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その少女は異世界で中華の兵法を使ってなんとかする。  作者:
第13話 延気篇=兵士のやる気を高める
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その3(全3回) そして艦隊は壊滅し、陸上部隊は退却する

 話は少しさかのぼる。


 海港都市・ゴトーから見て、はるか北にある半島。


 そこは死火山であり、その火口跡のくぼ地に海賊の集落があった。集落の中心部にある木造3階建ての砦が、海賊のアジトだ。


 海賊の親玉・ワンジー船長の私室は、アジトの最上階にある。海図やら、武器やらが、部屋のあちこちに無造作(むぞうさ)にちらばっている。雑然とした部屋だ。


「で、どうするのがいい?」


 ワンジー船長は、手紙を片手でひらつかせながら言った。


 その手紙は、帝国軍から海賊にあてられた投降勧告(とうこうかんこく)だった。その要点をかいつまんで言うなら、こうなる。


『帝国は、期日を決めて、海賊のアジトに対して、総攻撃を加える。海上から艦砲射撃を行い、地上から制圧部隊を送りこむ。勝ち目がないから降伏しろ』


「黙殺します」


 シューハイ副長は、あっさり言った。


「いいのか?」


「かまいません。開戦するなら、奇襲したほうが勝ち目も高まります。黙って攻撃をしかけたほうがよいものです。にもかかわらず、わざわざ投降を呼びかけてくるとは、よほど勝てる自信がないのでしょう」


「そういうものなのか?」


「そういうものです」


「で、策は?」


「このようにしようと思います」


 シューハイ副長は図面を出すと、ワンジー船長に説明した。


 こうして迎えた決戦の日。


 ワンジー船長と、シューハイ副長は、見張り台から戦況を注意深く観察していた。


 帝国の艦隊――2隻の戦艦、6隻の巡洋艦からは、ひっきりなしに砲弾が飛んでくる。半島に着弾するたび、すさまじい爆音が響きわたり、激しく大地を震わす。


 その振動は、見張り台をも大きく揺るがせた。しかし、ワンジー船長も、シューハイ副長も、落ち着きはらっている。


「まもなくだな」


「まもなくです」


 帝国の艦隊は、半島の沖合いを航行しながら、砲撃を加えていた。海賊からの反撃がないので、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)としているように見える。


「この戦いは、楽勝だな」


 軍艦の乗組員たちは、だれもがそう思っていた。


 その矢先、艦隊で異変が起きる。


 艦体をガコンと震わすような奇妙な衝撃が起きた。それも一隻(いっせき)だけではない。すべての軍艦で、ほぼ同時に起きたようだ。


「なにごとかっ!?」


 旗艦の艦橋で、提督が報告を求める。


『推進装置に異常っ!』


 機関室から伝声管を通じて、艦橋に第一報が入る。


 まもなくすると――。


『タービンが停止しましたっ!』


 悲鳴にも似た声で続報が入った。


 動力を失った軍艦は、コントロールを失い、ゆっくりと潮に流されていく。なかには僚艦とぶつかる軍艦もあった。もはや砲撃どころではない。


 どの軍艦からも異常を知らせるサイレンが鳴り響いていた。それは遠く海賊の見張り台まで聞こえてくる。


「おおっ! うまくいったようだな!」


 ワンジー船長は、大喜びで言う。


「すべては計算どおりです」


 シューハイ副長は、ニヤリとしながら言った。


 後日の調査で分かったことだが、軍艦のスクリューに漁業用の網がからまり、軍艦は航行不能になってしまっていた。海賊の仕業(しわざ)だった。


 海賊たちは、艦隊の進路を確認すると、その進路上の海中に網をもって潜み、軍艦のスクリューに網をからませる。このときの網は、すべて漁港で盗まれたものだった。


 これと似たような戦例がある。


 ミン族の故地での話になるが、阿片(あへん)戦争で(チン)国と連合王国(イギリス)が戦ったときのことだ。


 (チン)国の漁民たちは、外敵の侵略から郷土(ふるさと)を守りたいと思う。そこで連合王国(イギリス)の艦隊を見つけると、沖合いに多くの漁船を出して、漁業に精を出しているふりをした。


 連合王国(イギリス)の軍艦は、外輪船だった。外輪船というのは、蒸気機関を使って軍艦の両横についた水車を回し、それを動力にして走る船のことだ。


 帆船が主流だった当時において、風がなくても自在に動ける外輪船の機動力は、外輪船を持たない(チン)国にとって脅威(きょうい)だった。


 しかし、漁民たちは恐れない。秘策があったからだ。


 漁民たちは、目の前まで連合王国(イギリス)の軍艦が近づいてきたところで、その外輪に向けて網を投げこむ。網は外輪にからまり、軍艦は航行不能になった。


 こうして連合王国(イギリス)の軍艦が機動力を失ったところで、漁民たちは軍艦を襲撃し、連合王国(イギリス)の軍隊にダメージを与える。


 今回の海賊たちの作戦も、これに似ている。しかし、その後の展開は、違っていた。


「では、続きを」


 シューハイ副長がたんたんと言う。


「よし!」


 ワンジー船長は、信号弾を何発も発射した。


 すると、半島に近い小島の岩陰から、10隻の中型船が現れた。内燃機関(エンジン)を搭載しているらしく、煙を吐きながら海上を軽快に走る。


 まもなく多数の砲音が轟いた。身の危険を感じた帝国の艦隊による必死の砲撃だった。


 しかし、艦隊は思うように動けないし、海賊の中型船は速い。これでは、いくら帝国海軍の練度が高くても、そう簡単には命中しない。


 中型船は一直線にならび、航行不能におちいっている艦隊の周囲をめぐるように走る。走りながら、次から次に金属製の長い物体を海中に向けて発射した。


 物体は、いずれも白い航跡を残しながら、まっすぐ艦隊に向かっていく。


『雷撃っ!』


 艦隊・旗艦のマストにいた見張員(みはりいん)が、伝声管を通じて艦橋に報告する。


(魚雷だと!? どうして海賊がそんなものをもっている!?)


 提督は驚きながらも、即座に指示を出す。


「回避っ!」


 しかし、どの軍艦も動けない。魚雷に対して、なす(すべ)がない。


 魚雷は、圧縮空気を使ってスクリューをまわし、まっすぐ走る。


 大きな破壊力を持つが、なにしろ命中率が悪かった。


 しかし――。


「動けない相手に対し、これだけの至近距離から魚雷を発射すれば、はずれることはありません」


 シューハイ副長は、すずしい表情をして言った。


 魚雷は次から次に軍艦に命中していく。


 命中するたびに、すさまじい爆発が起きた。耳をつんざくような爆音を発し、大きな水柱をあげる。


 もはや無事な軍艦など一隻もなかった。ある巡洋艦などは、一度に数発の魚雷を受け、あっけなく轟沈(ごうちん)する。


「総員退避っ!」


 どの軍艦からも、(ふね)を放棄する命令が出された。乗組員たちは、水兵から先に海中に飛びこみ、脱出していく。


 このころ砂州(さす)では、民族義勇軍・前軍の戦車が半島に向かって、ゆっくりと前進していた。戦車とは、突撃部隊の身を守るため、鉄製の盾をつけた荷車(にぐるま)のことだ。


 しかし、帝国軍による初回の砲撃で、海賊の砲座や銃座があっけなく沈黙してから、反撃らしい反撃もない。散発的に砲弾や銃弾が飛んでくるくらいだ。


「事前に投降勧告を出したのが効いたよね」


 オウツカ少将は、本陣から砂州のほうをながめながら満足げに言った。


「それにしましても、静かすぎませんか?」


 シモダ准将は、いぶかるように言った。


「ボクたち帝国軍の威容を()()たりにして、海賊どもは臆病風(おくびょうかぜ)に吹かれて逃げ出したんだろうさ」


 こうした考え方は、オウツカ少将に限ったものではなかった。帝国軍の多くの将兵もそう思っていた。


 まもなく民族義勇軍の陣地から、数十騎の騎兵があらわれ、戦車の間をかけぬけ、猛烈な勢いで敵陣に突進していった。


 半島の手前、砂州の終わるあたりまで騎兵が駆けていくと、数か所で地面が爆発し、騎兵たちを吹き飛ばした。地雷だった。


 この時代の地雷は、踏むと自動的に爆発するというものではない。手動式だ。


 地中に埋めてある爆弾の信管には電線がつないである。その電線は遠く陣地まで延びていて、その先は起爆装置につながっている。起爆装置のスイッチをひねると、電流が流れて信管を起動させ、爆弾が爆発する。


 爆発の衝撃で砂が舞いあがり、あたり一面が霧のようになる。


「やったぞ!」


「ざまぁ見やがれ!」


 海賊たちが陣地で快哉(かいや)を叫ぶ。


 まもなく大量の土砂と一緒にたくさんのワラも降ってきた。


「?」


 地雷原に突っこんできた騎兵は、実はワラ人形の兵士を乗せたニセモノだった。いわゆる疑兵(ぎへい)というやつだ。


「軍師殿の言うとおりだったな――」


 シャオ隊長が遠く砂煙を見やりながら言う。ホッとしたような様子でもあった。


「――やつら地雷原(じらいげん)を作っていやがった」


 クリーが海賊のワナに気づいたのは、海賊の砲撃が下手だったからだ。


「海賊は、ゆらゆらと揺れる船の上から大砲を撃って命中させる。だから、揺れない地上から大砲を撃つなら、たくさん命中するはず」


 しかし、海賊からの砲撃は、命中率が悪かった。あやしい。


「わたしたちを油断させるため、下手な砲撃で弱そうに見せかけているかもしれない」


 これが海賊のワナに気づいたキッカケだった。


 だから、クリーは、シャオ隊長に言って、急いで前軍に伝令を出してもらった。進軍スピードを落とすようにと。


 そのうえで至急、疑兵を用意して、様子を見たわけだ。すると、海賊はまんまと疑兵を本物だと誤認し、地雷を起爆させた。


「しかしよ、どうして地雷原があるって分かったんだ?」


「海賊の砲撃がすぐに()んだから」


「ん?」


「激しく大砲を撃ちあえば、地雷原に砲弾が落ちることもある。そうなれば、せっかくの地雷原が使いものにならなくなる。だから、海賊も砲撃をすぐに止めて沈黙したんだろうと考えた」


「それなら、海賊も最初から砲撃しなかったほうがよかったんじゃねぇか?」


「砲撃しなければ、あやしまれる。だから、最初だけ砲撃して、あっけなくやられたふりをしたんだと思う」


「なるほどな。しかし、海賊には知恵者(ちえもの)がいるってことだな」


「うん。あなどれない」


「だな」


 地雷原が爆発したあと、これまでと打って変わって海賊たちは、激しい砲撃をしかけてきた。地雷原もなくなり、砲撃を遠慮する理由がなくなったからだろう。


 海賊の大砲は小口径だとはいえ、直撃弾を受ければ戦車の鉄板も弾き飛ばされてしまう。そうなれば次の砲撃をしのげない。


 帝国軍の陣地からも砲撃による反撃が始まった。民族義勇軍・前軍の頭上を砲弾や銃弾が()()う。少なからぬ死傷者が出た。


 とにかく勢いよく突撃して、海賊の砲座や銃座を制圧するしかない。前軍が進軍スピードをあげようとした矢先、退却を指示する鐘の()が鳴り渡った。


 艦隊の壊滅を知った本陣が、あわてて戦闘停止を決めたのだ。


全文訳『孫ぴん兵法』延気


 孫子は言いました。

 軍隊を集合させ、兵士を終結させたとき[開戦するとき]は、兵士の気持ちを高ぶらせることが大切です。

 いったん移動して、軍隊を集合させたとき[移動するとき]は、兵士をきちんと管理し、兵士の気持ちをとぎすまさせることが大切です。

 敵地に進軍し、敵軍に接近したとき[進攻するとき]は、兵士の士気を鼓舞することが大切です。

 ついに戦う日が決まったとき[決戦を準備するとき]は、兵士に断固たる気概をもたせることが大切です。

 いよいよ戦うことになったとき[決戦を開始するとき]は、兵士の気力が長続きするようにさせることが大切で

す。

 ~することで全軍の兵士を引きしめるのは、兵士の気持ちを高ぶらせる方法です。将軍が~命令~

 ~その命令~は、兵士の気持ちをとぎすまさせる方法です。将軍は、そこで~

 ~質素な服を着て、粗末な毛皮をまとうことで、兵士のやる気を高ぶらせるのは、兵士の士気を鼓舞する方法で

 す。将軍は命令し、兵士の一人ひとりに三日分の食糧を用意させ、国内の家庭に~させ~

 ~望~政府からの使者を軍隊に来させず、軍隊からの使者を政府に行かせないのは、兵士に断固たる気概をもたせる方法です。将軍は、警護役の人を呼んで、その人に言います。飲食は~してはならない~

 ~兵士の気力が長続きするようにさせる方法~

 ~です。「延気」


※その他、残っている言葉

~営~です。こちらは陣営を移動したばかりの軍隊を戦いに使い、しかも相手が好戦的な敵なら、必ず敗北します。

兵士の気持ちがとぎすまされていなければ、戦い方が下手くそになります。下手くそならば、力不足になります。力不足ならば、利を失います。利を失~

~兵士の士気が鼓舞されていなければ、こわがりになります。こわがりになれば、烏合の衆になります。烏合の衆になれば~

~兵士が断固たる気概をもたなければ、すきだらけになります。すきだらけになれば、まとまらなくて散らばりやすくなます。困難に出会ったときに散らばりやすいのは必ず敗北~

~兵士の気力が長続きしなければ、だらけます。だらければ、使い物にならなくなります。使い物にならなければ、兵士に任務を遂行させられなくなります~

~れば、知恵があるとは言えません。自分の節操をつらぬけば、事~

~して救わず、本人は死に、家は滅びます。将軍は使者を呼んで督励し、~撃~


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