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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season1 ― 原点 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season1― 原点 ―
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第6章 新しい職場(後編)― ミーティングルーム ―環の過去 ―

新しい場所に立ったとしても、過去の記憶はそう簡単に消えるものではありません。

けれど、それを「話せる誰か」がいるだけで、人は少しずつ癒えていきます。

この章では、環(たまき)が初めて“心の奥”を語ります。

そして、柊(しゅう)がそっと寄り添い、受け止めることで生まれるやさしい信頼。


過去を語ることが、未来へ進む第一歩になる――

そんな穏やかな時間を、どうぞ感じてください。

「環(たまき)、これから仕事の説明をするから、ちょっとミーティングルームにいいかな?」


柊(しゅう)が声をかけてきた。


「わかりました……」


環(たまき)はノートとペンを手に持ち、柊(しゅう)の後をついて行った。


ミーティングルームに入ると、柊(しゅう)が「ここ、どうぞ」と椅子を引いてくれた。


柊(しゅう)が隣に座ると、環(たまき)は少し緊張して姿勢を正した。


「早速だけど、業務の説明しちゃうね〜。」


軽い調子で言いながらも、説明は丁寧でわかりやすい。


都度「ここまででわからないところある?」と優しく確認してくれる。


「……すごくわかりやすいです。」


「よかった。」


説明が終わると、柊(しゅう)は少し笑って言った。


「少し雑談してもいい?」


「え? あ、はい……」


「環(たまき)、この前話してたことなんだけど。」


「はい……」


「クロノスの前にも、何かあったのか?」


環(たまき)はペンを指先で転がしながら、ゆっくりうなずいた。


「はい……実は同じことがありました。情報漏洩の犯人にされました。

 わたし、常習犯ですよね……はは……」


柊(しゅう)の眉がぴくりと動いた。


「は? 違うだろ?」


環(たまき)は苦笑しながら、少し肩をすくめた。


「そうなんですけど……今回もだったんで、さすがに辛かったです。

 でも、“やってません”って言っても、誰も本当のことを知ろうとしなくて。

 なんか悲しいですよね?

 アニメでは“真実はいつもひとつ”って言ってくれる頼もしい探偵さんがいるのに、現実はそうはいかないですね。

 でも、如月(きさらぎ)さんと凪(なぎ)くんは信じてくれて、調べてくれて、真実を見つけてくれた。

 この前カフェでその話を聞けて、本当にうれしかったんです。

 こんなわたしでも信じてくれた人がいたんだなって。」


柊(しゅう)は黙って頷きながら、環(たまき)の言葉をすべて受け止めた。


環(たまき)は小さく笑って続けた。


「反省文って、なんなんですかね?

 誰でもいいから“これ書いて”みたいな感じで。

 謹慎中は何もできないし、“反省につながることをしてください”って言われても、

 反省ってなんだろうって。頭おかしくなりそうでした。

 だから派遣社員になって、3ヶ月ごとに職場が変わる方がいいかなって。

 人付き合いも得意じゃないし……。

 ちょっと投げやりになってました。

 如月(きさらぎ)さんと凪(なぎ)くんが起業したって聞いて、なんか情けないなって思っちゃって。

 忘れようとしても、ひとりになるとやっぱり思い出しちゃうし……。

 あ、すみません、暗くなっちゃいましたね。」


「いいんだ、環(たまき)。」


柊(しゅう)が静かに言った。


「つらいことは、話していい。

 環(たまき)が話したいことを話してくれていいんだ。全部聞くから。」


環(たまき)は少し笑って、照れくさそうに言った。


「ありがとうございます。……如月(きさらぎ)さんって、魔法使いですか?」


「はぁ? 魔法使い?」


「なんか、隣にいるだけで何でも話せちゃうんで。

 わたし、誰かにこんなこと話したの初めてだし……。

 魔法で話させてるのかな〜って。」


柊(しゅう)は思わず吹き出した。


「ははは……そんな発想できるの、すごいな、環(たまき)。」


「えー、そうですか?」


「うん、いいよ。そういうの、俺好きだよ。」


「ありがとうございます。」


少し間があって、柊(しゅう)が微笑む。


「それとさ……環(たまき)、俺のこと“如月(きさらぎ)さん”って呼ぶだろ?」


「あ、はい。如月(きさらぎ)さんって……。あれ? 間違ってましたか?  

 漢字苦手で……」


「ははは……そういうことじゃなくて。違わないよ、“きさらぎ”で合ってる。

 でも俺、“柊(しゅう)”って呼ばれる方が好きなんだ。だから環(たまき)も“柊(しゅう)”って呼んで。」


「え? そんないきなり“柊(しゅう)”って呼べませんよ。

 わたしは如月(きさらぎ)さんの大切な人ではないですし……。」


「大切な人?」


「はい。名前は特別だから、大切な人に呼んでもらってください。」


「へぇ〜。でもさ、環(たまき)。」


「はい。」


「俺は環(たまき)のこと“環(たまき)”って呼んでるよ。それはいいの?」


「あ、ホントだ。そうですね。

 ……じゃあ、わたしの“大切な人”は如月(きさらぎ)さんなのかもしれないですね。」


柊(しゅう)は少しだけ目を細めて、笑った。


「環(たまき)の言う“大切な人”って、どういう人なの?」


「大切な人は、大切な人です!」


「じゃあ、その大切な人が“名前で呼んで”って頼んだら?」


「はい! もちろん呼びます! だって大切な人ですから。」


「環(たまき)、さっき俺のこと“大切な人かも”って言ってたよな。」


「言いましたね。」


「じゃあ、もう一回聞くよ。」


柊(しゅう)が少し身を寄せて、優しく言う。


「環(たまき)、俺のこと“柊(しゅう)”って呼んでほしい。」


環(たまき)は顔を赤らめながら、ペンを持ち直した。


「でもいきなり“柊(しゅう)”って呼ぶのはちょっと抵抗あります。

 凪(なぎ)くんって、なんて呼んでますか?」


「アイツは“柊(しゅう)先輩”って呼ぶな。」


「じゃあ、わたしも“柊(しゅう)先輩”って呼びます。

 いつか“大切な人”の意味がわかったら、“柊(しゅう)”って呼びます。それでもいいですか?」


柊(しゅう)は微笑みながら頷いた。


「うん、いいよ。如月(きさらぎ)さんより全然いいからな。」


「はい。柊(しゅう)先輩は、わたしをここに連れてきてくれた大切な人です。

 これからよろしくお願いします。」


柊(しゅう)は少し照れくさそうに笑って、


「こちらこそ。よろしくな、環(たまき)。」


そしてその笑顔が、環(たまき)の心にやさしく灯をともした。

それは――“信じてもらえる場所”で生きていく、新しいはじまりの光だった。

ご読了ありがとうございました。


誰かに話すことで、少しだけ心が軽くなることがあります。

柊(しゅう)の静かな言葉と、環(たまき)の勇気が重なって、

このミーティングルームには“希望の灯”がともりました。


名前を呼ぶこと、呼ばれること。

それは信頼の証であり、心が通い合う最初のサインなのかもしれません。


次章では、3人が“アークシステムズ”で共に働き始め、

新しい日常と、それぞれの想いが少しずつ動き出します。

どうぞ、その光の続きをお楽しみください。

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