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平凡なおっさん、三級魔法使いに合格し、異世界へ移住する  作者: 塩野さち


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第24話 エイトイレブン、動く

【田中エリアマネージャー視点】


 東京、千代田区。日本の小売業界を牽引する大手コンビニチェーン『株式会社エイトイレブン』の本社ビル、最上階の役員会議室。


 そこでは現在、異世界という前代未聞のブルーオーシャン戦略に関する、極めて真面目な重役会議が開かれていた。


「――以上が、異世界特区『コルン町店』の今月の売上報告です。特筆すべきはホットスナック部門で、『エイトからあげ棒』と『エイト肉まん』の売上が、全国のトップ店舗の約五十倍という異常な数値を叩き出しております」


 異世界エリアマネージャーである私、田中がレーザーポインターでグラフを示すと、ずらりと並んだ役員たちが一斉にどよめいた。


「ご、五十倍だと!? 一体どんな客層が買っているんだ!」


「詳細なデータによりますと、主なヘビーユーザーは『伝説のドラゴン』と『高位存在のグリフィン族』、そして『エルトリア王国の近衛騎士団』とのことです」


 私が真顔で答えると、役員たちはハンカチで額の汗を拭いながら「なるほど、ドラゴンか……」「グリフィンなら仕方ないな」と、必死に現代日本の常識を異世界ファンタジーにすり合わせて納得しようとしていた。


 上座に座る早乙女社長が、鋭い鷹のような目で口を開いた。


「田中くん。先日、現地の最高責任者である山野子爵から、君宛てに直接電話があったそうだな?」


「はい、社長。山野子爵からの要請は二点。王都と特区を結ぶ『トラック輸送網(物流システム)』の構築。そして、新作スイーツ『異世界風マリトッツォ』の開発発注です」


「マリトッツォ……ッ! あのクリームを親の仇のように詰め込んだ、一世を風靡した悪魔のスイーツか!」


 早乙女社長がガタッと椅子から立ち上がった。


「役員諸君! これはただのテスト出店ではない。山野子爵は我々に、異世界の物流革命と、王都の貴族たちの胃袋を牛耳るチャンスを提示してくれているのだ!」


 会議室の空気が、一気に熱を帯びる。


「ただちに商品開発部を動かせ! エルフやドワーフの味覚にも合う、極上のマリトッツォを開発するんだ! そして物流部! 日本政府(外務省)と連携し、特区に『エイトイレブン異世界総合物流センター』を建設せよ! 王都へ向けて、我らが誇る冷蔵トラック部隊を進出させるのだ!」


「「「おおおおおっ!!」」」


 重役たちの熱い怒号が、会議室に響き渡った。


 日本のサラリーマンたちの『商魂』が、ファンタジー世界の常識を蹂躙しようとしている。


(山野さん……あなたが寝起きのテンションで言った一言で、うちの本社トップが完全にガチになっちゃいましたよ……!)


 私は、これから始まるであろう異世界での過酷なトラック流通網の構築と、エリアマネージャーとしての激務を想像し、そっと胃薬を天然水で流し込むのだった。


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