第23話 寝顔が不潔な子爵と、乗り込んできた高位存在
【信之視点】
ふぁぁぁ……よく寝た。
昨日は謎の高位存在との長電話で精神力を削られたため、俺は屋敷のベッドで泥のように眠っていた。時計を見ると、たっぷり十二時間は寝ていたらしい。
ボサボサの頭を掻きながら、のんびりと二度寝を決め込もうと寝返りを打った、その時だった。
「ちょっと、新参者の鳥! ここは私の縄張りよ! 信之の寝顔を一番近くで見る権利は、この私にあるんだから!」
「ふんっ、下等な爬虫類が! 我らクリエイター次元の住人たるグリフィン族のグリフィア様が、直々にこの肉まんの町へ視察に訪れてやったのだ! 最高責任者であるこの男を起こすのは我が役目であろう!」
「ああっ、お二人とも! 他人のベッドの上で争わないでくださいっス!」
……ん?
俺は薄目を開けた。
ベッドの右側には、お馴染みのドラゴン娘・イグニちゃんがパジャマ姿の俺の腕を引っ張っている。
そしてベッドの左側には、見知らぬ高貴なドレスを着た美しい少女と、背中に鳥の翼を生やしたお調子者っぽい娘が立っていた。
……いや、昨日の念話の声だ。ついに町に乗り込んできたらしい。
「あのー……どちら様も、人の寝室で火花を散らすのは極めて『遺憾』なのですが……」
俺が寝起きの掠れた声で呟くと、バンッ!と勢いよく寝室のドアが開いた。
「山野子爵。本日の特区内のパトロール報告に……って、ちょっと!」
入ってきたのは、赤い制服をピシッと着こなした特区騎士団長の霞ちゃんだ。
彼女は、俺のベッドの左右に陣取るイグニちゃんと見知らぬ美少女を見て、顔をサァーッと青ざめさせた。
「……伝説のドラゴンと、王国の紋章であるグリフィン族の姫君を、朝からベッドに侍らせているなんて……」
「ち、違うんだ霞ちゃん! これは俺が寝ている間に勝手に……!」
「言い訳は聞きたくありません! 十二時間も寝てボサボサの頭で……寝顔まで公私混同して不潔ですッ!!」
「寝顔が公私混同って、もはや意味不明な理由なんだけど!?」
俺の悲痛な叫びも虚しく、霞ちゃんはバインダーを抱きしめたまま「不潔不潔不潔!」と呪文のように呟いて、冷たい蔑みの目を向けてきた。
◇◆◇
なんとか三人を部屋から追い出し、着替えてリビングに向かうと、机の上に一通の仰々しい手紙が置かれていた。
差出人は、王都の有力貴族である『ガストン伯爵』とある。
『前略、コルン町特区最高責任者・山野子爵殿。
最近、貴殿の活動はあまりにも目立ちすぎている。特区とはいえ、伝統ある貴族社会の秩序を乱すような派手な振る舞いは自重せよ。王都の貴族コミュニティの和を乱す行為は……云々』
要するに、「最近調子に乗ってる新参者が目障りだから、ちょっとは空気を読めよ」という、ネットのアマチュアコミュニティの古参のようなウザ絡み(お達し)だった。
「……誠に遺憾である。朝から女の子たちにベッドを占拠され、霞ちゃんに不潔と罵られ、さらには王都のヒマな伯爵からクソリプ(手紙)が飛んでくるなんて……極めて遺憾だ」
有名税というやつだろうが、俺はただのんびりスローライフを送りたいだけなのだ。
俺は溜め息をつきながら、手元のスマートフォンを手に取った。
寝ている間、俺のプログラマーとしての脳味噌は無意識にバックグラウンドで稼働し、一つの『最強のアイデア』のデバッグを終えていたのだ。
「あ、もしもしゴードン店長? 俺だけど」
『おお、子爵様! 朝からどうされました?』
「寝てる間に思いついたんだけどさ。特区と王都を結ぶ『異世界の物流システム(トラック輸送網)』を構築しようと思うんだ。あと、エイトイレブンの新作スイーツとして『異世界風マリトッツォ』を発注できればなぁと。クリームたっぷりのやつね。あとでエリアマネージャーさんと話がしたい」
『な、なんだってー!? 物流システムに新作スイーツ!? さすがは子爵様、寝起きのテンションで思いつく規模じゃねえですよ!』
寝ぼけ眼のまま、俺は電話越しに壮大なプロジェクトを勝手に発注してしまった。
隣で聞いていたグリフィアが「おおっ! クリームたっぷりのスイーツだと!? その構造、詳しく教えろ!」と目を輝かせ、イグニちゃんが「私が先に食べる!」と再び喧嘩を始める。
俺の平穏な朝は、今日も賑やかな喧騒の中へと消え去ってしまったのだった。
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