1 出会いは型破り
朝日を浴びた小高い丘に、黄金色の鎧を着た女剣士が一人立っていた。
右手で握り締めた剣が光った。
周りからは、敵兵がじわじわと迫ってきた。
「──どけどけ!」
下からメイドが剣を振るって駆け上ってきた。
その勢いに押されて囲みがほつれた。
メイドはその隙を逃さず難なく頂上にたどり着いた。
「テクラ、待ってたぞ」
「ローズ様、一人で戦わないでください」
「一人じゃない。お前と一緒だ」
ローズはニヤッと笑った。
テクラも口角を上げた。
ーーまさか、こうしてローズと背中を合わせて戦うはめになるとは。初めて出会ったときの衝撃からは、想像もできなかった。
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「ジータ、聞いてくれよ。父上がローズとテレーザの二人のうち、どちらかと結婚しろって言うんだ。決めないと廃嫡だって。そんなの決められないよ!」
オーレア王国。
王宮の廊下を歩いていたジータ。ばったり鉢合わせした兄のレナートに、誰もいない客間へ連れ込まれた。
そのとき放たれたレナート第一王子の声がこれだった。
妹のジータ王女は二人の容姿を思い浮かべた。
ーーパーティー会場で喋ったことはないけど、二人とも目立っていたわね。ローズ嬢は【赤毛のローズ】と呼ばれる燃えるような髪が特徴。肉感的で全身からハツラツとしたオーラを放っていた。じっとしているのが苦手なようで、会場のあちこちに顔を出していた。
それに比べて黒髪のテレーザ嬢は壁の花になって周りを注意深く見渡していた。スレンダーだけど芯がしっかりしているような。兄と会場に来てもほかの淑女のようにあからさまな笑顔を見せなかった。まさに【壁の花】の真骨頂だったわ。
二人とも貴族学校では私の先輩だけど、学年は入れ違いなので接点はない。どちらも貴族学校では伝説的な人物だった。
「噂ではサロモーネ伯爵のローズ嬢は男勝りだと耳にしています。彼女がいいのですか?」
「あの娘はパーティーで会ったら僕の目を真っ直ぐ見すえるんだ。確かに美人だし物怖じしないところもいいけど、尻に敷かれそうなところが気になる」
「だったらカランドラ男爵のテレーザ嬢はおとなしいですよね」
「そうだけど……何を考えているのかわからない。腹の中を読めないのは苦手だ。でもテレーザも美人だよなー」
ーー両手に花とはこのことだ。どちらを選んでも正解だと思うけど、兄は慎重になっている。なぜなら……
「ほんとはジータと結婚したいよ……」
「妹とは結婚できません」
「ジータは養女だからOKじゃないか?」
「養女でも兄妹として育ちました」
「僕は問題ないけどなー」
「私はありありです。私のように口うるさい女じゃないほうがいいですよ」
「そうかなー」
ーー兄の心に疑念が湧かないうちに、王の提案を進めなくては……
「ローズ嬢とテレーザ嬢、どちらが兄上にふさわしいかを私が調べましょうか?」
「うん、頼むよジータ」
レナート第一王子はほっとした顔をした。
サロモーネ伯爵家への潜入は宰相のフォンターナに頼んだ。国随一の実力者だ。サロモーネ伯爵とも親しい仲。
サロモーネ伯爵は第一王子との相性のテストだとすぐに理解してくれた。
こうして臨時のメイドとして、ジータ王女は潜入に成功した。
◇
テクラ(ジータ)は、兄の結婚相手を選ぶためにメイドとして伯爵家に潜入した。
居間に入るとターゲットが一人で椅子に座っていた。
メイドがテーブルに紅茶のカップを置くと鋭い視線が刺さった。ローズは赤毛の長髪を掻き上げて、メイドを見つめた。
「お前が臨時の新人メイドか?」
「はい。テクラ・ナンニーニです。よろしくお願いします」
テクラは深々と頭を下げた。
ローズはテクラの頭の先から足元までじっと見た。
「なるほど、いい身体をしてるな」
「えっ」
ローズは椅子から立ち上がってテクラににじり寄った。壁に背中を付けたテクラ。
ローズはいきなりメイド服の上から左胸を手で鷲掴みにした。
「きゃっ!」
何度も確かめるように揉んだ。
「おお、この弾力はなかなかだな。もう少し張りがあって小ぶりが私の好みだけど」
「お嬢様、戯れはおやめください!」
「すまない。刺激が強すぎたかな」
ローズはいたずらっ子のように舌を出した。そして豪快に笑った。
「ハハハ!」
それが、テクラとローズとの出会いだった。
ローズ・サロモーネ伯爵令嬢。
赤毛と黒薔薇の刺繍を施したドレスを着ていた。
テクラの一人目のターゲットは、この伯爵令嬢だ。




