第0話 勇者召喚
強い衝撃と落下する感覚に襲われかと思えば、次に視界に広がったのは漫画や小説などで見たことのある場所であった。
広がった場所は中世のようだった。
周りを囲うようなローブを着た人物、その中心に立つは疲弊しきった金髪の美少女と漫画で出てきそうな魔術師の老人であった。
驚愕しきっていた老人の口から
「い、いったい誰が勇者様なのだ⁈」
その言葉に勇者様?っと首を傾げれば
「うぅ、何なんだよ一体…」
「ここは、一体?」
背後から聞こえてきた声に、思わず体を跳ねてしまったのだが、そちらへと視線を向けた。
視線の先にいたのは西洋人形と一瞬でも見間違うのではと思えるほどの金髪、青目の男子生徒と、こちらもまた日本人形のような見た目の黒髪、紫の瞳の女子学生が床に伏せていた。
「あ?君等誰?てか、何ここ」
金髪の少年もようやくこの事態に気が付いたのか大きな瞳をさらに見開き、目玉が零れ落ちてしまわないかと心配になりつつも僕は首をかしげる。
「分かりません、っっ」
黒髪の女子学生は頭が痛むのだろう。
頭を左右に振る。それにつられて動く長い髪から漂ういい香りになんとも言えない魅力を感じた。
「申し訳ございません、勇者様方」
声をかけられた老人へと三人の視線が集まる。
先ほどまでは遠くにいた筈の金髪の美少女も老人同様に、近づいてきていた。
金髪のさらさらしてそうな髪に小さな顔、白い肌なんだろうけど今は気分が悪いのかその顔色を青くさせながらも口を開く。
「どうか、我が国エンビディア国をお救いください」
目の前の少女の言葉に当然僕らは「何で」と「何かのイベントに巻き込まれたか」と疑問と混乱が押し寄せた。
それからの展開は速く。
先程いた場所、儀式の間から王座の間へと移動すれば、玉座の間の奥の玉座に座っているくすんだ様な金髪に金の瞳。一見美形のように見えるも、やつれているせいかそれは面影しか残っていなかった。
その王様から、三人の事情が説明された。
ここは所詮、三人には異世界であった。
魔法や様々な種族、いわゆるファンタジー世界であった。
三人が召喚されたのはフルスカ大陸にある大国であるエンビディア国であった。
エンビディア国は人族が統治している国であった。
フルスカ大陸にはエンビディア国以外にも後二カ国存在し、一つがパシオン国という獣族の国。現在、エンビディア国とパシオン国は戦争状態でありエンビディア国は劣勢であった。
そしてもう一つ、デシオ国という魔族が統治している国もいつ襲ってくるか分からないと、王は嘆きながら説明していた。
そんな危機的状況を打破する為にこの国唯一の切り札である勇者召喚によって勇者を召喚したのだが、通常は一人だけが召喚されるのだが、今回は何故か三人も召喚されており誰が勇者なのか不明だという。
勇者としての容姿での目印はなく、それの判断基準は膨大な魔力と唯一無二の魔法も持っていることであった。
早速、三人の中から本来の勇者を探すべく能力と魔力量を判別する為に特別な水晶が持ってこられた。
金髪の男子生徒は「俺が一番」とそう言い触れればその水晶は強く光だし球体であった水晶はいつの間にか剣の形状に変化したのであった。
水晶の反応に王やお姫様、護衛の方々は驚愕し歓喜の言葉を上げた。
どうやら、水晶の光具合で魔力量の多さが分かるようで、先程のように強く光ればそれは魔力量が膨大だという証。
そしてこの水晶は、能力に近しい形をとるようだった。
何の魔法かは分からないが魔力量の膨大さに、その能力もきっと特別な魔法なのであろうと、今後は、勇者としての訓練を行おうという話が出た。
金髪の男子生徒がその剣から手を離せば、どういったメカニズムなのか水晶は元の球体へと戻る。
戻った球体に三人は驚きながらも、次に黒髪の女子学生が水晶に触れた。
周りは、誰が勇者なのか分かったのだが一応の確認で視線を向けていた。
そうすれば水晶は今度もなた強く輝きだせば、水晶の形状は動物の姿へと変えた。
その意味に対し、他の者達は首をかしげながらも先ほどのまばゆい光にこちらも歓喜の声が上げた。
その歓声の中には「勇者様がお二人も」と声を上げていた。
そして最後の一人である、平凡そうな男子学生がその水晶に触れれば水晶は淡く光ったのみでその形状が変わることはなかった。
「つまり僕は巻き困れという…」
落胆のタメ息を零す。
そして勇者と判定された二人と、巻き込まれた青年は分けられてしまったのであった。
宛がわれた客室のベッドに平凡な男子学生こと僕は寝転がる。
異世界に召喚されて早半年以上が経過。
他二人、金髪の男子生徒である三鷹 蛍と黒髪の女子学生である藤 境の両者は武術や魔法をこの半年でモノにし、数週間前、獣族を国境に押し返すという王からの依頼を経った二日で国境付近を侵略していたパシオン国の兵士を、エンビディア国の国境から押し返し逆にその付近を制圧したという話を聞いた。
一応は僕も戦場に行ったがの魔法も武術も今だ使えず、僕のほとんどの仕事は後方の基地で負傷者の手当てや炊事の手伝いだった。
そこで二人の活躍を聞いたのであった。
無傷で迅速なる初陣に王やお姫様、国民たちは大喜びし昨日まではそのお祭りであった。
皆に祝われている二人を見て僕は疎外感を感じた。
この異世界には僕の居場所はないのだと。
だから一度だけ、お姫様に僕だけ元の世界に帰れないかを聞いたことがあった。
だが、帰ってきた回答は、
「申し訳ございません…私の魔法は一方通行だけなのです。今までの勇者様方も戻られた方はいなかったと歴史書にも書かれておりました」
大変申し訳なさそうに言われた。
元の平和な世界に帰れないと知った僕、その晩、枕を濡らして寝たのであった。
一応は、巻き込んでしまった事に対してのお詫びか役に立たない僕も一応はこの城内で暮らさせてもらっているが使用人やここに出入りしている騎士様方や臣下、はたまた王様にまで冷ややかな視線を向けられ続けていた。
この城を出ていいのなら出て行きたい。
だが、この世界についての知識も一人で戦えるだけの力も無い現状で、城出るという無謀な行動力など持ち合わせていなかった。
「誰でも良いから…教えてくれぇぇぇ」
そう呟きながら顔を枕に埋める。
そして一ヵ月後、何かの運命なのか
僕は、僕らはこの大陸で有名な魔法学園に入学する事が決まったのであった。
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2019.10.05:本編修正・追加




