~あちら~兵士を多くするのは、将軍の~

~兵士の道理~


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