第18話 語られた『真相』
「半妖の娘は一緒にいないようですね。
まぁ、いいでしょう。
この女でダメなら、
次はあなたを使って誘い出せばいい。
わらしべ長者というやつです」
黒い軍服に身を包んだ5人の男たち。
その中心で、
登戸が冷酷な瞳で、赤洛を見据えていた。
1番ヤバいのはあの男だが、
他の4人も、術士としてかなりレベルが高い。
男たちの身から立ち昇る霊力は、
凄まじいまでの密度と禍々しさを孕んでいる。
武装した大人の男たち。
自身を取り囲む彼らの姿を見た瞬間。
赤洛の脳裏に、遠い昔の記憶がフラッシュバックした。
『ワシらは人間たちに騙され、呪いをかけられた』
人間に見られると、死ぬ呪い。
かつて山に押し入ってきた人間たちに見つかり、父と母が黒い煙となって消えていったあの瞬間。
呪いを免れた赤洛は、死ぬことはなかった。
けれど、まだ幼かった彼は、目の前で両親が消えゆくのを、ただ見ていることしかできなかった。
無力なまま、逃げ出すことしかできなかった。
以来、赤洛の魂には、『人間』に対する根源的な恐怖が刻み込まれている。
故に、この場面において、
彼は迷うことなく『逃亡』を選択した。
「梨香、逃げるぞ!」
赤洛は梨香の手を強く握りしめた。
確かに、今の彼女の様子は異常だ。
焦点の合わない目。
貼り付けたような不気味な笑顔。
本能が『彼女を置いて自分だけでも逃げろ』と激しく警鐘を鳴らしている。
それでも。
自分に残された数少ない家族を、コイツらの前に置き去りにして逃げることなど、できるはずがなかった。
梨香の手を握って引っ張る。
だが、彼女はピクリとも動かない。
「おい、しっかりせぇ!
どうしちまったんじゃ!」
声をかけても、反応はない。
まるで、人形を相手にしているような、
ぞっとするほどの無反応。
赤洛の胸中に、焦燥感と不安が広まっていく。
そんな様子を眺めていた登戸が、
わざとらしくため息をついた。
彼は腰のポーチから細長い瓶を取り出すと、
カチリとキャップを開ける。
「見るに耐えませんね。
戻ってきなさい、『スキンウォーカー』」
その言葉の直後。
――メキ。
梨香の顎が、あり得ない角度で外れた。
「なっ!?」
空を仰ぎ、限界まで開かれた口。
――グバッ。
その奥から、唐突に、
痩せこけた灰色の手が飛び出した。
――ズズズズ……。
窮屈な服を脱ぎ捨てるように、梨香の口から、獣の頭と人間の体を持つガリガリの怪物が這い出してくる。
「――!」
彼女の中から姿を現した怪物は、そのまま登戸の持つ小瓶の中へと煙のように吸い込まれていった。
あとに残ったのは、
ぐしゃりと崩れ落ちた『皮』だけだった。
「な、なんじゃこれは……」
赤洛は震える手でそれを拾い上げる。
見知った、梨香の顔。
だが、中身はない。
生々しく冷たい、
ただの皮膚の感触だけがそこにあった。
「それは、田村梨香の皮です」
「は……それはどういうことじゃ――」
「もう必要ないので、あなたにお返しします。
代わりに、あなたの皮をいただきましょう」
瞬間、登戸が間合いを詰めた。
――ダダダダダダ!
神速の踏み込みからの、連打。
赤洛はとっさに腕を交差させ、ガードする。
一撃一撃の重さは、そこまでではない。
「効かんわ!」
赤洛は巨大な腕を振り抜き、
登戸を力任せに吹き飛ばした。
登戸は腕でガード。
後方へ弾き飛ばされながらも、
空中で華麗に体勢を立て直し、
ふわりと着地する。
しかし、登戸の腕は赤く腫れ上がっていた。
「ふむ……単純な大振りでこの威力。
まともに食らうと危ないですね」
鬼の膂力は伊達ではない。
今の攻撃に闘気が乗っていたら、
完全に腕を破壊されていた。
「説明せぃ!
これはいったい何なんじゃ!」
状況をいまだ理解できていない赤洛は、スキンウォーカーが脱ぎ捨てた『梨香の皮』を握りしめ、咆哮した。
「ん、さっき説明しましたよね?
それは、田村梨香の皮。
彼女を殺して剥いだものです」
登戸は不思議そうに首を傾げた。
なぜもう一度聞いてくるのか分からない、
と言わんばかりに。
「――は?」
「帝国の安寧を守るわれら陸軍の取り調べに対し、
彼女は虚偽の報告をしました。
それは明確な反逆行為であり、死刑は妥当です。
その上で、任務を達成するための道具として、
彼女の死体を有効活用させてもらいました」
登戸は最悪の事実を、事務的な口調で告げた。
悪びれる様子など微塵もない。
「スキンウォーカー。
最近、アストリア連邦から密輸した妖怪です。
人や動物の皮を被って、擬態することができます。
初めて使役しましたが、なかなか有用ですね。
――あぁ、そういえば」
彼はさらに、事後報告を重ねる。
「あなたの妻?を殺したのも私ですよ。
名前は、そう、田村真衣でしたか」




