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サブミッション:ガスバーク一家AF撃破③

 エイロネイアとリボーテのお互いの装甲を削り合う戦闘は、少しずつその内容を変えていた。リボーテがエネルギーフィールドの使用しなくなり、その代わりに局所的に出力を高めたエネルギーシールドを展開して、ラセンビを防ぐようになったのだ。


「わたくしの射撃のタイミングを掴まれてきたか。パイロットは中々の腕前のようね。それか強化手術を繰り返された子か……」


 ローザはリボーテの正面から頭部を狙いすましたビームが、傾斜した六角形のエネルギーシールドに防がれるのを見て、ラセンビの大出力への対抗策を学習されたのを理解し、リボーテのパイロットに対する評価を改めた。

 真っ向からビームを受け止めて、回転する荷電粒子に削られて貫かれかねない所を、エネルギーシールドを傾斜させて逸らす器用さを見せたのには驚いた。予めプログラミングされていたわけではなく、即興で行ったのは明らかだった。


 リボーテの機首下部にある重力砲も柱のような砲撃から、GS大の砲弾へ出力調整を施しての速射を交えるようになっている。

 このAFが失敗作とされた理由の一つは、火器管制システムの煩雑化を解決できなかったのが理由の一つだが、I-371はその能力を持って強引に解決していた。


 フウジャが購入した金額以上にI-371が優れたパイロットであったのは、ローザ達にとってみれば不運なことであった。

 GSの十倍近いサイズの機体がGSに見劣りしない動きを見せるリボーテに、圧倒的な火力を叩き込まれながら、直撃を許さずに射撃を重ねているローザもまた、フウジャからすれば厄介な傭兵に違いない。

 そしてバーフウを退けたアイリスもまた、フウジャからすれば厄介な傭兵だった。そのアイリスが愛機の装いも新たに、戦場へと舞い戻る。


「よこやりごめんね」


 リボーテとエイロネイアの射撃戦の中を何の恐れもなく、迷いもなくイーリスが飛び込んでくる。機体に届いた通信に、ローザは白い美貌の眉間に本人も気付かぬまま皺を刻んだ。

 鋭い目つきの紫色の瞳にイーリスの映像を映して、ローザはキュッと赤い唇を固く結ぶ。美人画の中から飛び出してきたような美女の浮かべる表情は、美しいからこそ迫力を際立たせていた。

 自分自身を含めた強化人間という存在に、よくない感情を抱いているのが明らかな表情だった。


『ガーデンのアイリス、そのように重たい武器を持ってきてなにをするつもりかしら?』


「もちろん、あのえーえふをおとすんだよ。あれをはいじょしないと、さきにすすめないからね」


『確かにソレは大物食いには適した武器ではあるけれど、ギャンブルめいた代物をよくも持ち出して』


「ひっしょうのさくといってくれたまえ」


 飄々とつかみどころのないアイリスの返答に、ローザはそれ以上、言葉を交わすのを徒労と感じ、口を閉ざす。こうして短い通信を交わしている間も、三機は絶え間なく動き回り必殺の間合いと角度とタイミングを奪い合っている。

 リボーテの四本の腕の内、二本が標的をイーリスへと変えてリニアマシンガンの銃火が虹の女神を絡めとろうと伸びて行く。それを予め撃たれるタイミングも射線も見えているように、アイリスは回避してぐんぐんと距離を詰める。


 イーリスに火線が分散した分、回避の負担が減ったローザはアイリスに感謝するべき状況に複雑な思いを抱きながら、ラセンビの銃撃を重ねて着実にリボーテとI-371を削る。

 ダメージを重ねながらもリボーテはまだまだ動き続け、攻撃の手も緩むことはなく、むしろアイリスが加わってなお、より動きは緩急を活かし、より鋭く、より柔らかく、変幻自在な動きに変わりつつある。


『戦いながら成長している? 学習速度が速い』


 ローザはそれを成長と捉え、最新式のAIでもあるまいにと歯噛みし、


「うーん、さびをおとしているね。あぶらもさしてちょうしがよくなっている」


 アイリスはこれまでの戦闘でI-371が本来のスペックを取り戻しつつある、と判断した。


「がくしゅうしてつよくなりだすのは、もうちょっとあとかな」


 その上で学習を始めるとしたらこれからだ、と分析している。

 リボーテにダメージが積み重なってなお、一向に動きが鈍らないのはI-371の操縦が損傷をカバーして有り余っているからだ。

 この上、更に学習して成長するというのなら、果たしてローザとアイリスを持っても撃墜できるかどうか……

 だが、アイリスに焦りはなかった。手術によって焦りが生まれないように改造されている所為もあるが、生来の気質でもおかしくはないのがアイリスだ。


 降り注ぐラセンビをピンポイントで展開されたエネルギーシールドが防ぎ、同時にイーリスに射撃を加えながら距離を縮ませまいと、リボーテが不規則な機動を描いて虚空に複雑な軌跡を描き続ける。

 イーリスが受け取ったのは、両腕の武器だけだ。エイロネイアのように機動力や加速性能を向上させる追加のブースターはない。いくらアイリスでも一向に速度を緩めないリボーテを捕らえうるか?


「それではろけっとてんか」


 イーリスが両腕に持つ長方形の箱の後部装甲が展開し、そこからバーニアが露になると重力制御による空間の揺らぎが生じ、イーリスが流星のように一気に加速する。

 ロケットではないが、爆発的な加速はI-371の虚を突き、リニアマシンガンは的外れな射線を描く。


 リボーテの動きに刹那でさえ短い迷いが生まれた。イーリスの速度の変化に対応する為の間だ。迷いと言っては酷であろうか。だが、それを見逃さないアイリスとローザを前にしては、致命的な隙だと指摘せざるを得ない。

 ローザは回避機動を最低限に絞り込み、出血を覚悟で攻勢に打って出た。立て続けに連射されるビームを受け止める為に、エネルギーシールドが連続して展開され、タイミングを間違えれば機体を直撃する射撃をI-371は警戒せざるを得ない。


 同時に急速に距離を詰めてくるイーリスへの警戒の度合いを改めねばならず、瞬間的にI-371に掛かる負荷は爆発的に増大した。

 リボーテから伸びる火線が、不意に半減した。イーリスでも、エイロネイアでも、ましてやラッキーデイやテッカロン、ライジングフォースでもない。


 あらぬ方向から飛来した機体の発射したビームが、正確無比な狙いによって二本の腕を撃ち抜いて爆散させたのだ。その機体をアイリスは知っていた。

 エイロネイアを上回る速度で戦場に乱入してきた大型のGSの名を、アイリスではなくダイドウが口にした。


『ウンブラだと? 今回の作戦に参加はしていないはずだ。油断するな、アイリス。助けの手を伸ばしてきたが、なにを考えているかは分からん』


「うん。でもとりあえずはおおものをたおしちゃう」


 アイリスがダイドウと言葉を交わしている間に、好機と見做したエイロネイアがリニアマシンガンに被弾しながらラセンビを発射。螺旋回転するビームはリボーテの残る二本の腕を撃ち抜いて、攻撃手段の一つを完全に奪い去る。

 ウンブラ、そしてライトの糸は不明だがリボーテを落とすのに、絶好の機会であるのは否定できない事実だった。イーリスが機体と武装による加速で、ついにリボーテを間合いの内に捉える。


『横槍すまないな。アイリス君。さっさと片づけてしまうと良い』


 その直前、あまり、すまなそうに思っていないライトの声に、アイリスは答えなかった。

 一応は傭兵として振舞っているのだから、ガスバーク一家に恨みのある誰かが個人的に雇った可能性もある。必要ならばリボーテを沈めてから問いただせばいいのだ。

 イーリスの左腕の箱の前半分が上下に展開し、巨大な爪を思わせる形へと変化する。それぞれ九十度開いた爪がリボーテの頭部を挟み込み、急遽展開されたエネルギースキンと干渉して、両機のエネルギーが周囲へと荒れ狂う。


 巨大な爪が敵機のエネルギースキンを減衰させ、その本体に潜む本命が牙を剥く。箱内部の重力加速機構によって、凄まじい速度で特殊合金製の杭がリボーテの頭部の後ろへと撃ち込まれる。

 リボーテの重装甲を貫通した杭によって衝撃が伝播して、内部をズタズタに破壊しつくす。行き場を求めて荒れ狂う衝撃がコックピットにも達し、I-371は咄嗟に歯を食いしばった。

 AFのような大型機動兵器や艦艇の装甲を撃ち抜く為に、ギンカ重工の開発した重力加速杭打機“ヘビーインパルス”は、そのコンセプト道理に大きなダメージをリボーテへ与えていた。


「さすがにおっきいね。いちげきじゃたおせないや」


 左腕の杭を打ち込んだ姿勢のまま、イーリスの右腕が大きく振り被られて、こちらは全部の装甲が後ろへとスライドして、砲門らしい穴が露となる。密着するほどの至近距離での使用を前提とした大出力のビーム砲だろうか。

 だがI-371はまだ足掻いていた。リボーテの機体後方にある単装ビーム砲がイーリスを捕らえ、吹き飛ばさんとビームが迸る。


 エネルギースキンによる守りがあれども、大ダメージは間違いない攻撃を、イーリスは右腕の武装で防いで見せた。

 前部に開いていた穴から、緑色に光り輝くビームのドリルが出現し、これが背後から撃たれたビームを弾いたのである。ラセンビは回転するビームを撃つ武器だったが、これはビームドリルを直接相手に叩き込む為の武器“ギャラクシス”。


「さようなら」


 ビーム砲を弾く為に振り上げられたイーリスの右腕が、アイリスの言葉と共に振り下ろされて、光り輝くドリルがリボーテの装甲を一気呵成の勢いで穿った。

 代わりにヘビーインパルスを引き抜き、根元まで突き込んだギャラクシスの後方のバーニアから空間の揺らぎが長く伸びて行く。それは重力制御ユニットの稼働を意味する。


 イーリスの機体ごとギャラクシスが突き進むごとにリボーテの機体を抉り、原型の分からないパーツや漏れ出たエネルギーが、血肉の代わりに周囲へとまき散らされる。

 エネルギースキンで機体が保護されているのを良いことに、イーリスはリボーテの内部を構わず突き進み、ものの数秒でリボーテの機首部分を貫通し、大穴を開けることに成功する。


 貫通してから数百メートルほど進んだところでイーリスが旋回し、リボーテの残る胴体にも穴を開けようかとした時、ウンブラの撃ったビームが次々とリボーテの胴体に突き刺さる。

 更にウンブラの左手のビームソードから全長三十メートルを超すビーム刃が伸びて、一気に距離を積めた後、穴だらけになったリボーテを見る間に切断してゆく。


 随分と手間をかけさせられたリボーテが、ウンブラに美味しいところを持って行かれたような展開だが、アイリスは特に文句を言うでもなく、切り分けられたリボーテが次々と爆発してゆく光景に視線を寄せていた。

 これでは残骸の回収は出来そうにない。あるいはそうする事が、ライトの目的かもしれない。かといって今のイーリスの武装では、ウンブラの相手をするのは厳しいところ。


『美味しいところを持っていって、悪いな。こちらも仕事なのでね。手心は加えられないのさ』


「がすばーくいっかのじゃまをするのがおしごと? それともわたしたちをたおすのがおしごと?」


『いやいや、私の受けた仕事はこのAF、リボーテの破壊だよ。君達と敵対する必要はなく、ガスバークを攻撃する必要もない。私はもう仕事を終えたのだからね』


「ふうん。そのりぼーてっていうきたいのでーたが、ふぁーえでんにまわるとうれしくないひとたちからのいらい?」


『ふふ、どうかな。他人の詮索はしないのが傭兵のマナーだろう? 私個人としてはもっと君達と共に戦いたいのだが、余計な仕事をすると他のメンバーに叱られてしまう』


 幸いにしてライトもこの場でアイリス達と敵対するつもりはないようだ。レイデンとは別の派閥の人間から仕向けられたのか、それともレイデンからの指示を受けたのか。


「せっかくのきょうとうだけど、みじかいあいだだったね」


『ああ。それにこれ以上、ガスバークの隠し玉はなさそうだ。私が協力しなくともバルチャーネストを制圧するのは、君達だけで十分だ。では私はこれで失礼しよう


 言うが早いかウンブラが踵を返して、再び来た方向へと去って行く。アイリスの瞳はウンブラがいつの間にか、右腕にリボーテの頭部らしいユニットを抱えていたのを見逃さなかった。


「ぱいろっとはついで? つぎにあうときはてきかな」


 今回は見逃された印象が強い。だがガスバーク一家を始め、ザギオンの息のかかった武装勢力を壊滅させて、周辺宙域が安定化すればいよいよ傭兵の真似事を止めて、本格的に敵対するだろう。


「わたしもいーりすも、もっとつよくならなきゃね」


予約投稿を忘れておりました。申し訳ありません。

長かったガスバーク戦はこれでおしまい。サブミッション二つをこなしたので、報酬もがっぽりです。

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