黒い理由
「そして、他に【選定者】が居る。
彼等は手本となる世界、主に『完成された世界』から逃げたい者を選定して、
【助言者】として連れてくるんだ。
【助言者】として選ばれた者は、【管理者】に助言を行う。
だから、【選定者】と【助言者】と【管理者】は共に居る事が多い。
ただ、【選定者】は、【助言者】だけじゃなくて役目のない人間も逃がす事が出来るんだ」
プラトムは懐かしむように目を細めた。
寂しそうな誇らしいような、そんな気持ちが入り混じった表情だ。
「そして、この『逃亡の世界』で、物静かに暮らす。
本来なら、そうなんだ。
こんな、危険な事に巻き込まれる事なんて……。
……真咲、君に何があったか、話してくれないか?」
ずっと、プラトムを眺めていた真咲は、いきなり目が合って驚く。
しかし、心配そうなプラトムを安心させたいが、この話をすれば、
さらに心配するんじゃないかと、逆に不安になった。
けれど、今話しておかないと、ずっと話さない気もする。
意を決して、真咲は、五年前の事を口にした。
「……気付いたら、ソコハテが殺されていて、男も居なかったのか?
しかも、ソコハテの内臓は全て奪われていた……」
「うん……」
「……」
プラトムは、それを聞いてずっと何かを考えているようだった。
「プラトム……?」
「……真咲、ごめんな」
本当に悲しそうに、プラトムは頭を下げた。
それに、真咲は慌てた。
なぜ、プラトムに頭を下げられるのかが解らない。
「プラトムは悪くないでしょう!?」
「いや、俺は……。お前に……」
「プラトム……」
プラトムは、途中で口を閉ざし、真咲から目を背けた。
(どうしたんだろう?何か、あたしに対して他に、後ろめたい事があるとか?
でも、プラトムと会ったのは昨日が初めてだし。
でも、なんだか初めて会った気がしないのは、あたしもだけど……)
木の葉の坂道を抜け、乾燥した元川底であった大地を歩く。
「で、此処から、合流の目的地は解るの?」
「あぁ、サリーレ様が真咲を刺したんだろ?
なら、呪いをくい止めるために、清らかな水と樹の力が必要になる。
だから、北の森林地方が一番近いはずだ。
そこに、俺達デルイル族が使う、大木がある。
そこに居るはずだ」
「北の森林なら、後一日は歩くよ。
……っていうか、呪いって?」
プラトムは、さらりと言ってのけたが、真咲は聞き流せなかった。
プラトム自身は、聞き流して欲しかっただろうが。
「……俺のように、翼が黒くなる。
俺達、デルイル族は、他人を攻撃すると治癒の力を剥奪され、翼が黒くなる。
呪いの力が付与され、治療どころか、患者の痛みを加速させる。
そしてそれは、他の白い翼のデルイル族にも感染させられる」
「な……」
「俺達、デルイル族は、太陽神エズーサアデルと月神カストラズイルの姉弟神から人間を元に造られた種族。
種としては、安定していないらしく、強くはないし、すぐに呪いや負の力に染まってしまうんだ。
だからこそ、一族は高潔に過ごす事が義務となる。
特に、スブリマ様は、高潔に過ごしていらっしゃるんだが、
全員が全員、そんな風には振舞えない」
首を振り、自らの一族の話をしながら、眉を顰めるプラトムに聞けなかった。
(プラトムも他人を攻撃したから黒い翼なの?)
との問いを飲み込んだ。




