第6章 新しい職場 ― アークシステムズ ―
新しい環境、新しい仲間。
そして――信じてくれる人たちとの再会。
過去の痛みを抱えながらも、
環は再び一歩を踏み出します。
「信じることは、簡単じゃない。でも、信じないと始まらない。」
そんな言葉に導かれるように、
彼女の新しい物語が、静かに動き出します。
朝の光がガラス窓を透かして、白い壁に柔らかく反射していた。
クロノスとはまったく違う空気。
静かで、温かくて、少しだけ人のぬくもりが混ざっている。
「おはようございます……」
環がそっとドアを開けると、すでに凪がパソコンに向かっていた。
「環さん! おはようございます!」
笑顔で手を振る凪に、環も少し安心して微笑む。
「おはようございます、凪くん。」
奥から足音がして、スーツ姿の男性が現れた。
落ち着いた雰囲気の中に、どこか包み込むような優しさを感じる人――。
「おはよう。久しぶりだね、環。」
その声に、環ははっとした。
「……大塚さん………。」
「覚えていてくれてうれしいよ。」
柔らかく笑うその仕草が、どこか柊に似ている。
声の低さも、笑うときの目尻の下がり方も、そっくりだった。
「ここでは“社長”なんて呼ばなくていいからね。」
「え? でも……」
「凪も柊も名前で呼んでるよ。環もそうして。」
「わかりました……じゃあ、柊真さん。」
「うん、それでいい。」
横で凪が少し神妙な顔をしていた。
「環さん、ひとつ言っておきたいことがあるんです。」
「え?」
「僕……あの時、環さんのこと助けられなかった。
真犯人を見つけた時には、
もう環さんが会社を辞めてて……遅かったんです。」
凪の言葉に、環は首を横に振った。
「そんな……凪くんが悪いわけじゃありません。」
柊がその隣で静かに頷く。
「凪が見つけてくれなければ、俺たちも真実にたどり着けなかった。
それに――俺は最初から、環がそんなことをする人じゃないって思ってた。」
「え……」
「クロノスにいた時、一度だけ環に事務作業を頼んだことがあるんだ。
その仕事が丁寧で、報告書の書き方も完璧だった。
だから、絶対に違うと思った。」
凪が笑顔を戻しながら言う。
「柊先輩、あの時ずっと言ってましたよ。
“三浦環はそんなミスをする人じゃない”って。」
柊真が穏やかに言葉を添えた。
「そうやって真実を見つけ出すのが、うちのやり方なんだ。
“おかしいな”と思ったことは、見過ごさない。」
環は胸がいっぱいになって、言葉を探した。
「……ありがとうございます。
なんだか夢みたいです。
“信じてくれる人がいた”って、今でも信じられなくて……。」
柊真は優しく微笑む。
「信じることは簡単じゃない。
でも、信じないと始まらないんだ。」
環はその言葉を胸の奥に刻んだ。
そして心の中で思う。
(やっぱり、声も、話し方も、笑い方も……どことなく如月さんに似てる)
“信じてもらえる”――そのことが、どれほど心を救うのか。
この章では、環が初めて「信頼」という温かさに触れました。
柊真、柊、凪。
それぞれの想いが交わり、
彼女の世界に少しずつ“光”が戻っていきます。
アークシステムズという新しい場所で、
環がどんな未来を紡いでいくのか――
次の章で、その扉が開きます。




