本編 9話
音とユーマはエヴァーとロスト、それぞれと契約を終え再び顔を合わせた。ユーマは言う。
「オト。覚悟は良いな?」
「うん、もうとっくに出来てる。行くよ、ユーマ。」
そう言葉を交わし、本の悪魔を見据えた。本の悪魔は少年2人を見て言った。
「何をしていたのだ。私の舞台はまだ終わっていないというのに。」
それを聞いたユーマは、鼻で笑い
「その舞台はもうすぐ終わるよ。僕たちが終わらせるからね。」
と余裕を見せた。それに音も続く。
「本の悪魔、貴方の陰謀は僕たちで止める!」
「…良いだろう、止められるものなら止めてみろ!」
本の悪魔の周囲に魔法陣が現れる。そこから弾幕が雨のように降り注ぐ。音とユーマはそれを避けながら神秘の異能書籍を開いた。
「神罰執行!」
「流星群!」
白の神秘の異能書籍からは雷撃が、紺の神秘の異能書籍からは流星の弾幕が放たれる。予想外の出来事に本の悪魔は驚き、その攻撃を直に受けてしまう。
「!!!!!」
同時に襲い掛かる攻撃の痛みからか、本の悪魔が咆哮を上げ空中でのたうち回る。
「確実に効いてる!これならいける、絶対に!」
「まだまだ行くぞ!」
音とユーマは地上から絶え間なく攻撃を打ち続けた。それが続くと流石の本の悪魔も苛立ちではらわたが煮えくり返っているだろう。
「くっ…私に攻撃するな、人の子の分際で!」
本の悪魔が突風を放ってくる。音とユーマは吹き飛ばされ、壁に激突した。そんな2人に本の悪魔は問いを投げた。
「何故だ、何故抗う!私の支配下にいれば、全てが良くなると言うのに!」
「だから…それが良くないって言ってるんだよ。分からないのか。」
ユーマは背中の痛みに耐えながらその身体を起こした。音もまた身体を起こしながら言った。
「貴方の言う理想の世界は…決してあってはならない世界の形…!僕たちは、それを阻止するためにここにいるんだ!」
音は先に立ち上がり、ユーマを立ち上がらせる。そして神秘の異能書籍を手に本の悪魔と対峙した。
「だが…貴様らはもう満身創痍だ。何も出来んだろうに。もう降参しても良いのだぞ?」
「確かにな。けど、僕らには頼もしい味方がついてるんだよ。」
ユーマはそう言って神秘の異能書籍を開いた。音もそれに続く。白の神秘の異能書籍が薄黄色に、紺の神秘の異能書籍が群青色のオーラを放っている。そこで本の悪魔は気づいた。あの2人がいないことに。
「…ま、まさか!」
「ようやく気づいたか。でももう遅い。遠慮なく倒させてもらう!」
「そろそろ幕引きといこうか、本の悪魔!」
そう言い、音とユーマは詠唱を開始した。
「黄昏の光をここに、エヴァー・ブック!」
「逢魔の闇をここに、ロスト・ブック!」
神秘の異能書籍は宙に浮かび、強い光を放つ。それが止むとそこには2人の人物が立っていた。ーーそう、エヴァーとロストだ。2人は手を繋いで音とユーマの元へ降りてくる。
「2人とも、よく耐えたね。あとはボクたちに任せて。」
「バックアップをお願いすることになるけれど、大丈夫?」
2人の頼みに音とユーマは頷いて言った。
「うん、任せて。2人は思いっきり戦ってよ。」
「音の言う通り、背中は僕らが引き受ける。」
その返答にエヴァーとロストは安心したような表情になる。そこへ本の悪魔が焦りを含んだ様子で口を開いた。
「管理者共だと!?一体今までどこにいた!」
その問いに、ロストが答える。
「そんなの少し考えれば簡単なことだよ。まあでも、予想も出来ないだろうから教えてあげるね。ボクたちは今この瞬間、神秘の異能書籍の概念そのものになったのさ!」
「な、何…!?」
「私たちは2つの異空間の概念であり、神秘の異能書籍の1部でもある。でもそれだと不完全な上、貴方を倒すには至らない。そこで考えたの。それならば神秘の異能書籍の概念そのものになってしまえば良い、ってね。」
そうエヴァーが説明した。本の悪魔は憤慨し、それを否定する。
「そんなこと、出来るはずがなかろうに。」
「否定したって無駄だよ?だって現に出来てるじゃないか。ボクたちが戦線に出てこなかったのはその準備があったからなんだ。オトとユーマに時間を稼いでもらったおかげで実現出来たんだよ。」
嬉しそうに言うロスト。その横でエヴァーは本の悪魔に言い放った。
「本の悪魔、もう諦めなさい。もう貴方は終わりよ。」
はっきりと言われた本の悪魔は怒りに打ち据えた表情で叫ぶ。
「まだだ…まだ終わっていない!私はこの世界を支配するに相応しい者なのだから!ここで潰えてたまるものか!それを邪魔する貴様らを、今ここで終わらせてやろう!」
本の悪魔の周囲に無数の魔法陣が現れる。そこから弾幕が放たれ、エヴァーとロストを消さんと降りかかる。だが弾幕は2人に届くことはなかった。2人の前にある見えない壁が攻撃を全て防いでいるようだ。本の悪魔はそれを見て動揺を隠し切れない。
「なっ…!」
「無駄だよ。ボクたちにそんなちっぽけな攻撃なんて効かない。もうやけくそになったのかな?」
「もうそろそろ、自分の立場を弁えたらいかがかしら?貴方は弱者になったのだから。」
エヴァーとロストはそう言った。強者の余裕とは正にこのことだ、と思いながら音は2人の背を見つめた。
「ロスト、行きましょう。私たちの手で終わらせるわよ。」
「勿論だよ、姉さん。」
2人は手を繋ぐ。そしてもう片方の手を掲げた。白と黒の弾幕が球体になって肥大化していく。人が包まれるくらいの大きさになった時、弾幕を本の悪魔に向かって同
時に投げた。
「天の恵み(サンライト・ログレス)!」
「遍く夜のように(ドリーム・キャッチャー)!」
「「合技ーー」」
「「黄昏と逢魔よ、共にあれ(デイライト・フロンティア)!」」
2つの弾幕は重なって本の悪魔を包み込む。本の悪魔は叫びを上げながらその中でのたうち回った。そして外へと手を伸ばす。
「私が、悪かった!だから、助けてくれ!」
許しを乞う本の悪魔に対し、エヴァーとロストは言う。
「残念ながら、助けることも許すことも出来ない。貴方はそれ程のことをしたのよ。地獄で償いなさい。」
「姉さんの言う通りだよ。まあでも、キミは天国はもちろん、地獄にすら行けないと思うけどね。愚かなやつだよ、本当に。」
2人の少女の冷ややかな視線を見て、本の悪魔は悟った。もう救いは得られないのだと。許しを乞うたとて、もう無駄なのだと。それと同時に弾幕が爆散し、それに伴って本の悪魔は叫びながら消滅していった。
…それから数分して。黄昏図書館にいつもの景色が戻って来た。それを見た音はその場に座り込んだ。
「オト!」
ユーマは慌てて音を支えた。その声にエヴァーとロストも振り返る。エヴァーは真っ先に音に駆け寄った。
「音、大丈夫?」
「うん、なんか安心しちゃって。ごめんね、驚かせて。」
そう言って笑い、ユーマの肩を借りて立ち上がる。そして黄昏色の空を見て言った。
「…終わったね。長い戦いだった…。」
「あぁ、長かった。頑張ったよな、僕たち。」
ユーマも同じように空を見上げて言う。背後からエヴァーとロストが声をかける。
「音、ユーマ。本当にありがとう。」
「2人がいてくれなかったら本の悪魔は倒せなかったと思う。心から感謝するよ。」
2人の言葉に音とユーマは振り返り顔を見合わせた。そして笑顔で言葉を返した。
「僕らは何もしていないよ。でも、そう言ってくれて光栄に思う。こちらこそありがとう。」
「2人の大切にしている世界を守れて良かった。僕もオトも安心したよ。」
ーーその後もしばらく話をしている4人を、黄昏色の空は優しく見守っていた。
数日後。音は黄昏図書館にやって来た。今日はとある用事があって顔を出したのだ。
「あ、もう集まってた!ごめん遅れて!」
「あら、音。焦って来なくても良いのに。」
エヴァーの優しい声に安心しつつも、音はもう2人の人物たちにも声をかけた。
「待たせてごめんね。ユーマ、ロスト。」
「大丈夫だよ、オト。僕らも来たばかりだったし。ね、ロスト。」
「うん!だから大丈夫だよ。」
ユーマとロストもそう言ってくれたので、音は安心しつつ切り株に腰を降ろした。
「それで話って?」
音は早速切り出した。今日ここに呼ばれた理由としては、ユーマとロストから話があると言われたからだった。ユーマが話し出す。
「えーと、ね。単刀直入に言うと…僕とロストを異変調査倶楽部に入れて欲しい、って話なんだ。」
「えっ、ユーマたち入ってくれるの!?」
驚きを隠せない音に、ユーマは説明した。
「あれから、逢魔図書館の方も色々あったけど最近ようやく落ち着いてね。丁度その時にロストが異変調査倶楽部の話をしていてさ。それで言っていたんだ。今度は僕ら2人とオトとエヴァーで4人で出来たら良いよね、って。だから、発足者であるオトに頼んでみようという話になったんだ。どうだろう、オト?」
「どうだろうも何も、ユーマとロストが入ってくれたら嬉しいよ!だから、ぜひ入って欲しいな。」
エヴァーも頷いている。それを見て、ユーマとロストは頷き合う。
「じゃあ…今後ともよろしく。」
照れくさそうに言うユーマに音は笑顔で言った。
「こちらこそ!ようこそ、異変調査俱楽部へ!」
そして音は、異変調査俱楽部で行っていることなどを細かくユーマに話したのだった。
その後。音はユーマと、エヴァーはロストと話をしていた。仲睦まじく本を読む2人を見て音は言う。
「あの2人、元通りの関係に戻って良かったよね。」
「あぁ。本当に良かった。」
ユーマは穏やかに言葉を返し、あの1件の後に逢魔図書館で起こっていたことを教えてくれた。
「あの後、ロストが正式に逢魔図書館の管理人として戻って来ることになったんだ。幹部たちにも謝罪をして、これから逢魔図書館のために行動することで償っていくということになった。幹部たちもそれで納得してくれたし、まあ万事解決ってことさ。」
「そうだったんだ。なんにせよ、良い形で解決して良かったね。」
音は安心した表情で言った。ユーマも頷き、音に質問を返す。
「エヴァーも黄昏図書館の管理人に戻って来るそうだな。ロストから聞いたんだが。」
「うん、そうなんだよね。ロストのことがようやく落ち着いたから、安心して戻れるって言ってた。」
音の話を聞きユーマはそうか、と安堵の表情を浮かべてから何かを思い出したように音に言った。
「あ、そうそう。オトにサプライズがあるんだ。内容は言えないんだが、楽しみにしていてくれな。」
「え…うん、分かった。」
音は首を傾げつつも了承した。数日後、ユーマのサプライズの意味を理解することになろうとはこの時の音はまだ知らない。
どれだけ時間が経っただろうか。ユーマは一度逢魔図書館に戻ることになり、エヴァーはツリーハウス内の本を整理すると言って籠ってしまった。音は暇になってしまったため、黄昏図書館を歩き回った。そんな音に背後から声をかける者がいた。
「オト。」
ロストだった。音は振り返ってロストに声をかけた理由を聞いた。
「どうしたの?」
「暇になっちゃったから話し相手が欲しくて。相手してよ。」
「良いよ。丁度僕も暇だったから、相手になるよ。」
「やったー、ありがとう。」
気に入っている場所に案内すると言って、ロストは音の手を引っ張って行った。
「久しぶりだな~、ここに来るのも。ほらオト、早く座って!」
「うん、分かった。」
ロストの隣に腰掛ける。因みに案内された場所は、黄昏図書館の奥にある木陰だった。聞けばこの場所でロストはよく昼寝をしていたそうだ。
「にしても、ここで昼寝なんてしてよくエヴァーにバレなかったね。」
「バレなかったというか姉さんは来ても良いよ、って言ってくれていたからここに来て何をしようが自由だったのもあるんだ。おかげで夜の間は良い感じに起きていられるんだよ。」
「そうなんだ。それは良いね。」
嬉しそうに語るロストに、音もまた笑顔で言葉を返した。
「あ、そうだ。ロストに返さないといけない物があってさ。」
「え、なになに?」
「これなんだけど…。」
そう言いながら音がバッグから出したのは『不思議の国のアリス』の異能書籍だった。ロストはきょとんとした顔で言った。
「アリスじゃないか、それ。どうしてボクに?」
「エヴァーから聞いたんだ。ロストが一番気に入っている本だってね。管理人に化けてた時もこれを使っていたのは、気に入っていたからだったんだよね?」
「!…キミには何でも分かっちゃうんだね…そうだよ。アリスはボクが一番気に入っている本なんだ。昔、姉さんが読み聞かせてくれた時からずっとね。」
空を見上げ、目を細めて懐かしむように言うロスト。その表情を見て、音は言った。
「2人で異変調査俱楽部をやっていた時も、最終決戦の時も勝手に使ってごめんね。この本はロストに返すよ。」
音がそう言うと、ロストはくすっと笑って
「全然良いんだよ。勝手に使ったって言っても、いつもやむを得ない時だったしさ。気にしないで。」
と言った。そして言葉を続ける。
「その本はオトにあげるよ。アリスもキミが主で良いと思ってくれているはずだから。」
ロストは柔らかい笑顔でそう言った。音は、
「分かった。ありがとう、ロスト。」
微笑んでそう言うのだった。
とある日の朝。音は蓮と明人と学校に向かっていた。いつもの日常が戻って来た。音にとってはそういう感覚だった。人間界の裏であんな事があったなんて友人たちは知る由もないのだから。いつものように本を開き、読みながら歩く。
(蓮と明人は知らなくて良いんだ。2人には、平和に過ごしていて欲しいから。)
そんな思いを内に秘めて、音は歩くのだった。
学校に着いてクラスメイトたちと挨拶を交わす。その後、音は自席に着き本を読んでいると来訪者がやって来た。
「雨宮。」
「キミたちは…僕に何か用?」
音の読書趣味をからかい馬鹿にしていた連中だった。声をかけてきたリーダー格の男子は気まずそうに頭を下げた。
「今まで馬鹿にしてごめん。」
「…どういう風の吹き回し?何で僕に謝る気になったの?」
音がそう聞くと、リーダー格の男子は言った。
「お前が教室にいない時に蓮と明人に言われたんだ。『いい加減に音のことからかったり馬鹿にして楽しむの止めろ。ダサいから。』って。反論したんだが、『ここにいるやつ全員がそう思ってるからな?謝るなら今のうちだと思うぞ。と言っても、もう許してもらえないだろうけどな。』とも言われたんだ。」
(なるほどね…。蓮と明人が上手い事手を回したってわけか。)
そう思いながら、音はリーダー格の男子含め背後にいる仲間にも聞こえるように言った。
「結論から言うと、キミたちを許すか許さないかで言えば許す気はない。それだけのことをしたんだから。」
それを聞いて連中の顔色が曇る。だが音は構わず続けた。
「けど…キミたちが本当に反省していることを行動で示してくれたら、許してやっても良いよ。」
「それって…。」
「もう今後一切、僕に関して何か言わないこと。他の人にも同じ事をしない事。それが条件だ。呑んでくれるよね?」
感情のない笑顔でそう言う音を見て、リーダー格の男子と背後の仲間は
「は、はい…。」
声を揃えて返事をし、沈んだ様子で席に戻っていった。それを見ていた蓮と明人は音に話しかけた。
「よく言ったな、音。カッコ良かったぜ。」
「あいつらの顔見ろよ。だいぶショック受けてるな。」
「2人が協力してくれたおかげだよ。ありがとう。」
柔らかな笑顔で言う音に、友人2人は安堵の表情を浮かべるのだった。
それから数分後。担任教師が来てホームルームが始まった。開始早々、大きなニュースが舞い込んで来る。
「今日から転校生が来ることになった。今から紹介したいと思う。」
クラス中にざわめきが起こる。その様子を見て、音はデジャヴを覚えていた。
(この展開、前もあったような…。)
音が考えている間に担任教師がざわめきを鎮めた。
「静かに!…さあ、入っておいで。」
それを合図に教室に入って来た人物の顔を見て、音は驚愕する。
(…え!?)
その人物はーーユーマだった。ユーマはドアを閉めて歩いてくると担任教師の隣に立った。
「夜星悠真君だ。皆、仲良くするように。」
「よろしくお願いします。」
ユーマ改め、悠真は深く礼をした。その後、担任教師の案内で悠真は音の右隣の席へとやって来た。音は悠真を見ながら小声で
「ま、まさかサプライズって…。」
そう言うと、悠真は音に笑いかけ小声で返した。
「驚いたか?またよろしくな、音?」
時は流れ昼休み。音は悠真から話を聞くために昼食を共にするよう誘った。蓮と明人には後ほど合流してもらう形にしてもらった。屋上に着くなり、音は悠真に問いただす。
「どういうことなのか説明してくれる?サプライズってこれのことだったの?」
「まあまあ、一旦落ち着け。食べながら話すからさ。とりあえず座れ。」
悠真に窘められ、音はその場に座って弁当を広げた。悠真も持って来ていた巾着を開けてパンを取り出す。それを見た音は
「それだけで足りる?」
と聞いてしまう。悠真は笑い頷く。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとな。」
そう言われたが、音は放っておけなかった。弁当を包んでいたバンダナを地面に広げその上に弁当を置いて言う。
「僕の弁当、一緒に食べよう。おにぎりも2つあるから1つあげる。」
「良いのか?音の弁当なのに。」
「絶対午後からお腹空くと思うよ。ご飯はちゃんと食べないと。」
妙に説得力のある音の言葉に、悠真は言った。
「…じゃあ、少し貰うよ。ありがとう。」
こうして悠真は音から差し出されたおにぎりと割り箸を受け取り、弁当のおかずまでご馳走になった。
「…で、話は?」
食べている最中、音は悠真に聞いた。悠真はそうだった、と気づき説明を始めた。
「まずは、驚かせたことと純日本人であることを説明しなかったことを謝らせてくれ。本当にすまなかった。」
「純日本人ってことは、夜星悠真が本名なの?」
「そう。前にここへ来た時に使った名前である夜使野悠真と、ユーマ・エリウスは偽名でな。夜使野悠真はお前に近づくために使った名前で、ユーマ・エリウスは逢魔図書館の幹部としての名前なんだ。」
悠真の説明を聞き、音は呆気にとられてしまった。
「なるほどね…でも、どうして今まで本名を名乗らなかったの?」
「エヴァーに言われたんだ。『今後は貴方に本名を名乗らせるわけにはいきません。だから、新しい名を与えます。』ってね。だから敵の前では『逢魔図書館の者』或いは『ユーマ・エリウス』と名乗っていたのさ。」
「そんなことがあったんだね。」
音はそこまで言って思ったことがあった。
(悠真のこと、もっと知りたい。)
と。今なら聞けるのではと思い、悠真にそれとなく聞いてみることにした。
「悠真のこと、もっと教えてよ。友達として聞きたいんだ。」
そう言われ、悠真は驚いた表情をしたがすぐ小さく笑みを浮かべて
「僕…いや、もう良いか。俺の話なんて、聞いても面白くないと思うけどな。」
と言った。一人称を変えた、ということはこれが本当の悠真なのだろう。音はそう思った。そして悠真は言葉を続けた。
「まあでも、知りたいのなら教えてやる。音、今日放課後空いてるか?」
「あ、うん。今日はクラブ活動が無い日だからね。」
「なら話は早いな。逢魔図書館に来い。お前が知りたいことを話してやるから。」
そう言われ、音は頷いた。
「分かった。ありがとう。」
すると、そこへ蓮と明人の声が聞こえた。音は屋上の出入口を振り返る。
「あ、蓮と明人だ。呼びに来たのかな。」
「そうみたいだな。」
悠真がそう言ったのを聞いて、音ははっとして聞いた。
「そういえば、前に転校して来た時の記憶って、クラスの皆から消したの?」
「ん?あぁ、消したよ。流石に消しておかないとマズいと思ってな。この学校の全校生徒には顔は知られているだろうと思って、全校生徒の記憶から夜使野悠真の記憶を消させてもらった。」
そこまで聞いて、音は納得した。
(だから皆、悠真の顔を見ても不審に思わなかったのか…。)
どこまでも悠真の凄さを実感しながら、音はそんなことを思うのだった。
弁当を片付けて屋上から降りて来た音と悠真を、蓮と明人が発見した。
「おー、音に転校生。話は終わったのか?」
「うん、無事ね。2人とも遅くなってごめん。」
「いや、大丈夫だ。それよりサッカーしに行こうぜ。まだ時間あるし。」
「良いね!悠真も一緒に行こうよ。」
音は悠真を誘う。だが悠真は首を横に振って言った。
「俺は良いよ。3人で行ってくれば良い。」
それを聞いた蓮は悠真の肩に手を乗せて言う。
「悠真、俺らとも友達になってくれよ。俺らもお前と仲良くなりたいんだ。」
「!」
「それに、サッカーは人数が多い程楽しいんだぜ?」
蓮と明人の言葉に、悠真は驚いた表情を浮かべていたがすぐ笑顔になる。
「分かった。じゃあ俺も行くよ。良いか?蓮、明人。」
「!…勿論だ!」
「そうと決まれば、行こうぜ。」
案外早く馴染んでくれた悠真を見て、音は安心した。
(良かった、悠真にも僕以外に友達が出来て。)
これからも悠真を含めた4人で思い出を作ろうーーそう音は思った。




