4-2
これはまだ、騎士達に奇襲を行う前。
「僕が騎士達に先手の攻撃をするからアルスは地上に降りてリーダーと思われる人を攻撃して」
「え・・・?でも俺から離れたら・・・」
「それはきっと大丈夫・・・この弓がアルスほどでもないけど魔力の補充をしてくれる」
その言葉にアルスは僕が持っている白い弓に視線を向け「これにそんな力が・・・」と言葉を呟く。
「僕もこの弓に教えてもらった」
「弓って喋るのか?」
「さぁ?これが特別なのかな」と苦笑を浮かべながら答える。
風のマナが僕に教えた事はこの弓に付属している“風の恩恵”によりその者の魔力の回復と増大、並びに風属性じゃないものが触れれば簡単な風属性を使用可、風属性の者は更なる強力な魔法を使用可と教え、この弓に付属している力によってアルスほどではなくても魔力の補給が出来た。
「だから、この弓を持っている限り単独で行動できる」
今だ信じられない眼差しを向けるもそれに対して苦笑を零すだけだった。そして、説明後に見つけた騎士達に奇襲を仕掛けたのだった。
最初はまだ騎士達の動揺などで有利だったもが、騎士達の隊長であるシンア小隊長が役に立たないと判断したリュイが素早い対応で騎士達をまとめ出し戦闘は長引き出し、その結果、ただでさえ魔力不足でそれを物なので補っているもそれも限界が訪れそれが戦闘中に襲ってきたのだ。
「っっっ」
突然の強い頭痛に、視界がぼやけた事によって目の前に迫っている攻撃を防御一つ取れないまま攻撃を受け後方へと飛ばされる。
ぼやけた視界に映りこむ赤にそれが自分のものだと、自分は目の前の相手に斬られたのだと自覚する。
「がぁっ・・・ぐぅっ・・・くそっっ」
右肩から腹にかけて感じる痛みのおかげでぶれていた視界は先ほどよりもクリアになったものの痛みによって右腕に力が入らない事に思わず舌打をこぼす。
「先ほどまでの威勢はどうした」
剣に付いた血を振り払うように上下に振り下ろしながら地面に転がる僕の元に歩み寄るカンユを睨みつつ自身の弱さに苛立つ。
もっと魔力があれば、もっと力があればと今更と思う考えながらも、今はそう思わずにはいられなかった。何一つ奪われた者を取り返されずに死ぬのか?
「反逆罪としてここで殺す」
振り上げた剣に逃げないと、防がないとと思う半面、この戦いが始まる前に心のどこかに隠してた恐怖が一気に増幅し、思わずギュッと目を強く閉ざしてしまった。その行動は戦いを放棄した、敗北を自覚したのと同じ行動であった。
ザシュッ
肉を斬る音が耳に入るも、一行に痛みは襲ってこなかった。その代わりのように温かい液体が顔一杯に振り落ちる。その液体の次にどさりと自分に寄りかかるように倒れこむ重さを感じすぐさま状況を確認する為に目を開き、自身に寄りかかるそれを視界に捕らえ言葉とならない悲鳴を叫んでいた。
「う、ふふ・・・クレア・・・間にあ、ったわ・・・」
「ケ・・・ケイル・・・」
右肩から肺までを斬られ、斬られた場所は見事に裂け、そこから止めどなく溢れる血が僕を汚す。けれども今はそんな事を気にする事もなくケイルを抱きしめる。
「何で、何で?何で僕を助けたの?ヤダよケイル」
今が戦場だと敵が目の前にいるのだと分かっていながらも今、目の前にいるケイルしか映ってなかった。
「大丈、夫。大丈夫よ・・・」
そっと触れられた手は記憶にあったような暖かいぬくもりではなく冷たい手の平であった。
それは前世の時の、母親の時の記憶を沸騰させるのに十分であった。そうケイルはあと少しで死んでしまうのだと頭では理解するが心ではそれを否定するように強くケイルの手を握る。
「親子共々まとめて死ね!!」
視界に映った攻撃態勢であるカンユにクレアはケイルを強く抱きしめ、魔法の詠唱を唱えようと口を開くよりも早く、
『全てを凍らし 砕け散る』
聞こえてきた詠唱にカンユは剣で防ぐも攻撃が当たった部分は見事に凍りつき、そしてパキッと剣を真っ二つに砕く。その事に対しカンユは驚愕に目を開かせ、攻撃が放たれた部分に視線を向けた。
「その子達から離れてもらおう」
「なっっっ」
現れたのはマーレであった。だが、普段隠している6枚の翼を惜しみなく広げている姿は日の光を受け光るせいで神々しく見えるも、周りにいた騎士達、カンユは化物を見ているような目でマーレを見ていた。
それもその筈だった、攻撃が出来ないようにと逆方向に折ったはずの腕は正常な向きとなり弓を持っており、散々痛めつけ青あざを通り越し黒や赤になっていた部分や切り傷があった場所はなくなっており、出会った頃のように無傷の姿で現れたのだ誰だって恐怖を覚えるだろう。
「と、とさま・・・」
肺に血が溜まっているせいで血を吐きながらも言葉をつづるケイルの姿に不安を掻き立てられるが自分もまた限界でありケイルを抱いている腕の力がどんどんと弱くなっていることをしりつつも無視していた。
だけれどもそれにケイルは気づいていた。だから早くしようと、決断した気持ちが揺るがぬうちにと、口を動かす。
「おね・・・がいしま、す」
「あぁ・・・好きにしなさい・・・こちらは私が引き受ける」
その言葉通りにマーレはカンユとその周りの騎士達へと戦い始めた。
ケイルもまた僕へと視線を戻し言葉を吐く為に息を吐こうとするものの出たのは血であった。
止まることなく吐かれる血に僕の顔色はよりいっそう青ざめる。
「ク、レア・・・」
「ケイル!!お願いもう黙って!!これ以上喋ったら死んじゃう・・・」
先ほどからずっと斬られた場所を必死に押さえ止血しようとするも血は止まらない。
逆に今もが触れられている感触がケイルには感じられなくなり始めていた。
「もう・・・私はなが、くないわ・・・だがらね・・・」
「嫌だ!!嫌だ!!変な事いうケイルなんて嫌い!!お願いだから」
「クレア・・・ごめんなさい。これはもう決め、たの・・・」
「ごめんなさい」そう呟いたケイルの背から出現した4枚の翼。だが、その翼はいつもとは違い強い光を放っていた。
+*+*+*+*+*
「何!?」
突然の強い光に周りにいた者達はそちらへと視線を向ける。それは遠くに離れていたアルス達のところまで届いていたようでそちらの戦闘も止まっていた。ザァァアアアァァと木の葉が風で揺れ始めたが、その風はだんだんと強くなり始め、今では一歩気を抜けば吹き飛ばされるのではないかという強風になっていた。
「っう!!何をした!!」
カンユは目の前のマーレに問うもののマーレは答える事もなく、ただただケイル達を見つめていた。
「この化物がぁぁぁぁ」
一人の騎士が恐怖のあまりにケイル達を襲い掛かる。だけれどもその騎士は二人に近づくことなく風で出来た壁によって吹き飛ばされた。それにより騎士達の中の恐怖心は一層高くなる。
風は次第に二人を包むように周囲から姿を隠すも、十秒という短い時にて
バァッ
目の前の風が弾け飛んぶ。
風の中から現れたのは10代の少年であり、隠す事もなく広げられている羽の枚数は6枚羽、神族の魔力量を意味していた。その少年の手、膝、その周りに散らばるは黄緑色の宝石がキラキラと“月”の光を受けて煌いていた。
「なぁ・・・もう夜だったか?」
「そんな馬鹿な・・・まだ昼の時間だぞ・・・」
口々に騎士達が呟き出す。そう、先ほどまであんなに爛々と自分達を照らしていたのは太陽であった筈なのに今空を見れば晴れた空に月が出ていた。
気づきだした騎士達は恐怖心が生まれた。もしかすれば自身達は今とんでもないものに出くわしているんじゃないかと気づかないうちに相手の魔法に取り込まれたんじゃないのかと恐怖は伝染し、一人の愚か者を生む。
「おおおぉぉおおおぉぉぉっっ」
恐怖のあまり悲鳴をあげながら少年へと剣先を突き出した姿で走り出した。近場にいた者達は止める様な声をかけるものの次、また次へと少年に向かって攻撃する為に走り出した騎士達がいた。が、その結果
「う、そ・・・」
「消えた・・・嫌!!喰われやがった」
今だ、視線を下に下げている少年は先ほどの騎士達の攻撃を防御する為の詠唱を唱えず、武器も構えていなかったのに、ある一定、少年がいる日陰に入った瞬間騎士達は黒い何かによって足先から飲み込まれたのだった。
「っっっ!?」
ガクッと前列、少年から近い騎士達が突然低くなった視界に慌てて下を見る。そうすれば先ほどまで月の光によって自分の影しかなかったはずが今は、黒い影が広がっていた。その影は切れる事もなくどんどんと騎士達の足を影の中へと引き釣り込み出した。それは騎士だけではなく、その場にあるもの全てを影へと飲み込み出したのだった。
次々に上がる悲鳴、「死にたくない」、「何しやがる化物」と口々に叫ぶものの影はゆっくりとだが確実に影の中へと引きずる。
「クレア!!」
少年、クレアに近づこうとマーレが上空から接近しようとするも、影の中から出てきた獣の攻撃によってクレアに近づくことは出来なかったがクレアからあふれ出す魔力の乱れを感じ眉間に皺がよる。
この乱れにはマーレは覚えがあった。
「暴走・・・」
「え?」
影をどうにか回避し、木の枝を使って移動していたアルスがマーレの傍にようやく辿りついた時に聞こえた言葉に首を傾げた。マーレは気配でアルスが近づいていた事を察知していたもののアルスの血まみれの姿にさらに眉間に皺を寄せる。それが自分達が来た事に対して怒っているのかと勘違いしたアルスの耳が垂れ「その・・・あの・・・」何を言って良いのか分からず口ごもってしまう。
「アルス」
「っっ・・・え?」
「すまなかったなこんな事をさせてしまって」
手を伸ばされた事に怯えるも暴力ではなく頭を撫でられた事に呆けるアルスに本当に申し訳なく謝罪の言葉をこぼす。
「私達が捕まらなければこんな事にはならなかっただろうに・・・」
「こんな事?」
「魔力の暴走だ」
魔力の暴走はごく稀にしか起きない。魔力量によりその被害も様々であるものの魔力量が多い者の暴走は災害レベルである。もしこのまま暴走し続けばこの森いったいが更地とかすだろう。今もここの木々の根の部分がもうすでに影の中へと引きずり込まれていた。
「どうやって止るの・・・?」
「多くは発動者を殺す事で暴走は止まる・・・」
「ほぉ、あの子供を殺せればこの事態は収まると」
バッと後ろを振り返れば少し離れた場所にリュイがいた。
リュイもまた足首を陰へと飲まれているが、その表情には恐れはなく、マーレの話を聞きその表情は嬉々としていた。
すぐさまアルスは木々を使いリュイへと攻撃を仕掛けるが、それよりも速くリュイは槍を投げ飛ばした。
通常ならば木々によって、影から生まれた獣たちによってその槍は止められるか、威力が弱まるり途中で失速するだろうと思うだろうが、リュイが放った槍は木々の合間を通り過ぎ獣を貫きながらもその威力は弱まるどころか強まっていた。だがそんな事、リュイへと攻撃を放とうとしていたアルスに気がつくことはなくそのまま無防備となったリュイに剣を振り下ろそうとした時
「がぁぁあああぁぁぁぁぁっっっ」
聞こえた悲鳴に振り下ろされた剣の力が弱まりリュイの頭をかち割る事はできなかったが、刃先は深々と斜めながらも左目を切り裂いた。だが、そんな結果は二の次、アルスは悲鳴が聞こえた方に視線を向ける。
視界に映ったのは、左手が槍の衝撃によって肘まで無くなっているクレアの姿だった。
「ハハハ、殺し損ねたか」
「オマエッッ」
高笑いするリュイにアルスは掴みかかろうとするもゴゴゴゴッという地鳴りが聞こえたと同時に影に引きずり込むスピードが速くなった。
まずいと思ったマーレはアルスを抱え、上空へと避難する。
「これはまずい・・・余計に暴走が強まっている」
「っっこれじゃ・・・」
「一つだけ手がある」
「え?」
先ほど言いかけた解決法をアルスに教える。
「それって・・・!!」
「あぁ・・・クレアは嫌がるだろうが・・・あの子を助けるにはこれに賭けるしかない・・・」
「すまない」そう言葉を呟くマーレにアルスは意を決め
「大丈夫・・・クレアが死ぬ方が嫌・・・それに嫌われてるのには慣れてる・・・」
「本当にすまない」
マーレから教えてもらった方法はこの先、一生続く禁忌の魔法であった。
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