第1話 波乱の訪れ
「はぁ?!エンビディア国の勇者達が入学してくる!!」
それは訓練にて使用している地下室内に響き渡る。
現在は、冬もあと少しで終わりを告げる、如月(二月)の半ば。
もうすでに入学が決定されているこんな時期に、エンビディア国の王から勇者を含めた数名をチェルシアン魔法学園に入学するように頼んできたようだった。
現在、校長が決定権を握っているために、そのまま勝手ながらに入学を決定させたことに僕は開いた口を閉じれずにいた。
「そうなんだよねぇ。だから、新学期前から俺達忙しくなるわけさ…」
「ダラダラしたい…」そんな事をぼやくヴァールに「アンタ何かするのか?」と声変わりを終えたアルスが質問する。
約一年近くでアルスは僕よりも約頭一つ分追い越し、筋肉も程よくついていた。
一緒に訓練している筈なのに、僕自身には甘い筋肉が付かなかった。
尚且つ入学当初とあまり変らず、変ったとしたら髪が伸びた事だけだった。
ジーとアルスを見ていれば、「何?」と首を傾げられながら尋ねてきたが、「なんでもない」と視線をヴァールへと戻す。
そのヴェールはお面から除かせる口をだらしなく緩めニヤニヤさせている事に気づいてしまった。
「何そのだらしない口」
「嫌々、どこぞのお坊ちゃんがアッ君に熱烈な視線をおくっっぶあぁっ!?」
言葉を遮るように投げつけたのは木製で出来きた水筒である。
木製の為に、それなりの衝撃があったのかぶつけた場所を抑えて「あ…どんどんマーレのように凶暴に」とつぶやいていたのが聞き取れたので、マーレにあった時に報告しておこうと心に留めておく。
「で、何で忙しいの」
先ほどの問いへと話を戻すようにヴァールに問いかければ、ヴェールは一つタメ息を零し、
「相手は勇者様方、それなりの警備を要求されるわけさ」
「勇者ならば強いんじゃないの」
「形だけでもなぁ…」
「勇者様方って一人じゃないのか?」
ヴァールの言葉に疑問を感じたアルスの問いに、
「基本は一人の召喚なんだがな、今回は二人も召喚されたようでな…」
勇者二人におまけが何名。
「今回の入学式は大掛かりになりそうだね」
「なるなる。あぁ、そうだ、マーレのいるギルドに護衛を依頼しておくか」
思いついたかのように祖父であるマーレが所属するギルドを巻き込む事をヴァールが思いついたように口にした。
その言葉に思わずため息をこぼし、「で、結局ヴァールは何する人なのさ?」と呆れながらも質問すれば、
「ふふふ、俺は理事長直属のこの学園の防衛担当だ」
出てきた回答に僕等は怪訝そうに、信じられないような視線をヴァールへと向ける。
「何だ、何だ?俺の防御の高さはぴか一だ」
「嫌、それを疑っているわけじゃなくて」
言葉通り。
現在いるこの地下室もまたヴァールが張ってくれている結界のおかげで、僕の力やアルスの暴発などで壊れる事はなかった。
壊れていたのなら、今頃この校舎はなくなっているはずだから。
この一年でさらに力をつけた僕等、そんな僕らが今日も今日とて全力全霊で訓練をするも今だヴァールの結界にヒビを入れることも出来ずに終了したのだった。
「ほら、今回はさすがに校長だって」
「それはないね。今回の入学の件で理事長が近々戻ってくるからな」
「校長の圧制もここまでだ」と高笑いするヴァールをよそいに、僕等はまだ見ぬ理事長を勝手ながらも想像する。
やはりご老体であるのかと、だが、ヴェールの親戚ということは神族のためにやはり見た目は若いのではなど、厳しい方なのかや通常はぽやぽやしているがいざとなるとビシッとなる方なのかと理事長の人物を勝手に思い描く。
「大丈夫だ、理事長もお前等に会いたがっている」
「へぇ?」
「何で?」
「そう驚愕するなよ、一応は理事長にちゃんと報告してんだよ」
「こうやってな」と手元で形成される一羽のモノクロの小鳥。
「小鳥!?え、魔法ってこんな事もできるの?!」
「残念、俺達の一族だけ秘伝の魔法だ」
形成された小鳥をアルスは凝視しすれば、小鳥もまた凝視し返していた光景に思わず笑いが込みあがる。
「これに俺の言葉を記録してもらって理事長のもとに届けてもらうわけさ」
そう言いながらヴァールは「んじゃ解くぞ」とそういいながら小鳥を両手に閉じ込め次に開かれた時にはその姿は無くなっていた。
いなくなった小鳥に対しアルスは落胆の色を見せた。
「まぁ、そう言うわけで理事長に合うのを楽しみにして置けよ。あっちもいろいろと面白いから」
その言葉に、何が面白いのかと僕等は首を傾げた。
「とりあえず、俺はこの後用があるから先に戻っているからな」
「後一時間ぐらいなら結界は保っていられるからその間なら好きに使っていいぞ」とそう言い残しヴァールは準備室へ続く階段を上っていった。
「さて、そう言うことだしアルスはどうする?」
「俺は、クレアがやりたい事に付き合うだけ」
見上げないと見えない赤い瞳。
本当に高くなったなぁとそう思いつつ「なら、一回だけやって終わろうか」と手に持っていた水筒を階段へと避難させ中央へと移動する。
地下室は教室二つ半ぐらいの大きさがあり、天井もそれなりに高い作りになっているおかげで伸び伸びと訓練ができている。
軽く深呼吸する。
そすれば訓練時に常に展開している翼同士が触れ合う音が聞こえた。
そしてもう一度深く呼吸をし、
「行くよ『この影は凪と化し全てを静かに繋ぐ その表面は鏡のように 揺れる事なく静かに 時を過ごす』」
間を置いて発動する凪。
クラス対抗戦のように発動時間が短くなり、何より消費される魔力も今までの特訓のおかげで軽減できていた。
「『全てを拒絶させる光の結界を展開させろ』」
向かい合うアルスもまた詠唱を唱えている声が聞こえてきた。
その詠唱で発動される魔法はアルスを中心に展開させる半球の結界である。
アルスもまた、上級魔法までの防御魔法を使用するまでに成長した。
今はその耐久性を鍛える為に僕が、今から発動させる“時化”をぶつけ結界の強度を上げる訓練をしている。
現在までは少しだけ均衡しあうがけど、今のところは僕の”時化”が圧勝している。
「『荒れろ 全てを飲みこみ 全てを飲み込め』」
詠唱と共に凪が変わり始める、
鏡波一つたたなかった影は、時化の詠唱を唱え始めた時、穏やかだったのが嘘だったかのようにその色を黒へと変える。
何も写さない黒。
凪と打って変わり時化は、影が触手となりそれが波のようにうねりだす、
動き出した影を今だコントロールすることが出来ず、尚且つ消費する魔力も多いために長時間の維持は難しかった。
なによりも、最初に凪を発動させてからの方法でしか時化を発動させることできていない。
詠唱通りに発動した時化は、波打つように出現する影は壁にぶつかり、アルスが発動した結界にぶつかる。
「くっっっ!!」
影を操るために、意識を集中させる。
少しでも自身の支配下に影を置くためであった。
結果的に勝手ながらに範囲を拡大させていく時化を止め、尚且つ少量ながらも影のコントロール権を獲得できた。
その影を使用し、アルスの結界にぶつけるのが今まで行っている訓練の一つであった。
影は、闇属性は無に返す性質を持ち、発動させている魔法、発動させようとしている魔法を他の属性よりも破壊しやすい属性である。
発動させた時化も闇属性。
アルスの結界を包み、締め上げるよう巻きつく影を中心に結界は容易くひび割れ出す。
結界の状況に、もう限界だと判断したアルスは刀剣召喚に切り替え、その両手に剣を持つと同時に結界を解き、襲い掛かってくる影を剣で塞ぎながら安全圏まで下がる。
その事を精神感応によって報告を受け、魔法を解除させる為に集中する。
発動を解除するまではアルスは襲い掛かってくる影から身を守りながら解除されるのを待ってもらう。
解除されたのはそれから5分から10分の間であり、僕は魔力の消費と魔法の維持による負担で膝を地に着け、荒い呼吸を整えるのに必死であった。
発動時もきついが、解除後に一気に襲ってくる疲労感や脱力感に、まだ戦闘時には使用できない。
「あぁ、発動させるたびにこれじゃ、緊急事態の時に発動できない…」
呆れながら地面に座り、下げていた表情を上へと上げる。
「大丈夫、俺が全てを蹴散らすから」
「ありがたいけど、お前はお前で防御を何とかしてくれ」
「じゃないと安易に前線に出せない」そう答える。
あのクラス対抗戦で明らかになったアルスが契約に払った代償。
それは痛覚であった。
契約後、痛覚が鈍くなっている事には何となく気づいていたが、それほど重症を負う事も無かった為にそれほど気にしてもいながったが、クラス対抗戦での重症の数々、それでもなお動くアルスに違和感を感じた。
自分達が、種族での特性のおかげで回復力は高く、他の種族よりもすぐに傷も治る。何より僕等は加護持ちであり契約を結んでいる。
加護を受けている時間帯ならば回復力は異常とかし、また契約では主であるアルスが重症を、その部位が動かす事が困難な場合、それは狗である僕へと自動的に移転する。
傷の移転について、何も気にも留めることはない。
何よりも気にするのはアルスが血まみれになりながらも戦う事であるし、尚且つ小さい傷は転移しない為に血は多少ながらも流れる。
流した分の血は補えない為に貧血などで隙を作り生死に関わるような怪我を負ってほしくはなかった。
だから、アルスに結界を覚えさせようと、その耐久力をそれなりのものにして欲しかった。
「お前の傷は僕は引き継ぐ、それが僕があの時から決めた事だからいい。けど、お前が自分の血で染まる姿は見たくない」
そっとアルスの頬に触れる。
「お前は僕の盾にはなれないけれど、僕はその役が出来る」
「次に単身で攻撃に突っ込む時、覚えていなよ」薄っすらと笑いながら言えば、アルスの表情が歪む。
それは理解と不服であったが、それを気にする事無く立ち上がり、
「さぁ、帰ろうか」
笑いながらアルスへと視線を向けるのであった。
+*+*+*+*+*
「じゃぁ、今日は変化の魔法でも練習しようか」
それは本当に何気なく、いつも通りにヴァールの唐突な授業の日。
「何で?今更そんなのやらないといけないの?」
「ほら、今の戦況かってやばいじゃない?もしも他国とかに旅行したいなって思った時、この魔法は大事になる」
ヴァールの言葉はこのクラスでなければ「他国に何て行かない」や「自分の種族を隠す気はない」などと反論されるだろうが、あいにくこのクラスにはそんな事はなく、ヴァールに質問したテーゼさえ「なるほど」と納得する。
「んじゃぁ、自分の種族の反対の種族に変化してもらう」
「ん?ハーフの僕らはどうすればいいの?」
このクラスでハーフと入ればグーテとテーゼ、そして僕である。
僕の場合は人族と神族とのハーフの為に自身の逆の種族といってもほぼ一緒で獣。
だが、グーテとテーゼの場合は精霊族と魔族のハーフ。
だけれども昔ならばその容姿が両方に均等になっていたが、入学して一年が経過する間、だいたいの者が成長し、大人へと一歩近づく。
双子もまた同じ、入学当初はだいたい150cm代の身長も現在は、テーゼが165cm代、グーテが170cm代と大きく成長し、髪の色も変化し、白と黒の綺麗な半々のグラデーションだった髪は、テーゼは黒がベースに毛先が白色になり、グーテも白をベースに黒の毛先となっていた。
他にも、男女の体力差や筋肉などで双子の容姿の差はドンドンと開き、それに対して少なからずテーゼは思う節があるようでグーテに対し軽い反抗期を起こしている。
それに対しグーテは多少的には傷つきながらも「いずれ来ることだと覚悟してたよ」と僕らに苦笑していたがつい最近であった。
「まぁ、闇属性のテーゼが精霊族で、光属性のグーテが魔族な」
返された答えに両者は文句一つなく了承する。
そしてヴァールの言葉通りに、クラス全員が変化の魔法を使用する。
二年組であるニーアから順に見て行けば、
「見てください!!この角!!可愛いでしょう!!」
ふんすと鼻息を荒くするニーアの少し尖った耳の上に普段はない小さい角がうさ耳が前の方に垂れる感じで覆うような形の角であった。
髪の色もまた綺麗な青のグラデーションであった髪色も今では青一色に塗りつぬしたような髪色に変化していた。
そして、ニーアの後ろの席であるテトは、
「うん、小さくて可愛い。僕のは、その、可笑しくない?」
微笑みながら尋ねたテトの頭の上には豚の耳が黒髪に埋もれながら見え隠れする。
「…可愛い、可愛いですが、それは却下です。アルマと同じのが見たいです」
「うぇっっ!?」
唐突に名前を出されたアルマは、普段見せる橙色の狐耳は無く、また尻尾も無く、代わりというように人の耳が横髪から見え隠れしていた。
黒目も現在は白目となってて、人族の姿になっていた。
二年組がテトのことでワイワイしながらも僕らの方も、
「見て、見て、レレス!!」
普段あるはずの左側に存在する角の影は無くなり、また魔族のような長い耳も今は短く、髪色もまた白一色のテーゼの姿があった。
瞳の色は魔力の根源である為に変えることは出来ないが、魔族っぽさはなりを潜め清楚っぽく見えるが、やはり服装がゴシック系のためか現実に引き戻される。
「そうね、この機会だし服を選びに行きましょうか?」
レレスもまた両足は見事な生足となり、その黒目も白目に。
これならば人族の男性をイチコロしてしまいそうだなと思ってしまう。
今も、左足を上に組まれている為に、その左側のスカートのスリットの裂け目からのぞかせる足の付け根から太股がダイレクトに見え、何よりも獣族の時、下着をつけていないことが露見する。
左側に座っている男士組である僕等(アルス除く)は一斉にレレスから視線を逸らす。
何せ、レレスがそれを伝え、キレれば確実に鉤爪の餌食になる。
そして列は変り、グーテは、
「んー、慣れないなぁ…」
普段は片方だけの角は魔法によってもう片方にも生え、そのせいでか、頭のバランスが取りにくく先ほどから頭が左右に揺れている。
髪色も黒一色で、完璧なる漫画に描かれている魔族と化していた。
「意外に楽しいね」
普段ない獣耳や尻尾にだいぶテンションが上がってしまっていた。
一瞬、犬と見間違られるも、アルスをまねしたのだから狼である。
瞳もまた黒目に変化させており獣族らしくなっているはずだ。
そして、最後のアルスは
「…無理」
「アッ君…」
クラスの殆どが出来ている中、アルスだけは変化が出来ずにいた。
否、出来ても気を抜けばすぐに獣耳と尻尾が出現してしまう。
その現実にヴァールは呆れながら、さてどうしようかと悩んでいた。
「しょうがないな、アッ君」
変化の魔法が出来ないアルスの手を掴み、「ほら、目を閉じて魔法を発動させて」と答えればアルスは言葉通りに魔法を発動させる。
「うん、目を開けていいよ」
言われたとおりに、アルスは閉じていた瞳を開ける。
結果を言うなら成功。
アルスの獣耳と尻尾は変化の魔法によって上手に隠れた。
だけれども、繋いでいる手を放してしまえば、この魔法は簡単に解除されるために、握っている手のひらを話すことができない。
「クレアが、魔力量を調整しているおかげで魔法が成功。そんな難しいはずはないんだが…」
「魔力調整が下手なだけ。調整が出来れば一人でも発動できるよ」
「きっと」とそんな事をぼやきながらヴァールと会話をするも、周りの者は僕がアルスに行っている魔力調整に驚愕していた。
何せ、道具無で他者の魔力を調整することなどこの世界ではまだ実現されていなかった。
「え、何それ?それも神族特有だったり幻獣族特有だったり?」
「あ、ん、昔から一緒にいるから何となく?」
グーテからの問いを曖昧に返しながら、傍にいるアルスに、
「アルスは一人で変化の魔法できるようにしろよ」
「…え、あ、あぁ」
歯切れの悪い返事を返すために首をかしげる中、
「んじゃぁお前等、今からその姿で町行って来い」
唐突に面白そうな声音でヴァールは口を開き、
「んで、先に魔法が解けた奴のいる列が罰ゲームな」
最後の言葉にグーテが思わず「何それ!?僕の所が不利じゃん」と声を上げていた。
「反論は認めない、全ては俺が決める」
仮面で見えなくともその声音はあきらかに楽しんでいた。
「んじゃぁ、昼までには帰って来いよな」
その言葉によって僕らは渋々、教室から出て行くのであった。
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2019.11.11:本編修正・追加




