1-2
ラーネン都市の玄関口であるシュピーレン地区では、大きな出来事が起こっていた。
「ここがシュピーレン地区。ここの大通りをまっすぐ行った場所にチェルシアン魔法学園がありますの」
四枚の白い翼を隠す事無く、先頭を歩くは金髪の少女。
その金髪の少女の少し後方、右後方を進むはこれまた見事な金髪の美青年とその左隣は黒髪の美少女であった。
三人の後方を歩くは従者であろう黒髪の青年と、くすんだ様な金髪ながらも、先頭を歩く少女と同じ白い二枚の翼を出していた。
「とまぁ、はたから見たら思われてたりして…」
「?」
ひそひそと、自分達を見物小屋の動物を見るような視線を向けてくる外野に思わずため息を吐く。
僕はこれまでのなりゆきを思い出す。
「王様、この前の戦争のご褒美にオレ達、三人をどっかの学校に入学させてくれよ」
そんな事を言い出したのは国境戦線から一ヵ月後で、ラディ―ス教団から監視役として二人の神族が訪れた三日後であった。
「きゅ、急にまた、この城にある書物ではいかんのか?」
「本を読むのは境や蓮ならともかく俺はやっぱり体を動かして覚えるタイプなんだよね」
この国の王様にタメで喋るは創装の勇者こと三鷹 蛍に引きずられるように僕もまた玉座の間に連れてこられていた。
「確かに、そうですね。本にない知識もまたほしいですね…」
黒髪の美少女である、調教師の勇者こと藤 境もまた三鷹と共に僕を引き摺って連れてきた一人である。
なぜ引き摺られたかというと、自分は二人とは関係ないと、あまり関わらないように部屋で色々調べていたのだが、二人はそんな僕にお構いなしに色々な場所に引き摺り行動する。
本日もまた勇者二人のおまけのような存在であり、ファンタジー小説などでよくある巻き込まれ異世界人である、藤井 蓮こと僕であった。
黒髪に平均な身長。
太っているわけでも鍛えてもない一般男子高校生の体格に、前方にいる勇者達のように整った容姿でもない。
本当にそこら辺にいるモブであり、村人Dらへんの立ち位置である。
現在も、目の前で繰り広げられる会話を聞いているだけである。
何せ僕自身、この会話に入って良い身分ではないと知っている。
勇者でもなければ騎士でもない。
魔法を扱う事のできない無力な異世界人。
「お父様、勇者様方もこうおっしゃておりますし、私もまた勇者方の学園に入学されるお話には賛成いたしますわ」
後方にある扉が開いたと思えば玉座の間に入ってきたこのエンビディア国第一王女であるセノン・リュゼ・アーデル。
その後方には、ラーディス教団から送られてきた監視役である、マオ・ディ・シュランゲとリーベ・ディ・フォリー。
「監視役である私達もご同行いたしますので、安全は確実的に保障しますの」
自信満々にマオがそういえば、王様は渋い顔をしながら傍に入る家臣へと視線を向ける。
視線を向けられた家臣は少し考え、「ならば、この国の最高の学園に入学を」と言葉を続けようとするが、
「いや、オレはここ以外の場所も見たいから国外で頼むよ」
蛍の唐突の、突拍子の無い言葉に王様と家臣は固まった。
だが、その会話はそこで終わる事無く、
「ならば、中立都市にございます、チェルシアン魔法学園はいかがでしょう?前、次女達がそこでしか教えてもらえないような授業もあると聞きましたわ」
「そこだけの授業、良いわね。私はもっとこの世界の事を知りたいわ」
「おう、オレは強い奴がいるなら戦ってみたいし、オレも色々知りたいしな」
三人の間を飛び交う言葉に王様と家臣が固まりつづけている間に決まろうとしていた。
「蓮はどうだ?」
「へあぁっ!?何ぃぃっっ!!」
蚊帳の外と思っていれば唐突に呼ばれたせいで変な声があがった。
その声は、その場を静まり返すのにとても効果的であり、先ほどまで賑やかだった王座の間が一気に静まり返った。
話の流れを折った事によってマオから向けられる視線はとても鋭く痛いものであり、その視線は「何邪魔しているの」と敵意がビシビシ感じられた。
こんな状況で、決まりそうになっている案に反論、意見する事を許されない状況だった。
だから「うん、そうだね。それがいい、そうしよう」と賛成の意を見せた。
「というか、あんな視線を向けなくても僕だって元から賛成なんだけどなぁ」
「藤井様?」
隣を歩くリーベが律儀に僕のボヤキに反応してくれる。
「数週間前の事を思い出してたんだ。というか、君も入学するんでよかったのか?」
「はい、私はマオ様の言う事を聞くようにと教皇様に言われております。なのでマオ様が入学すれば私も入る事になります」
「というよりも、落ち零れの私が入れるなんて光栄な事です」と微笑むその図型に胸が痛い。
彼女と、彼女達の出会いもまた僕の中で印象が強い。
「教皇の命によって我々、ラーディス教団から勇者、及び異世界の者に監視役を付けさせてもらう」
そう高らかに言われたラーディス教団からの使いの者達の後ろに控えている、ベールを被った二人の女性。
ただでさえ、背後から見える翼に驚愕しているのに、使いの者の台詞に驚愕する。
蛍や境に監視役が付くのなら理解できるが、僕にまで監視役がつくなど一切、まったくというほど想像していなかった。
「その後ろの者は、神族か」
玉座に座っていた王様は静かに答えれば使いの者は固定する。
だが、この世界に来たばかりの蛍と僕は「神族?なにそれ」と首を傾げれば、一緒にいた境が、
「この世界で最も神に愛されている種族が幻獣族と神族。ベールに被っている二人がその一つの神族ということでしょう」
境からの簡単な説明に「えぇ、そうですわ」とセノンは嬉しそうに答え、付け加えるように、
「私達、アーデル家と神族とは昔からの付き合いがありまして、勇者召喚は数千年前に神族から授かったものなのです」
セノンからの説明に思わず、元の世界に戻れる魔法があるのではと甘い期待を持ちながら、現状のやり取りに視線を向ける。
「はい、こちら右にいます神族はマオ・ディ・シュランゲと言い、教団内での有望者でございます」
マオと紹介された少女はベールを取り、白い四枚の翼を同等と広げ王様に、勇者に視線を向ける。
エンビディア国では王族でしか見た事が無かったがそれと比べるまでもなく、マオの金髪はとても神々しく、その両の目にある赤い目は全てを差し置いて一番に印象付けさせる。
「こちら左隣は、マオの補佐役であるリーベ・ディ・フォリーです」
マオよりも簡易的に紹介されたリーベは気にする事も無く、マオ同様、いやマオよりも遅い動作でベールを取り、視界を一回上げもすぐに深々と下げられた為に詳しい容姿は見えなかったが、マオのように整ったような顔立ちではなく、鼻の上にそばかすがあった。
お世辞にも綺麗形ではなかったが、何故かリーベから視線を逸らす事が出来なかった。
「了解した。この者達の部屋を用意するように次女達に伝えよ」
隣にいた家臣にそう言えば、一つ返事でその場を去る。
使いの者もまた「随時、こちら側に連絡が入りますのでお忘れなきよう」とそう残し、マオとリーベを残しその場を立ち去るのであった。
二人の部屋が用意されるまで、親睦を深めようという蛍の提案により、中庭へと移れば、
「貴方様方が今代の勇者様なんですのね!!」
零れるんじゃないかと思うほどに赤い瞳を見開き、蛍と境に近づくマオは俺の存在など知らないというように二人を自分の方へと引き寄せ、その場から離れていった。
取り残された僕とリーベ。
「おぉ、何か凄い人だな。というか去り際に僕の事、睨んでなかった?」
そう言葉を漏らしながら隣にいるリーベに話しかければ、
「ふぇ、はぁっっ、はい、何でしょうかぁぁっっっ!?」
突然の呼びかけに驚愕し変な声を上げると同時にスカートの裾を踏んでしまったのか後ろへと転んでいくリーベを僕は黙ってみていた。
唐突に起こった出来事に体は動かず地面に倒れていく光景をただただ見ていることしかできなかった。
どさっという音を立て地面に倒れたリーベ。
倒れた時にスカートの裾が捲れ、綺麗な白い生足が視界に移る。
幸いな事に小説で見るような下着部分までめくれることは無かったが、それでもそのふとももだけでも十分に刺激的だった。
下から聞こえてきたうめき声にようやく我に返り「大丈夫!?」と言葉にしながらリーベに手を差し出せば、「すいません、お見苦しいモノを見せてしまい」と捲れた裾を慌てて直しながら僕の手を取り立ち上がる。
ここが元居た世界ならばビンタと罵声が飛んでくるのに、と思ってしまった。
「嫌々、僕の方こそ眼福な物を見せていただき…」
「眼福?」と言い返された事についつい自分が本音を言ってしまっている事に気がつき慌てて訂正すれば、それが面白かったのか微笑から除かせる紫の瞳に先ほどとは違う意味で見惚れてしまったし、何か、胸が苦しくなった。
「あれは僕の中の野生を呼び覚まさせかけたよ」
「????」
言葉の意味が分からずリーベはただただ首をかしげ続けながら話を聞いてくれていた。
そしてシュピーレン地区を抜け、ヘラウス地区とゲーエン地区の境の大通りを少し行った先に、人溜りができて道がふさがれていた。
「全く、何ですかこれは!!」
マオは怯む事無くその人溜まりへと突撃し、またそれに続くように
「よし、何か面白そうな匂いがするぜ」
「どうでも良いですが、行きましょう」
蛍と蓮もまた人溜まりへと入っていった。
「うわぁ、突っ込んでいったじゃん。僕等もいかないといけないのかな…ってえ?どうしたリーベ!?」
先ほどまで普通に立っていた筈のリーベが、腹部を押さえる形でかがんでいた。
「お腹痛いの?!」と聞くも首を左右に振ろうとするも、よほど痛いのだろう、口から洩れる言葉に何をしたらいいのかわからず、ひたすらリーベのさするだけだった。
+*+*+*+*+*
「っっ」
「どうした?」
突然痛み出した右の首元、今は無い加護の印の場所が一瞬だけ鋭い痛みが走ったが、その痛みはすぐに治まったせいで、その痛みの意味が理解できず首を傾げる。
「なんだろう?のあの時とは違うけど何かに反応した気がしたんだ」
アルスは痛覚が死んでる為に印が反応しても気づけない。
クレアの言葉に意識を集中させようとするも、「この野郎!!」や「アハハハ、甘い甘い」などと言った言葉にすぐに集中を止め、今、目の前で繰り広げている喧騒に視線を向ける。
「これはいつになったら終わる?」
「さぁ?相手様が気が済むか、誰かが止めに入るかじゃないかな」
「あぁ、それか双子とニーアが気が済むまでかな」と複数の男相手に双子とニーア達が喧嘩をしているのを再び観戦するのであった。
+*+*+*+*+*
なぜ、双子とニーアが乱闘をしている事になった訳はそれは一時間ぐらい遡る
「ねぇ、ねぇ、このアイスおいしいんだけど!?」
「本当です!!」
チェルシアン魔法学園から少し歩いた場所に新しく開かれたアイスクリーム店。これもまた異世界からやって来た勇者がもたらしたレシピ似て作られた氷菓子で、最近までは貴族の間で親しまれていたが、売り上げがよかったのか最近は町中にまで店が開かれ、庶民でも食べれる値段で販売が開始された。
最初はエンビディア国を中心にお店を開いていたのだが、今年からラーネン都市にも開店し、夕方、学園が終了時間に行けば学生での長蛇の列が作られる為に中々、食べる機会がなかった。
だが今回のような授業だと出された課題をしっかりとやっていれば後は何をしてもヴァールは許してくれる為ににこうやって、普段行けれないような場所やお店に入って楽しむのがDクラスの楽しみであった。
「でも、このまま誰も魔法が解けなかったら罰ゲーム無ってことなのかな?」
「ん、ヴァール先生のことだから何か知らしかけてくるのかな、ハァ」
もう一時間ぐらい町を歩いているも誰も変化の魔法が解ける気配が無く今後の展開にDクラスのメンバーは色々、想像をする。
そんな時であった、
「あ!!」
ニーアの声と共にべチャッとアイスが地に落ちる音が聞こえたのであった。
「わ、私のアイスがぁぁぁ」
地に膝を付け、地に落ちてしまったアイスを見てニーアの大きな瞳からボロボロと涙が零れ出す。
それを見たテーゼが先程ぶつかってきたモノに、
「ちょっと、アンタ!!人にぶつかっておいて謝りも無いの!!」
と言いながらぶつかって来たモノを確認する。
ニーアとぶつかったのは獣族の男性集団の一人であった。ニーアとぶつかった獣族の男性は、「あぁ」と顔を歪ませ、テーゼへと視線を向ける。
「何だ、嬢ちゃん?」
「何だ、じゃないでしょう!!ぶつかったのに謝りも無いの!?」
柄の悪い獣族の男に食って掛かるテーゼ。
獣族の男がいる集団もまたその男と同じく柄が悪く、体系からわかるほどに鍛えられたその体格はその集団が荒くれモノの冒険家または傭兵、何かと戦うために鍛えていることが伺えた。
「あぁ、ぶつかってきたのはそっちだろうが?何で俺が謝らなきゃなんねぇ」
「はぁ!?中央を大人数で、尚且つ広がって歩いているのなら少しは他の人の事を考えなさいよ!!ただでさえ体格だけでも無駄に場所を取るのよ!!」
「さっきから好き勝手に言いやがってこのアマ!!」
「痛い目見ないとわからないようだな!!」
テーゼの言葉に怒り出す獣族の集団。
何を思ったのかテーゼは口角を上げ「グーテ?」と自身の片割れの名を呼ぶ。
「こういう時に僕を呼ぶかな?」
グーテは手に持っていた食べかけのアイスを早急に食べ終わらせ、テーゼの隣へと歩み寄る。
普段はグーテに対し反抗心を向けているも、やはり戦闘になると昔と同じくテーゼの隣に立つのは決まってグーテであった。
「はぁっ、精霊族と魔族が仲良しこよしとはな。笑わせてくれるぜ」
「というか、たった二人で良いのかよ?そっちの弱そうなやつ等全員でも良いんだぜ?」
バカにするように後方にいるクレア達の方へと視線を向ける。
「あら、私も行こうかしら?」
「駄目。やめて下さい、レレスさん。自分の服装に対して考えてください」
レレスもニーアの敵を撃つ為に一歩前に出ようとするも、近場にいたクレアに腕を掴まれそれ以上前に出ることができなかった。
「止めないで」
「止めさせてください…本当に…」
言おう、レレスは普段下着を着けない。
何故なら太股まで柔らかい体毛がある為に、下着を履くと邪魔なのだと、テーゼに言っていたのを、テーゼは隠すことなくDクラスのメンバーに報告したのであった。
確かに羽毛で隠されている為に普段、気にしないけれども、今はその足も変化の魔法によって生足である。
普段何も履いていないのだ、今日もまた履いていない。
そんな状況で足技を使われてみれば敵にも、味方にも、否、自分自身にダメージが跳ね返る。
「ハハハハ、腰抜けどもばかりだな!!」
クレア達の態度をどう捕らえたのか知らないが獣族の集団から高笑いが聞こえてきた。
だが、忘れるな。
「……さない…」
「あ?」
「ゆるさないですぅぅぅ!!」
食べ物の恨みは怖いのである。
怒りで我を忘れたニーアは杖を取り出し、男達に向かって杖で殴りかかる。
唐突な行動に獣族の男達も一瞬呆けるも、すぐに距離をとり「そんな攻撃当たるか!!」と吠えるも、ニーアが動き出したということはまた双子も動き始めているわけであり、こうして乱闘が起こったのであった。
「そ、そろそろ止めないと、周りの人達に迷惑が…」
ようやくテトが口を開いた事で、ここで回りへと視線を向ければ、少し離れた場所に結構な野次馬が集まり、それによって大通りが塞がっていることに気が付く。
「この騒ぎを聞きつけてマーレ達がきたら絶対怒られる」
「マーレが怒ったら怖い」
クレアとアルスの言葉に「あの人って怒ることがあるの?」とレレスが首をかしげながら尋ねれば、
「怒るも何も、表情は笑顔なのに回りの温度がどんどん下がっていって気づけば部屋に霜が降りてるからね」
その時の事を思い出したのかクレアの獣耳と尻尾が垂れ、アルスの眉尻が下がる。
「しょうがないですわね。止めに入りましょう」
「だから、お前はやめろ」
再び一歩、前に出るレレスに今度はアルマが止める。
その光景にテトはため息を吐きながら、
「アルマ、お願いできるかな?」
「…あぁ、少々手荒になるが気にするな」
そう残し、アルマは乱闘が続く輪の中へと向かう。
アルマが近づいた事に気づいた獣族の一人がアルマに襲いかかるもうまく避け、男はいきよいよく顔面から地面に激突させる。
激突させた男の背をアルマは無遠慮にその背を踏みつけ次の攻撃をかわし、逆に相手のいきよいよ利用し投げ飛ばすのであった。
だが、その投げ飛ばした獣族が、
「ちょっとあんた達何をしているのっっがふっ!?」
人溜まりを掻き分けながら進んできた女性に直撃したのであった。
それに対し、獣族の者もDクラスの面々も、飛ばした張本人であるアルマも、野次馬達も、驚きによって動きが止まった。
「わぁ、マオちゃんの上に人が」
「本当に、見事なまでに漫画みたいね」
今だ、獣族の男の下敷きになっている女性、マオの知り合いであろう金髪の美少年と黒髪の美少女を見ながらも周りの者達は今だ声を出すことができなかった。
「わ、わぁ!!大丈夫ですか!!すいません、すいません!!」
ようやく我に戻ったテトが声を上げ近づこうとしたが、
「こ、この神族たる私の顔を、汚しましたわね!!」
獣族を抱えるように立ち上がるマオ。
怒りでかその表情は真っ赤であり、四枚羽を周りに人がいることなど問答無用に広げられ、なおかつ彼女を中心に火の玉が出現し始めたのであった。
野次馬達はその火の玉の熱さに、身の危険を感じ、彼女を中心に否、我先にとその場所から我先にと逃げていくのであった。
「さてと、委員長。僕等はどうします?」
「え、あ、どうしよう。でも四人を置いて避難するのも嫌だし」
「ならしょうがないわね、あの暴走神族のお嬢様にはもう一度地面とお友達になってもらおうかしら」
もうすでに、神族と会い、その実力を知っている為にか目の前にいる神族に今更、驚く事も、恐怖する事もなかった。
だからなのか、
「おぉ、あいつらマオちゃんの力見ても驚かないじゃん」
「この都市には神族もいるという事なのかしら?」
「何それ!!会って戦ってみたい」
という言葉にレレスは「見たいよ」と視線を向ける事無く近くにいるクレアに言えば「僕はハーフだから、彼らの言う神族とは違うだろうね」とアルスの指で遊びながらそう答えるも、マオのほうから膨れ上がる魔力を感じ、
「雑談はここまでのようだね。アルスはグーテと一緒に結界をここら一体に張って」
グーテの方へとアルスを押すと同時に、先ほどまで繋いでいた手を離す。
離せば、変化の魔法は解けアルスは元の姿へ戻りながら言われたとおりにグーテの元へと向かう。
「テト先輩、僕等どうします?」
「うん、二人が結界を張る間、どうにか建物とかの被害を抑えたい…かな」
「できる?」と聞かれた言葉に、今この場に入るレレスとクレアはお互いの顔を見渡し、
「テト先輩が協力してくれたら出来ると思うよ」
「そうですわ、テト先輩頑張って下さい」
と誰もが見惚れるだろう微笑を浮べる二人にテトはその笑顔からプレッシャーを感じたのであった。
「という事だから、協力して」
「うん、分からない。前々わからないからアッ君。というかアッ君が結界はれるなんて僕初耳なんだけど」
「言っていない」
会話にならないグーテとアルスの会話に「さっさと結界張りなさいよ、グーテ!!」と隣で腕を組みながら話を聞いていたテーゼがそう答える。
「結界を張るのは良いけど、どうやって複合させるの?」
「…俺があわせる、グーテは普段通りに張ってくれ」
「また曖昧な」と愚痴を零すも後衛にいる三人から詠唱が聞こえ、数秒後に魔法が発動し左右にある建物の前に分厚い氷の壁が出現した。
大通りに植えられている木々を守るように風が、火の玉の軌道を氷の壁へと誘導させ、氷の壁が火の玉の衝撃によってひび割れれば、崩壊を防ぐ為に茨姫の茨によって氷の壁を補給する様に支えていた。
茨が燃えないように茨の表面に薄い氷を纏っていた。
その光景によってグーテはタメ息を吐く。
「あぁ、分かった。アッ君がそう言うならそうするけど、失敗しても僕のせいにしないでね」
言うが早しに、
『光の精霊よ 我らに加護を与えたまえ 全てを拒絶する守りを 光の聖域』
この一年でようやくまともに使用できる上級魔法。
使用できるからといってそれが完璧に使用できるかは別であった。
魔法が発動までにかかる時間、魔力消費、なにより発動してからの魔法の維持、それらを完璧にするにはまだ時間がかかる。
「っっっ」
やはり、発動と同時に一気に消費される魔力にグーテは思わず眉を寄せるも、すぐに魔力の消費量が軽減された事に、何よりも結界が安定し始めた事にグーテは驚きの表情を浮かべながらアルスの方へと視線を向ける。
「…何?」
視線に気がついたアルスは難しそうな表情をしているせいか、その視線は鋭く、仲間なはずのグーテや、流れ弾で被弾しテーゼは無意識に体を震わす。
その視線はまるで獣、肉食動物のようであった。
だが、当の本人、アルスは体を震わせる二人に、首をかしげつつ再び結界に集中する。何せ、結界は繊細な魔法。
綻び一つ出してしまえば、そこを中心に結界は崩壊してしまうのだ。
「ようやく結界が発動したよ」
「遅かったわね」
「しょうがないよ。通常よりも範囲が大きいから、発動時間に時間がかかったんだよ。きっと」
テトの言う通り、一般的は半径約二メートルだが今回のはその二倍か三倍の広さの結界を張っている。
「でも、大丈夫かな、グーテ。魔力消費とか激しいってこの前、言ってたけど」
「それなら大丈夫ですよ。魔力消費はアルスが負担しているだろうし今はそっちの心配よりも、この結界がどのぐらいまで耐えられるかということ」
「その言い方ですと、すぐに壊れそうな言い方ですわ」
「聞こえた通り、だから時間はかけられない」
「という事みたいでわよ」
さっさとあの女をどうにかしなければ、そんな含みあるような言葉。
向けられたテトは考え込み、
「レレスは、その、ニーアに獣族の男達を守ってくれるように、言ってきて欲しいんだけど…」
「それは良いですわ。ですが、ニーア先輩一人で、よろしいんでしょうか?」
「うっっ、アルマも一緒に!!」
先ほどまで喧嘩をしていた者達だ、大人しく守られているはずも無い。
抵抗し、逆に危害を加えてくるかもしれない。
「分かりましたわ。ですがニーア先輩はアルマ先輩より貴方に守られたいかもしれませんわね」
「へぇ?!」
変な声をあげながらレレスへと視線を向けるが、
「いい加減、こちら側に意識を戻してくれるかな!!」
怒りを示すように尻尾を地面に叩きつけながら、氷の壁の維持、並びにマオの炎の相殺を同時に行っているクレアももうすでに限界なのか息が上がり始めていた。
そんなクレアの態度に「あ、ご、ごめん!!」とテトは慌てながら、本を開き雪の女王を召喚させ、マオの炎を相殺していく。
レレスもその間に移動し、言われた事を遂行する。
「おぉ、マオ相手に一人で対抗とか凄い奴」
「そうね、見た目からしたら獣族に見えるけど…」
マオから離れた場所、安全圏にいる蛍と境は目の前の状況を傍観する。
二人の後ろには不安げな瞳で同じくただ見ていることしか出来ないリーベとリーベを支えるように蓮が付きそっていた。
「そろそろ、止めないと、警備兵とか来るんじゃ?」
「ん、そうなんだけど。ここでオレ達が魔法を使えば見バレしてしまうんじゃないかと思ってな」
「なら、私が身を挺してお止めに…」
「その体じゃ、かえって邪魔よ」
今だ痛みは治まっていないのか境の言葉にリーベは口を閉ざす。
「それに私達が止めるまでも無く、その警備兵と思われる人達ももうそろそろ来るみたいですし」
いつの間に飛ばしていたのか小型の鳥を指の上に載せていた。
「それなら安心だ」
蛍がそういった問いにあたりに響く甲高い悲鳴。
その悲鳴は紛れもなく目の前、マオからのモノであった。
「何だ!?」
「っっっ、狙撃!?どこから!!」
先ほどまでごうごうと灼熱の炎の玉をいくつも浮かべていたのだが、現在は火の玉は一切なく、逆に地に転がっているマオの姿があった。
右足に攻撃が当たったのかそこを押さえ悶えていた。
一部始終を見ていた蓮はあたりを見渡すも、場所側からなった。
だがすぐに誰が攻撃したのか判明した。
何せ、マオと対峙していた者達もまたそちらを見ていた。
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2019.11.11:本編修正・追加




