その2(全3回) 助けてほしいから救難信号を出す
ハナ皇姫とクリーの監禁された部屋は、四方が石の壁に囲まれており、ドアが1つと、小さな窓が1つあるだけだった。
もちろん、窓には幅20センチ間隔の鉄格子がはめられている。ここから外には出られない。もっとも、たとえ出られたとしても、高いところにあるので、落下して大けがをするだけだ。
部屋の中央には、テーブル1つとイスが2つある。部屋の片隅には、洗面台と、トイレ代わりの壺があった。
ベッドはない。ただ毛布だけが置いてあった。雑魚寝しろということなのだろう。
そんな部屋に監禁されて2日目、ハナ皇姫はドアをドンドンと激しくたたきながら叫ぶ。
「あけろーっ!」
次はドアをドカドカと激しく蹴りながら叫ぶ。
「出せーっ!」
今度はドアにドスドスと体当たりしながら叫ぶ。
「解放しろーっ!」
ハナ皇姫が騒ぐたび、見張りの男が外から「黙れっ!」と言う。
もちろん逃がしてもらえるわけなどない。
ともあれ、この日は一日中、騒がしかった。
監禁されて3日目、室内は前日とうってかわって静かだ。
見張りの男は、心配になってドアの覗き窓から室内を確認する。
ハナ皇姫とクリーが、メソメソと泣いていた。
食事が運びこまれても、2人とも食べようともしなかった。
(まあ、殺されるのだから、そうなるのは無理ないな)
見張りの男は思った。
だけど、かわいそうとか、そんな感情はわいてこない。世界平和のためにも、死んでもらうことが必要なのだから。
そうして3日目が終わった。
監禁されて4日目、ハナ皇姫がドアをトントンとやさしくノックする。
「なんだ?」
見張りの男が覗き窓をあけ、室内を覗きこみながら言う。
「お願いがあります」
ハナ皇姫は、しおらしく言った。
そのうるんだ瞳が色っぽい。しめった唇はセクシーだ。見張りの男は、思わずドキンッとなる。
「な、なんだ?」
「どうせ殺されるのでしたら、せめて遺書くらい書かせてください」
「まて。博士に聞いてくる」
博士のというのは、占い師の老人のことだ。本人は「わしは心術担当官じゃ」って言っていたけど、なんのことだかよく分からない。
しばらくして食事の出し入れ口から、便箋帳、羽根ペン、インクが差し入れられた。
「あのぅ、封筒とノリは?」
ハナ皇姫が、うるうるしながら言う。
「ああ? それもいるのか?」
「申し訳ありません」
「まってろ。博士に聞いてくる」
しばらくして、今度は封筒とノリが差し入れられた。
「すみませんが……」
ハナ皇姫は、あわれみをさそうような涙目で言う。
「今度は、なんだ?」
見張りの男は、あきれるように言う。
「暗いので、せめてランプか、ロウソクをお借りできないでしょうか?」
「まて。博士に聞いてくる」
しばらくして、今度はランプが差し入れられた。
「ありがとうございます」
ハナ皇姫は、しんみりとお礼を言うと、ドアに背を向けた。
振り向きざまに思いきり舌を出し、あかんべえをする。もちろん見張りの男からは見えない。
その頃、北部辺境守備軍では各所に偵察隊を派遣して、ハナ皇姫とクリーを必死に捜索していた。偵察隊は交代制で、昼も夜も関係なく駆けまわる。
そして、ハナ皇姫が遺書を書きたいと言った日の夜のこと――。
「未確認飛行物体っ!」
偵察隊員が叫ぶ。
見ると、北西方向の森林の上空に、不思議な光がフワフワと浮いている。
「なんだ?」
偵察隊長は、望遠鏡で確認する。
なにやら提灯のようなものが浮いているのが見えた。
「とにかく、あちらへ行ってみるぞ」
偵察隊は馬を駆り、森林に向かった。
このとき不思議な光を見つけたのは、この一隊だけではなかった。他の偵察隊も見つけており、いずれの部隊も確認のため、森林に向かう。
もちろんフミト皇太子たちも馬を駆り、ハナ皇姫とクリーの探索に出ていたので、不思議な光を見つけていた。
「あれは、わが一族に伝わる“コンミンデン”という連絡手段です」
アルキンが言った。
「ということは、あちらの方向に妹と軍師殿がいるというわけか?」
「その可能性が高いと思われます」
「よし。では、行こう」
フミト皇太子の率いる騎兵隊は、不思議な光の方向に急行する。
森林の近くで、いくつかの偵察隊と遭遇し、合流した。
「この近くには、なにかあるのか?」
フミト皇太子が聞くと、偵察隊長のひとりが答える。
「地図によりますと、林の中に兵器工場の跡がございます」
「ならば、そちらに向かってみるぞ。――全軍、隊列を組め」
フミト皇太子の指揮のもと、全軍が隊列を組み直し、森林に駆けこんでいく。
まもなく工場跡が見えてきた。無人のはずなのに明かりが灯っている。だれかいるようだ。
フミト皇太子たちは、下馬して小銃をかまえる。突入部隊と待機部隊に分かれ、待機部隊は工場跡を包囲した。
「突入っ!」
フミト皇太子の号令一下、突入部隊がすべての出入口からドアを蹴破り、一斉に突入していった。
その後は、あっけなかった。
テロリストたちはあわてて反撃したが、多勢に無勢だ。勝てるわけもない。あっけなく制圧された。
囚われていた臣民たちも無事に保護される。
もちろんハナ皇姫とクリーも救出された。




