第4話 暴走
それは唐突に起こった
ガァッ
ヒヒンッ
「なぁっ!?」
雨のように降り注ぐ矢に多くの騎士達は防御をするまもなく打たれ、酷い者は馬に被弾しその馬が痛みのあまりに暴れまわり落馬する者もおり、落馬した者達の少数はその馬の蹴りにより内臓の破裂や肋骨などを始めとした骨の骨折をする者がいた。幸いながら、甲冑がそれなりの強度があったおかげで死人はいないものの重傷者は出ていた。
また、シンア小隊長も落馬する運よく自身の愛馬から距離がある場所に振り落とされた為に体を強打するだけですんでいた。
「上から敵だと!?」
痛みに表情を歪めつつもシンア小隊長はよろよろと立ち上がるが、少し離れた場所からリュイが「シンア小隊長!!すぐさまそこから離れて下さい!!」と大声で叫ぶも、「私に指図するな」とシンア小隊長が口を開けるも、ふと急に暗くなった事にシンア小隊長が気づき上空へと視線を向ける。
視線に映ったのは白髪の獣族。その事実にすぐさま腰に備えている剣の柄を握ろうとするもその少年の攻撃が早く、
『これは火弾 敵を撃ちぬき燃やせ』
少年の一語によって発動した爆発にシンア小隊長は後方へと吹っ飛ばされるが、リュイが背後で止めた事によってそれほど飛ばされなかったものの、先ほどの爆発によって出来た火傷が酷く、顔の右半分の肌が爛ただれ、血が滲んでいた。
すぐさま視線を少年へと移せば、少年もまた先ほどの爆発でリュイ達か前方へと飛ばされているもシンア小隊長のような怪我は1つも負っておらず再び次の魔法の詠唱を唱え出す。
『幾多の戦いを乗り越えた剣よ 我が元に来たれ 来たれ』
唱えられている詠唱にリュイはゾッと体を震わせる。
それは恐怖なのか、武者震いなのかリュイ本人はその時は知らなかった。けれども、それに気づいたのはリュイだけではなく、フードをかぶっている人物も気づいたようで、魔法が発動する前に少年を撃とうと腰に下げていた鞘から剣を引き抜き、少年へと向かう。後方にいるリュイから「カンユ上だ!!」と声が聞こえたと同時に
『風は矢となり敵を撃つ』
声と共に聞こえた風を切る音。フードをかぶった者、カンユはすぐさまに自身の顔を防ぐように剣の刃でカバーするものの
『再びその刃に敵の血を注ごう』
前方にいる少年の詠唱を止める事は叶わず、その少年を中心に広がる魔法陣にカンユは視線を少年から外してしまった。その一瞬で襲ってきた衝撃にカンユは後方へと飛ばされる。
「アルス、ナイス」
「クレアもナイスフォロー」
上空から舞い降りてきた少年、クレアは翼を隠し、アルスの横へと風のマナの協力のもと無事に着地するも、その顔には疲労が濃く出ているが表情はそれを押し殺すように笑っていた。
アルスもまたそれに気づいている為に早く、終わらせようと先ほど召喚した剣を握る手に無意識に力が入る。
「黒い羽根…まさか魔族‼魔族と獣族の分際で、我々に攻撃して子供だからとタダで済むと思っているのか!!」
自身が所属する小隊長の前だからと敬語を使っているがその表情には明らかに怒りが滲み溢れていた。怒りはリュイだけではなく、その周りにいた騎士達もまた同じ表情をさせてる。
「最初に仕掛けたのはそっちだ」
それに臆する事もなく、なおその二人の瞳にもまた騎士達を睨む。
+*+*+*+*+*
ガタッ
急に止まった馬車に馬車の中にいた村人達は声を漏らす。「また休憩かしら?」や「あ・・・村に帰りたい」と言葉を漏らす。
「父様・・・一瞬魔力を」
「・・・あぁ、何かしらの事態が起こったんだろう・・・」
その事態に2人は今がチャンスなのではと思った。この事態のドサクサに逃げれるのではないのかと、前の方から感じる魔力にいまだ戦闘は続いてるのだと、けれども、きっと二人が行動に出ればここにいる村人は騒ぐはずだ。そうすれば、まだ、周りにいるだろう騎士達にばれてしまいケイルを、マーレを傷つけられるのではと、その考えが脳裏に過ぎるたびに体が動かず一分、また一分と時間は過ぎていく。
ドンッ
大きく馬車が揺れる。
その揺れに、村人たちの恐怖は増大し大声をあげる者が出始めた。それは伝染し、村人は外へ出る為に入り口である場所へと駆け寄る。
その時にケイルを押しどけるように「邪魔だ!!」「あっちへ行け」と村人達の手が、足が、ケイルを押しのける。
「ケイル!!下がるぞ」
「と、とさま・・・」
伸ばされたマーレの腕を掴み一気に村人達の集団から抜け出す。
「ありがとうございます・・・」
「礼は良い・・・だが・・・」
2人が先ほどいた場所は酷い光景となっていた。「出せ」、「ここを開けろ」と扉を叩くものや「どいて私が先よ」、「老人を先にいかせんか!!」と先に外に出たい者達によって振り上げた腕が相手へと振り下ろされ、次第と場車内で殴り合いが始まる。
幸いにこの馬車の内には子供達はおらず、ほとんどが大人たちであった。だけれどもこの暴動も長くは続かなかった。
ゴンッドンッ
2回大きく揺れた馬車は横転した。それにより一箇所にとどまっていた村人達はその揺れで多くのものが転び、人の下敷きとなる者が出ていた。けれど、そこから慎重に下りていればそんなに酷い被害は出なかったのだろうが、そうも行かず、先ほどの衝撃によってさっきまで開かなかった扉が開いたせいで我先へと人を踏みつけ、押しのけ外に出る者が出始めた。
その結果、一番下にいた者はその重圧に耐え切れずに内臓を破裂させるもの、息絶えるものが出始めた。その光景はさながら地獄の光景。その光景を見ていたケイルは思わず咽を引きつった悲鳴を漏らし、村人たちに怯える。マーレもまた、村人たちを冷めた目で見ていた。
だけれども、扉が開いた事によって遠くの方から聞こえてくる声が聞こえてきた。それは「あんなガキ共をさっさと倒せ」、「黒髪の奴が弱い重心的に狙え」と声が届く。そして思う、戦闘しているのはクレアとアルスではないのかと。ケイルの体は動き出し、目の前で争っている村人を押しのけ外へ出る。例え、今自分が踏んでいるのが地面ではなく人だろうが、誰かが腕を、髪を強く引っ張られようともケイルは進むのをやめなかった。
そしてようやく外に、戦闘場所に辿る着いた時
「クレアッッッ」
ケイルの視界に映ったのは血まみれで倒れているクレアの姿であった。
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