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紡ぐ物語 -FUTURE-  作者: 稀世
02:中立チェルシアン学園
33/47

9-2





「今回のクレア坊ちゃんはモテモテだねぇ」

「これじゃぁアルス坊ちゃんもうかうかしてられないね」


試合が始まる前の光景を笑いながら言う二人に対し私は苦笑を浮かべる。


「まぁ、大切に育ててた奴らの孫が見れないのは悲しいよな」

「あ…」


その言葉に対し、もうすでにクレアがそうであるとは言えずに再び苦笑を浮かべる。


「でもまぁ、他種族でなおかつ同姓ときたらしょうしょうこの時代は厳しすぎるんじゃないのかな?」

「何!?そうなのか!!」


確かに、異性同士であり、他種族同士となればこの地区を出れば批判は凄いだろう。

それが同姓ならば当たりも強くなるかもしれない。


「まぁ、私は二人が幸せであれば難しい事はそれからで言いと思うんですけどね」

「あ、保護者公認」


カメーリエはケラケラ笑いながら視線を下へと下ろす。


確かに、大きく成長しているもその中身はまだ15、16の少年である。まだこの先どうなるか分からない。


「本当に若者たちが伸び伸びと暮らせれる未来だと良いね」


その言葉は隣に座っている者達もまた頷く。





+*+*+*+*+*





開始の合図が鳴った事によって、両者は動き出す。

Sクラスの後衛は詠唱を唱え始め、前衛は相手の将を取る為、一転集中にグーテとテーゼに向かい前進する。


「もぉ!!」

「ふざけんなよ!!『光の精霊よ 我らに加護を与えたまえ 光の盾リヒトフォンシルト』」


詠唱によって発動したのは名前の通り、前方にのみ張られた結界だった。

その結界によって中央突破をしようとした者達を前衛のサイドにいるアルマとアルスの方へと勢いを流しながら、突破してくる人数を減らしにアルスとアルマが攻撃し始める。


だが、さすが二年生だけな事はあり、後方からの魔法支援によりその結界の破壊が行われた。

結界の強度は思った以上に固く、一度の攻撃では破壊できなかったが、その表面にはうっすらとだがヒビが入っていた。


「グーちゃん!!そこから離れて!!『水の精霊よ 我の盾となり 水盾ヴァッサーシルト』」


壊される前にニーアの防御魔法が双子の前、先ほどの結界の少し後方に張られる。


それと同時に、クレアもまた、


「『水の精霊よ 大気に存在する水をこの手に集め 敵を凍らす矢となり 敵共々砕け散れ 氷の矢フリーレンボーゲン』」


放たれた氷の矢は敵ではなくニーアが張った防御魔法へ、氷の矢が着弾と同時にニーアとグーテが展開した盾をまとめて飲み込み一つの防御壁へと姿を変えた。


「グーテとテーゼは無事?」


クレアは前方へと視線を向け双子の様子を確認すれば、双子はスライディングする形で後方に下がっていた。


「無事だね」というクレアの言葉に双子は、


「無事なもんかぁぁ‼」

「そうです!!運が悪かったら私達まで氷漬けだった!!」

「なってないんだから許してよ」


「ほら、早く前衛に行った、行った」との言葉に双子は盛大に文句を零しながら、今の怒りをぶつける為に二人はそれぞれ片方に別れ前衛と合流する。



「うぅ、前衛大丈夫かな…」

「そう思うなら攻撃に加わって下さいです!!」


後衛の真ん中にいるテトの言葉に、その左隣にいるニーアは杖を振り抗議すれば「うわぁぁぁ、そうだった!!」と自身の役割をすっかり忘れていたようで、慌てて魔道書を開き詠唱をしようとした時、氷の防壁から豪快な音が響いたのだった。


音の方にDクラスのメンバーは視線を向ければ、防壁の真ん中が崩れていることが煙がかかっている中でも視界に取れた。


後衛が防壁の確認が取れる前にその近場にいたレレスとクレアはリーダーであるテトを守るように前に出る。


「ガハハハッ、こんな薄い壁、俺の獲物の前じゃただの紙切れだ」


声と共に煙が晴れたその穴から出てきたのは両頭斧を肩に担ぐアンシュであった。


その登場の仕方に


「まるでオークのようですわ…」

「やめて、今から相手しないといけないのに本当にそれにしか見えなくなる…」


レレスの呟きにクレアは思わず中級魔物であるオークと現在目の前にいるアンシュを重ねてしまっていた。

重ねてしまえば間違いなく手加減できづにやりかねない。


相手は生徒、相手は生徒と、自分に言い聞かせながら弓を持つ手に自然と力を入れる。


「何だぁ?そっちからこねえのかよ。なら俺から行くぞ!!」


見た目に反し、その動きは以外にも俊足に、後衛陣は驚愕するも、その斧が狙うのはリーダーであるテト。


「ニーアさん!!」

「分かってるです!!」


レレスの呼び声よりも早くニーアは既に詠唱を唱え、防御魔法を発動させるもアンシュの両頭斧にあっさりと破壊された。

だが最初よりもスピードが遅れたおかげで、寸前の所でレレスがテトを横に押し倒し攻撃を避けるも、


「あ、そんな…」

「っっ、なんてことありませんわ!!早く立って防御体制に入ってくださいな!!」


両頭斧の風圧によってレレスの左肩口をざっくりと切られ、その事実にテトは顔を蒼白させ、行動が止まってしまい、次の攻撃に二人は避けることが出来きなかった。

近場にいたニーアも詠唱を唱えるもそれは間に合うことはなかった。


だが、両頭斧は二人に当たることはなく、突然現れた障害物によってそれは妨げられた。





氷の防壁が崩れた時、前衛陣は驚愕しつつも目の前の敵へとすぐに視線を戻す。


「後衛が、仲間達が心配ですか?」


アルスは二年Sクラスのリーダーであるフェアと一対一で攻防戦をしていた。


当初は、アルマがフェアと打ち合いをしていたが、横槍でウンファルが入ってきた事によってアルマは流れのままウンファルとやる事になり、近場にいたアルスが引き継ぎフェアを対面していた。


グーテとテーゼはハクレンが率いる他の者達を相手にしている為にその場を動けづにいた。


「先ほどあの壁を壊したのはアンシュでしょう。アンシュは私達のクラスで外れ者ですが無詠唱および詠唱の省略は以外にも譲歩しているんですよ」


余裕層に話しかけてくるフェアの言葉を無視するようにアルスはフェアの武器である長剣を場外に飛ばす為上に打ち上げようとするが、その行動は読まれていたのか体を横にずらされアルスの剣はそのまま空を切る。


「アンシュ、食堂での一件、今だ根に持っているんですよ」


その言葉にアルスの剣が止まる。


「まぁ、あいつのなけなしのプライドを傷付けたのですからね…しょうがないでしょうね」

「…何が言いたい」


ようやく口を開いた事に対しフェアは目を細目、面白そうに


「君と一緒にいたあの人族の生徒、五体満足だといいね」


その言葉に、止めていた剣を再び動かせる。

だが、その顔から一切の表情は無く目の前の敵を倒す為に動く。


「あははは、それが君の本心かい?」


ひょうひょうと攻撃を避けていくフェアにアルスは迷うことなく右足で回し蹴りを繰り上げるも、フェアはその蹴りを長剣の面の部分で防ぐも余波によって体勢を崩す。


それはクーアが率い後衛陣は見逃さず、すかさず火属性の下級魔法である火弾を発動させる。


「させないよ!!『闇の精霊よ その魔力の回路を破壊しその者を』っっっ」

「クーアの邪魔はさせないわ」


すぐさまテーゼによる妨害魔法の詠唱を唱えようとするもハクレンによって詠唱を中断させられ、逆に後方へと飛ばされてしまった。


火弾もまたアルスへと着弾したことにより観客席から歓声が沸く。

だが、すぐにその歓声はどよめきに変る。


「なぁ!?うそ…」


火弾を放った後衛陣であるクーアは驚愕に声を上がる。

火弾が着弾し上がった火の手をものともせずになおかつフェアへと攻撃を仕掛けるその姿に誰しもが固まる。


「っっっ!!」


振り下ろされた剣を寸前で避けたフェアはすぐさま体勢を立て直し、視線をアルスへと向ける。

その動きは重症を負っている様には見えないが、だが、露出している肌には軽傷ながらも火傷や着弾時の爆風によって出来たのだろう擦り傷が確認できたが、その表情は一切歪められる事も無くアルスは攻撃を続ける。


「このっっ獣風情が!!痛覚が可笑しいのか!!」


初めて刃先がアルスの頬を掠める。

通常ならば後方へと避けるだろうが、アルスは迷う事無く前進、フェアの腹部へ

剣の柄を叩き込む。


「ぐがぁっっっ」


防御を取らずまともに入った攻撃はフェアを後衛まで吹き飛ばすのは容易かった。


「フェアさん!?」

「すぐ、回復魔法をっっっ」

「動かないで!!」


吹き飛ばされ、血を吐き出すフェアに後衛は青ざめすぐさま回復魔法を始める。


この場で追い討ちをかければきっとこの試合は終わるだろう。

だが、アルスはこの試合の勝利などとうに眼中になく、追い討ちをすることもなくアルスは迷う事無く自クラスの後衛へと戻る為に背を向け返し走り出す。


「なぁ。嘘でしょう、あのフェアを…」

「アイツ本当に獣族か!?」


後衛で回復をされているフェアに対し、ハクレンやウンファルは驚愕によって固まっていた。


それが好機というように、


「ずいぶん余裕だな…」

「っっ!!」


剣に火を纏わせウンファルへと斬りかかるも寸前でウンファルは両手に嵌めている鉤爪で防御するもすぐに後方へと下がる。


「くそっっ」

「ふん、お前から喧嘩を売ってきたくせに余所見とは、随分舐められたものだ…」


剣を一振りすれば纏っていた火は消え、白銀の刃が姿を現す。



グーテとテーゼの方では


「このっっ、すばしっこいのよ!!」

「それが」

「僕らの売りだからね」


交互に、連続に攻撃を仕掛ける双子にハクレンはそのレイピアで防ぎつつ体を捻って攻撃をするもそれは全てからぶりに終わる。

当たったとしてもグーテの結界によって防がれその負荷はハクレンへの腕へと溜まる。


「さぁ、後衛はアルスに任せて」

「私達は前衛で頑張りましょうか」


交差された片手剣は一度その刃と刃を一度だけぶつけ合う。





「っっっっ!?」


唐突に訪れた痛みに自然とクレアは膝を地に落とす。


「おぉ!?もうへばってきたのか!!」


何を勘違いしたのか現在、攻防を強いられている相手であるアンシュが笑みを浮かべながら両頭斧を振り上げ攻撃を仕掛けてくる。


その攻撃を転がるように回避するも全身、特に腕や手に感じるジンジンするような痛みや、頬に感じる痛みに自然と眉間に皺を寄せる。


唐突に襲ってきた痛みに、その原因、思い浮かぶは一人だけ。


だが、その当の本人は今傍にいない為に悪態をつく事もそんな暇は今は無く、


「本当にシツコイッッ!!」


今だ、続く攻撃を器用に回避したり、ニーアによる防御魔法やレレスの使役獣による時間稼ぎによって何とか避けているもしつこくクレアを狙ってくる為に体力の方がそろそろ限界に近づいてきていた。


「てぁっ!?」


何かに右足をとられそのまま地面へと転がるも右足が取られている事によって派手に滑ると同時に右足に鋭い痛みに微かにうめき声を漏らす。


「これで捕まえた」

「ッッ誰が、クソッ!!」


右足へと確認すれば右足首を掴む形に土で出来た手ががっちりと掴んでいた。


「地属性か…」


こんな形で相手の属性を知るとは思わず、尚且つそれによってアンシュが何故あのような体格で機敏に動け、あれだけの攻撃力を誇っているのかを理解する。


「肉体強化によるもの」


理解したからといってこの状況を打破する方法は思い浮かばない。

というよりも右足に走る痛みや腕や頬に感じる痛みにもうすでにリタイアしたい気分になるが、この状況ではそうも行かない。


「アハハハ、無様だな。すぐに楽にしてやるよ」

「くそっっ」


先ほど転がった時に手に持っていた白い弓を盛大に遠くに飛ばしてしまったせいで振り上げた攻撃を防ぐ方法が魔法のみとなる。


だが、クレアの得意とする氷属性は一般では上級魔法でありその為の詠唱に時間がかかるとされており、この様な一秒一秒を争いには向いていない。


ならば、自身の種族の特性である詠唱の省略、または無詠唱ならばこの状況を打破できる。

周りから聞こえてくる悲鳴にタメ息を着き、後の言い訳を考えながら身を捻った状況で魔法を発動させようとするも、


「何してるの?」

「ッッお前!!」


ぶつかり合う刃と刃、だがその競り合いも一瞬で片はつき


「はぁぁっ!!」

「っくそっっ!!」


競り合いに負けたアンシュは体のバランスを崩し後ろへと後退させ、先ほど入ってきた乱入者であるアルスを睨みつける。


「この獣風情が!!一度ならず二度も俺様の邪魔をするか!!」


向けられた怒りも吹く風の如く、顔色一つ変えぬままアルスはアンシュから視線を外し今だ、転げているクレアへと視線を移す。


その扱いにアンシュの額の血管が浮きで、「この野郎がァァァ」と行きよいよく襲い掛かるもまたしても横槍によってアンシュの体はぐらりと地面へと倒れこむ。

唐突な事にアンシュは理解か追いつかずさきほど攻撃された方へと視線を向ける。


「ぼ、僕らの事をわす、れないでよ」


途切れ途切れながらアンシュへと向けて言うもテトの隣は先ほど攻撃をしただろう灰被り姫が静かに佇んでいた。


見た事のない魔法に観客席は驚きの歓声を上げる。

その声は試合をしている者達に緊張感を、優越感を与える。

だが、アンシュにとってその歓声は自分のプライドを傷付けるしかなく、


「この野郎!!」

「ひぃっ、は、灰被り姫、お、お願い!!」


テトの声よりも先に動き出す灰被り姫は軽やかな動きで攻撃をかわし、隙を付いて攻撃を繰り出す。

アンシュの方が攻撃回数は多いがそれは全て大振りで、結局は灰被り姫に避けられその攻撃で出来た隙を付かれ攻撃を喰らっていた。


「ニーアとレレスは前衛の援護を!!ぼ、僕がこの場を保つから、お願い!!」


指示を受けた二人は、テトからの指示に始めは驚愕しつつもすぐに「分かったです!!」「了解、ここを任せるわ」と二人は急ぎ足で前衛へと合流する為に動き出す。



「この臆病やろうが!!調子こきやがって」

「お、臆病だって分かってる!!でも、僕の仲間を傷付けさせない」


今までに見せなかった強い意志を宿した瞳をアンシュへと向けた。





2019.10.04:本編修正・追加

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