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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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エピローグ

 ──目が覚めて最初に感じたのは激しい光だった。

 眼球の奥が痛くなるくらいの刺激に目を細める。


 あ、私、また寝ちゃってたんだ……


 手のひらで目をかばいながら、ゆっくりと眩しさに目を慣らす。

 腕にはもうすっかりお馴染みのコードが繋がれていた。


 光に慣れてからゆっくりと目を開くと、目に映ったのは自宅の天井だった。


「あれ? 病院じゃないんだ」


 いつもは大抵病院で目覚めていたので不思議に思う。

 いつものことだが眠りに落ちる直前の記憶はなかった。

 目を閉じて記憶をたぐり寄せる。

 確か『七つの試練』をクリアし、約束の地で先輩とお母様、そして産みのお母様が対面したはずだ。

 それから先輩と二人で帰って……

 その先のことはうまく思い出せない。


 人の気配を感じて首を動かすと──


「えっ……!? なんで先輩がいるの?」


 なんとそこには椅子に座って寝ている先輩がいた。

 私が目を覚ますのを、ずっと待っていてくれたのだろうか?

 先輩の顔を見ると心の底からホッとした。

 でも私が目覚めた肝心な時に眠っているなんて、先輩も残念な人だ。

 惚けた顔をして眠る先輩を見て、頬が緩む。


 先輩を起こさないようにそっと身を起こして、ベッドから降りる。

 しかしうまく力が入らず足元がふらついた。

 驚きながら慌ててベッドを掴み、よろよろと立ち上がる。


「なに、これ……」


 まるで足が痺れたときのように力が入らない。

 生まれたての子鹿のように脚を震わせながら、机まで歩く。

 先輩が目を覚ます前に髪の乱れや化粧を整えたかったからだ。


 どうせ寝顔を見られているとは思うが、やはりだらしない格好を先輩には見られたくない。

 ただでさえ女の子として見てもらえてない様子なのに、更に幻滅させてしまうのは避けたかった。


 そう、先輩は私をまるで女の子としてみてくれていないのだ。


 先輩が好きだと分かるようにあからさまに態度に出しても手すら握ってくれない。

 はじめて手を握られたのは、釣りに行ったときのことだ。

 といってもこれは私の手を握ったと言うより、釣りの指導で竿を持つ手を握られただけだ。

 あの瞬間、緊張と興奮で胸が異常なくらいに高鳴り、そのまま眠りに落ちてしまった。

 おかげで私の病気が先輩にバレてしまうこととなったあの事件だ。


 これだけアピールしても気付かないなんて、先輩はどうしょうもなく鈍感な人なのだとずっと思っていたが、そのうち逆の可能性に気が付いた。

 鈍感なのは先輩ではなく、私の方なのかもしれない、と。


 つまり先輩は私の気持ちに気付いたうえで、女の子として興味がないからあえて素っ気ない態度を貫いている。

 そうとも知らずに私はグイグイ先輩にアピールしてしまっていた。

 その可能性に気付いたときはさすがに恥ずかしかった。


 しかしそんなことでへこたれる私じゃない。

 興味を持ってもらえてないなら、その気になってもらえるまでトライするまでだ。

 先輩に好きになってもらえるよう、更にアピールしまくった。

 まあ恋愛経験なんてゼロだから、自分の行為が当たっているのか自信はなかったけど。


 その頃から私の『七つの試練』を達成した時の願いは病気の完治から先輩の恋人になることに変わっていた。

 とはいえ病気の克服をあきらめたわけではない。

 先輩と付き合えば毎日が楽しくて素敵なものになるに決まっている。

 そうなれば病気も発症しないであろうという、一石二鳥の考えだった。


 先輩と二人で温泉旅行に行くことになったときは、千載一遇のチャンスだと思った。

 もちろん『七つの試練』のためだが、あわよくば先輩と急接近することも計算せずにはいられなかった。

 しかし先輩は旅行の最中も手さえ握ってくれなかった。

 流れによってはキスくらいまでなら許すつもりだったのに、拍子抜けもいいところである。


 ただ恋愛的な進展はなかったものの、別の進展はあった。

 先輩がはじめて自分の生い立ちについて話してくれたことである。

 そしてそれにより私の願いは再び変わることとなった。


 過去に囚われ、生みの親を憎み、自分がお母様の自由を奪っているのではないかと悩んでいる先輩を見て、私自身も悲しくなった。

 だから先輩に『自由で幸せに生きてもらいたい』という願いに変えたのだ。

 とはいえ先輩の恋人になるのを諦めたわけではない。

 そちらは自力でなんとかするつもりだった。


「まあ、全然何ともなってないんですけどね」


 思い切って先輩に『就職できそうもないし、将来が不安だ』と告げたときのことを思い出す。

 あれは私なりに精一杯の勇気を振り絞った発言だった。

 もしかしたら先輩が「そんな心配するな。俺が結婚してやるから」と言ってくれるんじゃないかと期待していた。

 しかし先輩は将来が心配ならビューキューバーになればいいと笑顔で提案してきた。

 正直がっかりしたけど、それを隠すように笑顔を作ったことを思い出す。

 今まで何度も作り笑顔をしてきたけど、あれほど切ない嘘の笑顔はなかった。

 まあよく考えれば先輩が「俺が結婚してやるから」なんてセリフ、言うわけないんだけど。


 先の長そうな私の恋路を思い、ため息をつきながら先輩の寝顔を見る。

 何となく少し先輩の顔が大人びているような気がした。

 私は身だしなみを整えるために鏡を手に取り、自分の姿を見て驚いた。


「え、なんで?」


 左右の髪の長さがあまり変わらなかったからだ。

 最後に髪を切ったのはいつだったのだろうかと思い出そうとしたが、今はそれよりはやく身だしなみを整えなければいけないと思い直す。


 髪をといて跳ねを直し、素早く化粧を整える。

 化粧はあまり得意じゃなかったけど、先輩の気を引こうと練習をして少しはうまくなった。

 とはいえ鏡に映る自分はなんだか地味で子どもっぽい。

 もうちょっとキラキラ感がある方が先輩は好きなのかもしれない。


「ちょっと試してみようかな」


 買ったはいいがあまり似合わないと思って使ってなかったラメ入りのアイシャドウを塗ってみる。

 顔全体が華やぐというよりは、目元だけ浮いてる気がしないでもない。

 でもきっと化粧なんて自分で見たらそんなものだ。

 案外先輩には好評かもしれない。


 化粧を整えてからそろーっと先輩に近付く。

 よほど眠いのか、まるで起きる様子がない。

 まさか私の『眠れる森の美少女症候群』が伝染ってしまったのだろうか?


「眠れる森の美女」でも「白雪姫」でも、お姫様を目覚めさせる方法は一つしかないのに、どうして先輩はしてくれないんだろう。

 私はちょっともどかしさで腹を立てながら先輩に顔を近づける。


「本当は逆なんですからね」


 小声で文句を言いながら、そっと先輩の唇にキスをした。

 その瞬間、先輩が「ううん……」と寝言を言いながら体を動かす。

 私は心臓が止まりそうなほど驚き、慌てて先輩から離れた。


「ゆき、お……?」


 先輩はゆっくりと目を開け、おそらくまだ視点の定まっていない目で眩しそうに私を見る。


「おはようございます、先輩」


 動揺しているのを隠し、満面の笑みで挨拶する。

 すると先輩は眠気が吹っ飛んだように目を見開いた。


「雪緒っ……目が覚めたのか!?」


「はい。私どれくらい──」


「雪緒っ!」


「きゃあっ!?」


 先輩はいきなり私を抱きしめる。

 びっくりしてしまい、私は固まる。

 もしやこれはラメ入りアイシャドーの効果なのだろうか?

 恐るべし、キラキラパワー。


「よかった……雪緒……」


 抱きしめる力が強すぎて少し痛かったけど、それを指摘すると先輩はきっと私を離してしまうだろう。

 だからそのことは告げず、私も先輩の背中に腕を回して抱き締め返す。


「ずいぶんご心配おかけしたみたいですいません」


 思ったより筋肉のある先輩の身体を感じながら、カーテンの隙間から見える景色を見る。

 窓の外にはオレンジ色に輝く空と、凹凸を感じさせられる雲が浮かんでいた。

 きっと私は生涯この景色を忘れないだろう。

 何故かそんなことを確信していた。



 《終わり》





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