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こわい話を聞かされて怖がる男の子を見るのが大好きなお姉さん  作者: 黒山兄壱
第11話「こわい話を聞かされて怖がる男の子を見るのが大好きなお姉さん 」
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11-4「こわい話を聞かされて怖がる男の子を見るのが大好きなお姉さん 」

「それにしても本当に偶然ねェ……まさかあんな場所でキミと出会えるなんて」


 お姉さんは手を合わせながら満面の笑みで嬉しそうに話すが、ワタルはそれどころではなかった。


「そ、そんな事より……さ、さっきのあれはいったい何だったんですか!?」

「あれって……?」

「玄関の戸を滅茶苦茶に叩いてた奴ですよ!」


 ワタルとお姉さんはいったん落ち着くために、先ほどまで居た空き家を離れていつもの図書館前のベンチまで移動していた。

 結構長い距離を二人して歩いたせいか、その間に日は大分沈んでしまい空はすっかり夕焼け色に染まってしまっている。

 しかしいくらか時間が経ったとはいえ、ワタルの心臓はまだドキドキと激しく脈打っていた。


 ……初めて幽霊を見てしまった。


 しかも一瞬見えるだとかそんなのではない、はっきりとした実害を受けてしまったのである。

 ただでさえ怖がりなワタルにとって、これは強烈な体験だった。

 だからこそ、その正体がなんだったのか知りたかったのだが、それを尋ねられたお姉さんはしばらく考え込んだ後、


「……さあ?」


 ……と、肩をすくめて苦笑した。


「わっ、分からないわけないでしょう!? この家の話をインタビューしたって日記に……」

「ええっ、キミあの日記読んだのォ? イヤだわ、恥ずかしい……」


 お姉さんは照れたような仕草をしながら言葉を続けた。


「……といっても、私が聞いたのは『自分の昔住んで居た家に玄関をドンドン叩く幽霊が出る』ってだけで、アレの由来とか一切わからないのよォ」

「そ、そんなあ……」


 ワタルは大きく肩を落とした。


「でもそんなに怖がらなくても大丈夫よ? あの家に入らなければアレに遭う事も無いでしょうし」


 そんな事を自信満々に言うお姉さんを見て、ワタルは以前から気になっていた事を確かめたくなった。


「あの、お姉さん……ちょっとすみません」


 そう言って、ワタルはお姉さんの両手をいきなり握って軽く揉んでみた。


「えっ……き、キミ? どうしたのかしらァ……?」


 急な出来事に驚いたお姉さんは若干焦って上ずった声を上げるが、ワタルはそのまま彼女の両手から両肩にかけて、何かを確かめているかのように軽く触っていった。

 その、スキンシップとも取れる行為のせいでお姉さんの頬は赤みを帯びていく。


「ね、ねえ……どうしたのォ……?」

「……うん、ちゃんと生きてる」

「……へ?」


 ワタルは以前からお姉さんの事を、もしかしたら生きた人間じゃないのかもしれないと思う事があった。

 だから今、彼女の体を触って確かめたのだった。

 しかしそうなると……。


「あの、お姉さんってもしかして霊能力者の人……ですか?」

「……えっ、ええ?」


 ワタルの思いもよらない質問を聞いて、お姉さんは素っ頓狂な声を出してしまう。

 その様子を見たワタルは、急に変な事を言ってしまったと思って慌てて弁解をした。


「いや、だって……お姉さんが何かしたから、さっきの幽霊は消えたんでしょう?」


 そう言いながらワタルは先ほどの体験を思い出していた。

 幽霊……おそらく幽霊的な物であろうアレは、お姉さんが話始めると戸を叩く激しさがどんどん無くなって行ったように思える。

 だとするなら、お姉さんには何か特別な力があって、それであの幽霊を撃退したのだとワタルは思ったのだった。

 しかし、そんな事を言われたお姉さんは一瞬の間をおいてから、口元に手を当て笑いをこらえる様な仕草を見せながら答えた。


「ふふっ……ち、違うわよォ……私は別になんの力も無い、ただの大学生よ?」

「えっ、でもさっきのは明らかに……」

「そうね……確かにそういうつもりでこわい話をしたけど、別に除霊とかしたわけじゃないのよ」


 そう言いながら、お姉さんはワタルの目の前に人差し指を一本立てる。


「……あくまでこれは個人的な考え方として聞いてねェ?」

「は、はい……」

「私が考えるに、おばけっていうのは結構存在があいまいな物なんじゃないかなって思うの」


 ……おばけというのは、さっき見た幽霊の事だろうか。

 そんな事を考えているワタルの目の前で、お姉さんは人差し指を左右にゆっくり往復させた。


「居るかもしれないし、居ないかもしれない。そんな状態から、ふとしたきっかけで居る状態になってしまう。それが、さっき見たものなんじゃないかなァ……」

「き、きっかけって……?」

「うーん……それはちょっと分からないけれど」


 お姉さんは左右に動かしていた人差し指を右側で止める。

 おそらく、おばけが居る状態という事を示しているのだろう、とワタルは思った。


「でね? そのおばけをまた居ない状態にしたい……そう思ったから私はあの時、キミの前であの怪談を話したの」

「……えっと?」

「そのお化けを元ネタにして、いろんな要素を盛って再構成してフィクションとしてのストーリーにして話す、そうする事でそれをまた居ない状態に戻すことが出来る……って私は考えているの」


 そう言いながらお姉さんは人差し指を反対の左側にすーっと移動させた。

 そんな少し要領を得ない話を聞かされたワタルは頭がクラクラとしてしまったが、なんとか頑張って内容をかみ砕いて飲み込んだ。


「……つ、つまり……お化けに対して『お前はフィクションの存在だから本当は居ないんだよ』って言い聞かせて、存在を消させる……みたいな感じですか?」

「そうそう、そういう事よォ!」


 お姉さんは手を叩いて、嬉しそうな顔を見せる。

 おそらく、彼女が怪談収集をする中で色々体験してきた中で見つけた理論なんだろうとワタルは思った。

 だが、今の話を聞いてもワタルの疑問はまだ解消されていなかった。


「……それで、結局お姉さんって何者なんですか?」

「何者もなにも、私はただの……」

「いや、どう考えても普通の大学生には見えませんよ……」


 お姉さんの日記には、精力的にいろんな所へ飛んで行ってはこわい話を集めている様子が書かれていた。

 普通のオカルト好きの大学生の行動の範疇には収まらないようにワタルは感じたのだった。

 それを受けて、お姉さんはうーんと腕を組んで考え事をしてから口を開いた。


「私ね、怪談作家になりたいのよ」

「……本とか出したいってことですか?」

「ああ違う、そういうのじゃないのよ……私がなりたいのはね?」


 そう言ってお姉さんは、言葉を選んでいるような様子を見せてから話を続けた。


「……例えば『口裂け女』っていう都市伝説があるでしょう?」

「くっ、口裂け女ってあの……」


 赤いコートを着た黒いロングヘアーに白いマスクをしている女性で「私、キレイ?」と尋ねてきて、キレイだと答えると「これでもぉ?」と言ってマスクを取ると、その下から耳まで裂けた大きな口が現れる……。

 ワタルはそんな口裂け女の一般的なイメージを思い浮かべて背筋を震わせた。


「あの話って今では誰もが知ってるけれど、その発生源には口裂け女の原型となった話を考えて語った人がいたんじゃないかって、私は思うの」

「そ、そうなんですか……?」

「たぶんね? それにネットの怪談なんかはもっと明確に、最初に話を書きこんだ誰かがいるわけじゃない? そして、今じゃその誰かの手を離れていろんなところで語られたりしている……」

「つまり……お姉さんの言う怪談作家っていうのは小説家とかじゃなくって」

「そう、口裂け女や有名なネット怪談みたいな、様々な人たちの間で語り継がれるこわい話を作りたいのよォ……!」


 目を輝かせながらお姉さんの言う事に、ワタルは言葉を失った。

 あまりにもその大層な志を前にして、かける言葉が思いつかなかったのである。

 ただ、そんな中でワタルの胸に不安がよぎる。


「あの……それじゃあ僕にこわい話を聞かせてくれたのって……お姉さんの作ったこわい話を広めるためなんですか?」


 確かに彼女の望みを叶えるなら、小学生に聞かせてそれを学校で広めてもらうのが効果的だろう。

 実際、ワタルが夏合宿で話す怪談を相談した時に、さりげなくだが自分のした話をしてもいいと提案してくれたこともあった。

 ただ、それが本当だとしたらお姉さんは自分を利用するために近づいただけという事になってしまう。

 もしそうなら、なんだか嫌だな……とワタルは思った。

 そんな感情が分かりやすく現れていたせいか、お姉さんはワタルの悲しそうな顔を目にして慌てた様子を見せる。


「違っ、それは違うのよ……! 私はただ、キミの……」


 そこまで言って、彼女はなぜか言葉を切ってしまう。

 お互いの間に沈黙の時間が流れる。

 そうしてしばらくすると、お姉さんは空を見てアッ、と声を上げた。


「いけない、そろそろ暗くなってきそうねェ……今日はもうお開きにしましょうか」

「えっ……」

「私もそろそろ後期授業が始まるからあまり図書館に来れなくなると思うけど、また機会があったら会いましょう?」


 お姉さんはそう言うとベンチから立ってその場を離れようとする。

 それを見てワタルは、このまま別れたらまた会えなくなってしまうのではと思ってしまった。


「あ、あの……」


 ワタルは言葉に詰まった。

 一体なんと言えば、自分とお姉さんの繋がりを途切れないように出来るのか分からなかった。

 一生懸命に頭の中で言葉を探すが、これといったものが見つからずワタルは焦る。


「それじゃァ……バイバイ」


 お姉さんは、どこか寂し気な笑顔を見せながら手を振って見せた。

 そうして背中を見せる彼女の手を、ワタルはとっさに掴んでしまう。


「えっ……」

「あっ、こ……これはその……」


 突然の事に驚くお姉さんだったが、ワタル自身も自分の行動に驚いていた。

 自分が一体何をしているのか分からなかったが、しかしこれが最後のチャンスの様に思えた。

 何か一言言わなければ、何か……そんな事を考えるワタルの口から、思ってもいないような言葉がふっと零れた。



「……あの、僕をあの家に入らせたかったから、急にいなくなったんですか?」



 自分は何を言っているのだろう、とワタルは思った。

 頭の中で思ってもいない言葉が出た事もびっくりしたが、言っている意味もよく分からなかった。

 ああ、これじゃお姉さんを困らせるだけじゃないか、と思ったワタルであったが……。


「き、キミは……は、はは……何を……」


 そんな事を言われたお姉さんは、何故か明後日の方向に目線を向けながら動揺して見せた。

 その表情に、ワタルは見覚えがあった。

 ……いつもお姉さんが、気まずい事を聞かれて誤魔化そうとするときに見せるものである。


 一方で、ワタルはだんだんと落ち着きを取り戻していた。

 冷静になって考えると、さっきの自分の言葉も思い当たる節がちょくちょくあったような気がしてくる。


「……理由は分かりませんが、普通にあの幽霊の出る空き家に行こうってお姉さんが誘っても、僕は絶対に嫌だって言ってたと思うんです。だから、僕にお姉さんを探すっていう目的を与えて、あの家に自主的に入らせた……んじゃないですか?」


 少し無理がある様な気もするが、意外と当たっているのではないかとワタルは思えてきていた。

 つまり、ワタルがお姉さんを探そうと決意し、数少ない手がかりから例のホームページにたどり着いて、パスワードを解いて日記を読み、あの空き家へと行くという経緯全てがお姉さんの策略だったのではないだろうか。

 それを受けてお姉さんはというと、一度大きく深呼吸をしてからあからさまに強がった感じを見せながら反論する。


「ふ……ふふ……面白い推理ねェ……でも、私は単に忙しくって図書館に来れなくなっただけで」

「あ、それはウソですよね」


 お姉さんの言葉をワタルは真正面から否定した。


「お姉さんの日記は全て目を通したけれど、最近忙しそうにしてた様な事は特にありませんでした。まあ、あれ全部がウソだったら分かりませんが、その場合ウソの日記を書いた理由を説明できます?」

「うっ、そ……それは」


 ワタルがどんどんと饒舌になっていくのに反して、お姉さんはいつもと違ってどんどん口数が減っていく。


「大体あの日記のパスワードのヒントが『私と初めて出会った場所は?』でその答えが『図書館』なのも、僕だけが見れるように設定したものだと思うんですが、違いますか?」

「は、ははは……」


 そこまで言われたお姉さんは、急に糸が切れた操り人形のようにだらりと脱力し、再びベンチに腰掛けた。


「はぁー……キミの前ではミステリアスなお姉さんで居たかったんだけどなァ」


 そう言いながら頭をかくその姿は、ワタルの知る妖しい雰囲気漂う女性の姿とは明らかにかけ離れていた。


「……確かにキミの言う通り、図書館に来なくなったのも日記にあの家へ行くみたいな事を書いたのも、全部キミをあの家に導くために計画したものよ」

「ど、どうしてそんな事を……?」

「それはねェ……?」


 お姉さんはどこか観念したような、それでいてどこか自信満々といったような様子を見せながら言った。


「私はね……こわい話を聞かされて怖がる男の子を見るのが大好きなお姉さんなのよ!」

「こっ、こわい話を聞かされて怖がる男の子を見るのが大好きなお姉さん……!?」


 お姉さんがいきなりよく分からない事を言ってきたため、ワタルは混乱して彼女の言葉を復唱してしまった。


「私ね、元々こわい話自体も好きなんだけど、それを人に話してその反応を見るのもむっちゃ好きやねん」

(なんで関西弁……?)

「それでね、特に……キミみたいな可愛違っ、子供らしい男の子の反応を見るのがね、こう……すごい好きなのよォ」

「へ、へえ……」


 何故かうっとりとした表情で自分語りをするお姉さんを見て、ワタルは若干気持ちが引いていくのを感じる。


「……最近、怪談収集をしている中で嫌な事があってね。ちょっと気持ちが参ってたんだよね……」


 一瞬、お姉さんは遠くを眺める様な目をした。


「それで、怖いってなんなのか分からなくなって、もうこんな事やめようかなって思っていた時にね……偶然キミを見かけたの」

「ぼ、僕を……?」

「図書館の外のベンチに座って、怖い本をブルブルと震えながら読んでるキミの姿を見て……気が付いたら声をかけてたの」


 そう言いながら、お姉さんはとても優しそうな笑顔をワタルに向ける。


「それで、キミにいろんなこわい話をしていく中で、ああ……自分がやりたい事ってこういうのなんだなって、見つめ直すことができたの。だから、私はね……キミにとっても、とっても感謝しているんだよ」


 お姉さんから真っ直ぐに感謝の言葉を貰い、ワタルはなんだか気恥ずかしさを覚えてしまった。


「……そんなキミから、あの赤い風見鶏の家の名前が出て来た時はびっくりしたけど、その時にこう思ったの。キミとあの家でデート違う肝試しみたいな事が出来たら楽しいだろうなって」

「……もしかして、それが理由だったんですか? 僕に無断で人の家に入らせようとしたのって」

「ご、ゴメンねェ……?」

「それにわざわざ幽霊に遭遇させたのも、僕が怖がるのを見るために……」

「そっ……それは違う! 違うのよォ……」


 お姉さんは焦ってワタルの言葉を否定した。


「本来ならキミが家を出る時に声を掛けるつもりだったんだけど、アレが本当に出て来るだなんて想定外だったの……」

「でも、だからってこんな事……」

「うん分かる、キミが怒るのも分かってるつもりよ? でも私だってこの数週間キミに会えなくてつらかったんだから……。とくに、キミがベンチで泣きだした時はつい出て行っちゃいそうになってェ……」


 その言葉を聞いてワタルはギョッとしてお姉さんの顔をジッと見つめた。


「……お姉さん、もしかしてずっと僕の様子を物陰から見てたんですか?」

「あっ……いや、その」

「よく考えてみるとタイミングよくあの家で出会うのだって、そうしてないと無理って事になるけど……いやでも、ウソでしょう?」

「あの、あのね……?」

「それに……」


 そこまで言って、ワタルは口をつぐんだ。

 まるで己の気持ちをお姉さんに全て見透かされているようで、恥ずかしいような腹立たしいような、複雑な心境になってしまった。


 お姉さんがいきなりワタルの目の前から居なくなってしまったとしても、普通は入りたくないような家に犯罪行為になってまでも入ろうとはしないのである。

 彼女が立てた計画、それを成功させるために必要なのはワタルがお姉さんの事が好きだという想いだった。

 つまり……知っていたのだ、彼女はワタルの気持ちを。


「……ズルいよ、お姉さん」


 恥ずかしさで彼女の顔が見れないワタルは、俯いたままぼそりと呟いた。

 それにあまりにも身勝手過ぎる行いに怒りを感じないわけでもない。

 いろんな感情が頭の中でぐちゃぐちゃと入り乱れて、ワタルはどうすればいいのか分からなくなっていた。

 ……その時、ふわりと甘い匂いがしたかと思い顔を上げると、自分の顔のすぐ横にお姉さんの顔があった。


「っ──!?」


 びっくりしてワタルはベンチから転げ落ちてしまう。

 そんな彼を見下ろしながら、お姉さんは小恥ずかしそうに微笑んだ。

 ……間違いない、今さっきお姉さんに頬っぺたにキスされた、とワタルは思った。


「おっ、お姉さん……!? これは……」

「……ふふっ、その、お詫びっていうかァ」

「あのですねえ! こんな事されたって……」


 そう言って立ち上がり文句の1つでも言おうとしたワタルだったが、お姉さんの表情を見て言葉を失ってしまった。


「ふ、ふふ……あの、ふへ……」


 おそらく、慣れないような事をしたからだろうか。

 お姉さんは口元を手で押さえながら、顔を真っ赤にして狼狽えていた。


「……あー、もうっ」


 いくらお姉さんがろくでなしで、人の気持ちを利用する様などうしようもない人だったとしても。

 その恥ずかしがる姿を見て胸の高まりを覚えるくらい、自分はまだ彼女の事が大好きなんだという事をワタルは思い知ったのだった。




「ご、ごめんなさいねェ……こんな時間まで付き合わせちゃって」

「ホントですよ、一応家族にはメールをしておきましたけど」


 ワタルとお姉さんが話し込んでいる間に、日はすっかり沈んでしまい頭上には星空が広がっていた。

 普段なら夜道を歩いて帰るのは怖くて嫌だったが、不思議と今は平気な気がする。


「それじゃあ来週の秋祭り、絶対一緒に行きましょうね、絶対ですからね」

「うん……そうね、絶対ねェ」


 今回のお詫びということで、ワタルはお姉さんとこの近所で近々行われるお祭りに一緒にいく約束を取り付けていた。

 また今度会う約束がある、それだけでなんだか胸が躍るようだった。


「じゃ……またね」

「はい、また……」


 そう言ってお互い別々の帰り道に着こうとした所で……。


「……そうだ、あの!」

「あっ、あのね!」


 ワタルとお姉さん、二人は同じタイミングで振り返った。


「えっと……お姉さんの名前、聞いてもいいですか……って言おうと思ったんですけど」

「わっ、私もキミの名前、今まで知らなかったから聞こうと……」


 そうしてしばらくの間を置いてから、二人は一緒に笑いだしてしまった。

 夏休みに出会ってから今まで、お互いが名前を知らずに居たことが可笑しくて仕方なかったのである。


「はぁー……僕、日野 渡(ひのわたる)って言います」

「私の名前はね、一ノ瀬櫻子(いちのせさくらこ)って言うの」


 お互いの名前を知れたことで、ワタルは今初めてこのお姉さん……一ノ瀬櫻子さんとちゃんとした関係が築けるような気がした。

 その関係の名前をなんて言うのか分からなかったけれど、何か一歩を踏み出せたような、そんな嬉しさを覚えたのであった。


「それじゃ、またね一ノ瀬お姉さん!」

「うん! また来週ね、ワタルくん!」


 そうして、二人はそれぞれの帰り道に向かって歩き出した。

 今度会う秋祭りで、どんなことをしようかとワクワクとした気持ちと一緒に……。



(第11話、了)

 ここまで読んでいただきありがとうございました。


 今後の更新予定は未定ですが、もしかしたら続きを書くかも……?

 もしその時が来たら、また宜しくお願いします。

 詳しい事については、あとで活動報告の方に付いてまとめますので、そちらも宜しければご覧になってください。


 もしここまで読んで面白かったら、評価やブックマークなどしていただけるとニヤニヤしたりします。

 よろしくお願いいたします……。

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