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一刀量断

かろうじてファンタジーっぽい武器が出てきます


 苦闘の末、「そっちかな?」を倒した俺。

 

 いや、強さは大した事無いんだが、生理的嫌悪感がな?


 ドロップ残して消えてくれるこの島(あるいは世界か?)のモンスターの仕様がこれほど有り難いと思った事はない。


 その苦闘のおかげだろうか?


 まるで「もつかれ~」とでも言うかのように宝箱が出現した。


 これまでは地べたに直接アイテムが転がっていたのである。

 期待したくなるよな?


 出てきたのは剣だった。


 無骨でも巨大過ぎもしないし、光り輝きも変なオーラも出ていない、しかしながらどう見ても普通の剣の範疇におさまりきらない代物。


 名前付きのアイテム・・・その名を「ブレードノッカー」。


 黒灰色に鈍く光る刀身は刃の部分は銀色に光っていて、鋭い切れ味保証してくれる見た目だ。


 二握り半ある柄は革が編み込む様に巻かれていて「馴染む、実に馴染むぞぉ~」と言いたくなるフィット感である。


 鞘は完全に納刀するタイプではなく、刃の付いている半分をカバーする金属製のものに皮のベルトが付いたタイプで、ワンアクションでカパッと取り出す事が出来る。


 剣としてはかなり大きなもので背負う形になるが、柄と刀身合わせると1メートル50センチは超えているだろう。


 今までの状況からすると「あなた出る作品間違ってませんか?」と聞きたくなる様なものに聞こえるだろうが、やはりこのダンジョン仕様、まともな剣ではない。


 錘とでもいうのだろうか?


 刀身の先端に近い側に刃の向きとは垂直に左右に張り出した円柱状の突起があって、見てくれで言うと鉈っぽい剣に巨大な金属製のヨーヨーを溶接した様な形になっている。


 円柱とは言っても直径が三輪車のタイヤくらいある。


 結果として「物凄く切れ味の良さそうな、バトルもの少年漫画の特訓素振り用の剣」みたいな代物になっているのだ。


 こう、普通の素振りじゃ負荷が足りなくて、重りをどんどん増やしていった結果、こうなっちゃいました的な?


 レベルアップしてスコップを軽々と扱える今の俺でも超劣化版示現流的使い方しか出来ない(つまり渾身の振り下ろし一回のみ、連続攻撃や相手の反撃への対処なんか不可能)超重量級の武器というより凶器・・・いや狂気か?


 せめてなぁ・・・重りが付いてなきゃいい感じなんだけどなぁ・・・。


 捨ててしまうにはもったいなく、かといって使いこなすどころか使うだけでも苦労しそうな代物。


 持って歩くには大きく重く、かといって置き去りにして戻ってきた時に消えていたら後悔しそうな気がする。


 初めて出てきた武器らしい武器なのだ。

 

 それに、逆にこんな凶悪なものが出てきたって事は、もしかするとここから先、こういうのじゃなきゃ相手が出来ないモンスターが出てくるとか考えられないか?

 現時点じゃ、排除というか、掃除というか、駆除というか、そういう感じだけど、いきなり強い相手が出て、通常のレベリングで進んでいると詰まってしまって、また戻ってレベル上げを地道にしなきゃいけないクソRPGの様になるとか有り得そうじゃね?


 まあ、こうして悩むって時点で最初から答えは出てたようなもんだな。


 俺はベルトでしっかりと鞘ごと剣を固定すると更に奥へと足を進めた。




 ◆

 ◆




 結果としてブレードノッカーは役に立った。


 

 いや、モンスターは相変らずへちょかったがな?


 通路の先に唐突に現れた錆だらけの鉄の門。

 錆びてる癖に妙に頑丈で、巻かれたこれまた錆だらけの鎖とそれを繋ぎとめている真鍮製っぽい南京錠。


 当然、これまで鍵なんてドロップは無かったし、そういうものがあるかと捜索する様な小部屋も無かった。


 一般人(見てくれは既にそう呼べなくなってるがな!)である俺がピッキングの道具なんか持っているはずも無い。


 体当たりしてもびくともしない。


 てか、このダンジョン来て最大ダメージだった。

 HPとか表示されねえからどの程度かはわからねえけど、痛かった。


 スコップで鎖叩いてみたが、スコップの方が傷ついた。


 なら、これしかねえよな?



 剣を抜いて、ガニ股に思いっきり踏ん張り、重さもあってえびぞりになった姿勢から背中に回した剣を体全体を使って門にブチ当てる。


 目測を誤って空振りしてしまったのかと勘違いするほどのスムーズさで門も鎖も鍵も真っ二つに断ち切って、地面に切っ先が入っても止まらず、重り部分が地面にぶち当たって初めて止まった。

 地面に当たった瞬間少し辺りに震動が響いた。


 これ、こういう振り方したから良かったようなもんの、バットスイングの様に横に振り回したら、骨が折れるか、自分を斬るかしただろう、マジで。


 日本刀でも調子に乗って振り回すと良く自分の太もも斬っちゃうとかあるらしいしな。


 地面で止まらなきゃ自分真っ二つとかも有り得たり?


 にしても刃こぼれ一つしてねえぞ・・・凄え切れ味だな。


 これ当てた状態から力抜いて自重に任せるだけで、人間だったら斬れちゃうんじゃね?


 慣れるかレベルアップして力が上がって軽々扱える用になるまでは、鞘に収めるのもいちいち固定用のベルトを外して細心の注意を払わないと指の一本や二本無くしそうだし・・・。


 


 ◆

 ◆



 門の先には階段があった。


 延々と歩き続けて、ようやく次の階層である。


 これがまた長かった。

 背負った剣の重みを足が実感している。

 実は階段は上りより下りの方が筋力を使うと言うが、確かにそうなんだろうなぁと実感する足のぷるぷる具合である。


 だいたいビルの15階分くらいだろうか?


 なんか普通のビルとかの下の階に下りる程度の気持ちで居た俺がめげそうになるくらいの長さだった。


 てか、考えてみたら戻る時にこの長さを上らなくちゃいけないってことだよな?


 どっかにエレベーターみてえなもんねえかなぁ、と真剣に辺りを観察する俺だった。




 ◆

 ◆



 

 階が変わった事によって出てくるモンスターの種類が変わった。


 「天丼」「カツ丼」「鉄火丼」「うな丼」「牛丼」の5種類だが、もしかしてモンスターの名前の表示か翻訳機能がバグってるんじゃね?


 名前と外見や特性に全くと言っていいくらい関連性が無かった。


 天丼は巨大な(と言っても1メートルくらいだが)シイタケを逆さまにした様な代物にカマドウマの後ろ足の様な足が付いた代物だった。


 カツ丼は毛穴のつまってそうな巨大な人間の鼻にクモの脚を付けた感じ、鉄火丼は焼いてる途中のお好み焼きを地面に落とした上に割り箸を何本も突き立てた様な感じ、うな丼は頭の付いていない亀の甲羅に黒い触手を密集して植えつけた様な感じ、牛丼は腸詰で作ったお盆の時のキュウリの馬といった感じ・・・つまりはどれもこれも人から聞いたら正気を疑う様な外見のやつらだ。


 どれもこれも弱いのはいいが、正気を失う程はグロくはないが、不快感が蓄積されていく気持ち悪さなのだ。


 ドロップアイテムはそれぞれ「天丼のふた」「カツ丼のふた」「鉄火丼のふた」「うな丼のふた」「牛丼のふた」と全て蓋で、しかも見た目では全く区別が付かない陶器製の丼の蓋部分だけである。

 

 このドロップ見る限り、翻訳機能のエラーってことではないか、モンスター名。てか、元の世界のこうした丼知ってるヤツだよな、明らかにこのダンジョン作ったヤツか管理してるヤツ。

 少なくとも日本の知識を持ってる奴だろ?


 どっかで見て楽しむにしてはヌル過ぎ、地味過ぎだし、嫌がらせ、拷問の一種としか考えられないぞ?


 ホント、何考えてるんだよ! 


 結局、ふたは食事の際には使えるかと2つほどは取っておくつもりだが、それ以外はモンスターが出た時に投げてぶつけてストレス解消に利用している。

 

 自然たっぷりの島よりは、ここに来てしまった原因やら、元の世界に帰る手段やらに通じてそうなんで挑戦したダンジョンだが、いい加減諦めて試合終了にしたくなってくる。


 水は入り口にあるし、食い物は魔法で出せるし、命を脅かすほど強いモンスターや動物もいねえし、時間かけてでも筏を作って島からの脱出図った方がいんじゃね、実は?


 最近は無いけど、これ以上寄生装備系追加されたら、どう弁解しても人間扱いしてもらえない気がするし・・・。


 あー、なんか頭おかしくなってくる。


 一回、物置まで戻って漫画でも読むか?

 このままダンジョントライしてたら狂うだろ、マジで。


 うん、そうしよう・・・ってあの階段上るのかよ・・・。




 ◆

 ◆




 後半、ベソをかきながら階段を上りきった俺は、ダンジョンの入り口までなんとか戻ってきた。


 ここから更に物置まで戻る気力は当然無い。


 背負った剣も、手に持ったスコップも、その他の荷物も全部投げ出して、床にへたりこんだ。


 「なんで俺がこんな目に・・・。」


 フィクションなんかで誰かの口から出てるのを見た時は、「何言ってんだよこいつwww」と笑っていた台詞が自分の口から出てしまう。


 別にそいつらみたいに死にそうな目にも、誰かからの裏切りにもあってないのだが、ここはヌルいけどキツいんだよ・・・。


 単に生きていくだけなら簡単に出来てしまうのもくじける一因だ。


 「元の世界に戻る」それだけしか目標を持ち得ないのに、それへ繋がる道筋が全く見えない。

 

 かろうじてかすかに希望が持てるダンジョンはあの調子である。


 移動距離だけ異様に長いだけで、仕掛けもヒントも謎も無い。

 穴を掘って、その穴を埋めてを延々と繰り返させる刑罰に近いんじゃねーの、これって?


 いいや、今日はもう、ここで寝よう・・・。





ノッカーですんで、ある意味正しい使用法です

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