表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season1 ― 原点 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season1― 原点 ―
9/21

第6章 新しい職場 ― ミーティングルーム ―環の過去 ―

新しい場所に立ったとしても、過去の記憶はそう簡単に消えるものではありません。

けれど、それを「話せる誰か」がいるだけで、人は少しずつ癒えていきます。


この章では、環が初めて“心の奥”を語ります。

そして、柊がそっと寄り添い、受け止めることで生まれるやさしい信頼。


過去を語ることが、未来へ進む第一歩になる――

そんな穏やかな時間を、どうぞ感じてください。

たまき、これから仕事の説明をするから、ちょっとミーティングルームにいいかな?」


しゅうが声をかけてきた。

「わかりました……」

環はノートとペンを手に持ち、柊の後をついて行った。


ミーティングルームに入ると、柊が「ここ、どうぞ」と椅子を引いてくれた。

柊が隣に座ると、環は少し緊張して姿勢を正した。


「早速だけど、業務の説明しちゃうね〜。」

軽い調子で言いながらも、説明は丁寧でわかりやすい。

都度「ここまででわからないところある?」と優しく確認してくれる。


「……すごくわかりやすいです。」

「よかった。」


説明が終わると、柊は少し笑って言った。

「少し雑談してもいい?」

「え? あ、はい……」


「環、この前話してたことなんだけど。」

「はい……」

「クロノスの前にも、何かあったのか?」


環はペンを指先で転がしながら、ゆっくりうなずいた。

「はい……実は同じことがありました。情報漏洩の犯人にされました。

 私、常習犯ですよね……はは……」


柊の眉がぴくりと動いた。

「は? 違うだろ?」


環は苦笑しながら、少し肩をすくめた。

「そうなんですけど……今回もだったんで、さすがに辛かったです。

 でも、“やってません”って言っても、誰も本当のことを知ろうとしなくて。

 なんか悲しいですよね?

 アニメでは“真実はいつもひとつ”って言ってくれる頼もしい探偵さんがいるのに、現実はそうはいかないですね。

 でも、如月きさらぎさんとなぎくんは信じてくれて、調べてくれて、真実を見つけてくれた。

 この前カフェでその話を聞けて、本当にうれしかったんです。

 こんな私でも信じてくれた人がいたんだなって。」


柊は黙って頷きながら、環の言葉をすべて受け止めた。


環は小さく笑って続けた。

「反省文って、なんなんですかね? 誰でもいいから“これ書いて”みたいな感じで。

 謹慎中は何もできないし、“反省につながることをしてください”って言われても、

 反省ってなんだろうって。頭おかしくなりそうでした。

 だから派遣社員になって、三ヶ月ごとに職場が変わる方がいいかなって。

 人付き合いも得意じゃないし……。

 ちょっと投げやりになってました。

 如月さんと凪くんが起業したって聞いて、なんか情けないなって思っちゃって。

 忘れようとしても、一人になるとやっぱり思い出しちゃうし……。

 あ、すみません、暗くなっちゃいましたね。」


「いいんだ、環。」

柊が静かに言った。

「つらいことは、話していい。

 環が話したいことを話してくれていいんだ。全部聞くから。」


環は少し笑って、照れくさそうに言った。

「ありがとうございます。……如月さんって、魔法使いですか?」


「はぁ? 魔法使い?」

「なんか、隣にいるだけで何でも話せちゃうんで。

 私、誰かにこんなこと話したの初めてだし……。

 魔法で話させてるのかな〜って。」


柊は思わず吹き出した。

「ははは……そんな発想できるの、すごいな、環。」


「えー、そうですか?」

「うん、いいよ。そういうの、俺好きだよ。」

「ありがとうございます。」


少し間があって、柊が微笑む。

「それとさ……環、俺のこと“如月さん”って呼ぶだろ?」

「あ、はい。如月さんって……。あれ? 間違ってましたか? 漢字苦手で……」


「ははは……そういうことじゃなくて。違わないよ、“きさらぎ”で合ってる。

 でも俺、“しゅう”って呼ばれる方が好きなんだ。だから環も“柊”って呼んで。」


「え? そんないきなり“柊”って呼べませんよ。

 私は如月さんの大切な人ではないですし……。」


「大切な人?」

「はい。名前は特別だから、大切な人に呼んでもらってください。」


「へぇ〜。でもさ、環。」

「はい。」

「俺は環のこと“環”って呼んでるよ。それはいいの?」


「あ、ホントだ。そうですね。

 ……じゃあ、私の“大切な人”は如月さんなのかもしれないですね。」


柊は少しだけ目を細めて、笑った。

「環の言う“大切な人”って、どういう人なの?」

「大切な人は大切な人です!」


「じゃあ、その大切な人が“名前で呼んで”って頼んだら?」

「はい! もちろん呼びます! だって大切な人ですから。」


「環、さっき俺のこと“大切な人かも”って言ってたよな。」

「言いましたね。」

「じゃあ、もう一回聞くよ。」


柊が少し身を寄せて、優しく言う。

「環、俺のこと“柊”って呼んでほしい。」


環は顔を赤らめながら、ペンを持ち直した。

「でもいきなり“柊”って呼ぶのはちょっと抵抗あります。

 凪くんって、なんて呼んでますか?」

「アイツは“柊先輩”って呼ぶな。」


「じゃあ、私も“柊先輩”って呼びます。

 いつか“大切な人”の意味がわかったら、“柊”って呼びます。それでもいいですか?」


柊は微笑みながら頷いた。

「うん、いいよ。如月さんより全然いいからな。」


「はい。柊先輩は、私をここに連れてきてくれた大切な人です。

 これからよろしくお願いします。」


柊は少し照れくさそうに笑って、

「こちらこそ。よろしくな、環。」


そしてその笑顔が、環の心にやさしく灯をともした。

それは――“信じてもらえる場所”で生きていく、新しいはじまりの光だった。


ご読了ありがとうございました。


誰かに話すことで、少しだけ心が軽くなることがあります。

柊の静かな言葉と、環の勇気が重なって、

このミーティングルームには“希望の灯”がともりました。


名前を呼ぶこと、呼ばれること。

それは信頼の証であり、心が通い合う最初のサインなのかもしれません。


次章では、3人が“アークシステムズ”で共に働き始め、

新しい日常と、それぞれの想いが少しずつ動き出します。

どうぞ、その光の続きをお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ