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地獄の底に咲く花は  作者: 詞乃端


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呪詛と拒絶

ヒロインが酷いです!

「……わあ、すげぇ~……」

 クロードの呟きが間抜けに響くが、母の熱い殺意の視線はリアに固定されたままだ。

 暗く粘ついた感情に濁った瞳は、リアが物心ついた頃から変化することはない。

 不思議なものだ、時折銀が差す程薄い青の瞳は、どうしてか、リアには真っ黒に見える。

「……ナエドコノブンザイデ、ヒトノヨウニシアワセニナレルト、オモッテイルノカ?」

 憎悪に縛られた女は、にいっと嗤った。

「デキソコナイノドウグノクセニッ! イマワシキケツゾクゴロシ、シュクンゴロシノクセニッ!! オマエニマトモナニンゲンノフリガデキルワケガナイッ!!!」

 女が叫ぶ。

 リアを通じて、世界さえも呪うが如く。

「——黙れ」

 思わず眉を寄せたリアを見て、女は嫌な笑みを深めた。

「——オマエモ、ジブンノコドモニコロサレルンダッ! ザマアミロッ!! セイゼイ、ジブンノコドモヲニクミツヅケレバイイッ!!! ドウセ、ワタシトオマエハオナジアナノムジナ——」

「いい加減、口を閉じろ、お母様?」

 母親の顔面に、リアは己の足裏を思い切り叩きつけた。

「「『『——えっ?!』』」」

 自分を産んだ女の顔を容赦なく踏み(にじ)りながら、リアは口の端を吊り上げた。

「私は、自分の子供を愛すると、決めている。 ——誰が、お前らと、同じものになど、なるものかっ!!!!」

 怒声と共に、リアは女を地面に蹴り込む。

 鬱陶(うっとう)しくなり過ぎて、そろそろ我慢の限界だったのである。

「——とっとと、失せろっ!!!」

 澱に塗れた、光の具合で白金にも見える程色素の薄い金髪は、粘性の高い闇の中に沈み込み、再び浮き上がってくる様子は無かった。

 容姿の方は、黒髪黒瞳で全面的に父方の血が出ていたリアは、煌めきが消えていった影を、冷めた目で見やる。

 ——全力で叩き返してやったから、あの女も暫くは顕現(けんげん)できまい。

 そう思い、幾分スッキリした心持でリアが顔を上げると、残念生物達が馬鹿みたいに口を開けていた。

 余りのアホ面ぶりに、こいつら大丈夫か? とリアは思ったが、大事なことにハタと気付く。

 嫌な可能性に、リアの眉間に皺が寄った。

「……不吉の地に、なりかけているのか?」


 澱が高濃度で凝った土地を、不吉の地と呼ぶ。

 そして、不吉の地の特性の一つに、使用する呪術の効率が上がる、と言うのがある。

 それは、呪術と親和性の高い澱が、代償代わりになるせいだ。

 だからと言って、不吉の地に居続ければ、澱に蝕まれて碌なことにならないのだが。


 リアは手に持っていた数打ちの剣に目を落とすが、剣を覆っていた黒い(もや)は跡形も無い。

 リアの母親に取り込まれ、哀れ地獄の新たな住民となってしまった。

 耳を澄ませば、リアに対する憎悪や苦痛の声の種類が、幾つか増えたことが分かる。

 他の誰にも見えなくても、リアには、足元から伸びる己の影の中に、(うごめ)き続ける無数の人影が見えるのだ。

 数十人の女とまだ生まれてもいなかった異母兄弟、そして自らの母親を糧に生み出されたが故に、リアの呪術の適性は極めて高い。

 そんなリアに対し、大して適性も無く、知識も乏しい筈の青年が世界の書換えを成功させてしまったのは、恐らく澱の補助があってのこと。

 先程の不死者の例もあり、知らないところで期限が設定されていると、リアは半ば確信する。

 泥舟を無理矢理大船と勘違いさせられているような感覚は、酷く嫌なものだった。

「——おい、この状態では、急いだほうが良いらしい」

 同伴者達に声をかけたリアは、レーゲン将軍が自分をじっと見つめていることに気が付いた。

 微かに(しか)めた顔にあったのは、嫌悪でも恐れでも、ましてや畏怖でもない。

 レーゲン将軍の顔に、何故だか主君や兄、地神の表情が重なり、リアはほんの少し息を詰めた。

 哀しそうな、寂しそうな——。

 リアがリアであることを、否定するのではない、ただ、そう在ることへの遣る瀬無さ。

 他人から嫌悪されようが恐れられようが、リアはどうでもいい。

 けれど、主君達から向けられる何とも言えない表情は、どうにも苦手であったのだ。

 不意に、レーゲン将軍がリアに近付く。

 何を、と思う前に、リアは逞しい腕の中にいた。

「……お前は」

 落とされる吐息は、まるで溜息の様。

「地獄の底で、独りで居過ぎたんだな……」

 確認するだけの言葉には、淡い(かげ)りが潜んでいた。

 レーゲン将軍の行動を図りかね、リアは戸惑う。

 別にずっと独りで居た訳でもなかったが、そっと抱き込む腕が、リアから軽口を奪っていた。

 押しのけるにも、抱きしめ返すにも、隻腕のリアには手に持つ剣が邪魔だった。

 あんまりにも負の感情が無かったから、敵意を返しようも無い。

 どうして、とは、訊く気はなかった。

 レーゲン将軍がどう答えようと、リアはとうに選び、彼を選ぶ気はない。


 今更、選べない。




『——も、萌が来ました~~~~~~~~~~~~っ!!!!!! 同士に、同士にネタを~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!』

「ミリィ、読むは、空気」

 (もだ)えながら覚書帳に何やら書き込んでいるウサギの着ぐるみに、浮遊したままの黒い女が突っ込んだ。


 取り敢えず、ウサギの覚書帳は後で念入りに廃棄しよう、とリアは固く決めた。

 ……リアに、私生活をネタにされて、喜ぶ趣味は無い。


白姫


氷と癒しを司る真竜。

仮の姿は、硬質な輝きを有する月長石(ムーンストーン)の瞳の、白い幼女。

潜入の為に、白いウサギの着ぐるみを着用中。

物語が大好きで、人様の妄想をこよなく愛する。

普段は黒賢や時司と共に、図書館等に出没している。

書物もいいが、劇などもまたよし。

因みに、雑食。

読み専で、同士にネタをばら撒き、出来上がった創作物を美味しく頂くのも大好き。


萌を語り合ったら、同士です。


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