海賊、お宝、無人島!
怪盗レイナの予告状だった。
「伝説の海賊がこの町に残したお宝を頂く。怪盗レイナ」
その文面を読み上げて、奏那はケラケラと笑った。……まだ笑ってる。……笑いすぎだ!頭に軽くチョップしてやって、ようやく笑うのが止まる。
町の真ん中、一番目立つ場所に、大きな幕を引っ掛けてやったのだ。翌朝、見つけた若者のSNSがうまいことバズってくれた。バズネタを提供してやったことに感謝してほしいものだ。
楓からはすぐにメッセージが届いていて、「沖縄で待ってなさい!」だそうだ。そのあと連投されているスタンプには沖縄に行けるワクワクが隠しきれていない。
「結局、お宝ってのが何か分かったわけ?」
「さあ。だって、海賊の宝があるって情報しかないもん。それが宝石なのか、黄金なのか、はたまた歴史的な遺物なのか。見つけてからのお楽しみってとこね」
「面白いお宝が眠ってるといいね」
言いながら、奏那は親指で後ろの方を指してみせる。その先には、角から顔だけ出してこっちを覗いている千佳と三宅くん。私と目が合うと、サッと顔を隠してしまう。
「あんたのファンの子供たちが目を輝かせてるからさ」
「……まあ、やれるだけ頑張るよ」
海賊の宝。それは確かに、千佳の沖縄の別荘がある、この周辺の町に古くから伝わる話であるようだった。それが語り継がれ始めた時期は分からないが、四百年ほど前の史料にも伝承の内容は見つけられたので、少なくともそれ以前から存在していたことになる。ただ、近くの図書館で史料を漁ったのだが、やっぱり詳しい話は分からない。沖縄でも田舎の方の土地で、そんな土地の片隅の伝承ともなると、ちゃんと調査が入ったことがないのだ。
僥倖なのは、場所が明確に分かっていること。ちょうど別荘があるビーチの、ちょっと沖合の方に行くと、それなりの大きさの島がある。かつては住民が居たようだが、今は完全に無人。何もないので、近寄る者もいない。つまり、そこに海賊の宝があると分かっていても、近寄る手段がないのだ。普通なら。
これまた僥倖なことに、私は普通じゃない。長宗我部千佳とかいう、お金を掛けたら解決する系統の問題ならどうにかしてくれる万能ツールがある。それに頼るのはちょいと癪だが、今のところはそれしか手段がない。助けて千佳エモン。
実際どうかというと、「しょうがないわねえ」とか言いながらウキウキして朔弥に指示を飛ばしていた。だが、一応のところ千佳が出資するという体裁になっているものの、実際に動くのは朔弥である。どうせ千佳が承諾してくれるのは分かっていたから、先に朔弥に話は通しておいてある。
柏木朔弥という男は、仕事に関しては本当に優秀だった。別に他のところで無能と言いたいわけでもないし、そう言いたくてもなかなか根拠を拾ってくることができないから腹が立つのだが。そんな優秀な奴だから、最初の経過報告の言葉は次のようなものだった。
「件の無人島については一通り調べて来たんだが、海賊の宝はなさそうだ。海賊の宝は別の島にある可能性が高い」
流石にちょっとだけ面食らってしまった。
「どういうこと?もう島を一通り調べて、それでお宝がなかったってわけ?」
「そういうことになるね」
いくらなんでも、仕事の手際が良すぎる。だが、そこまでやれなんて言ってない、とかいうのは一旦置いといて。
「宝がないって、それじゃあ困るんだけど」
「違う違う、僕が言ったのは、伝承の通りの島にはなかった、という話だよ。そもそも伝承の内容が間違っていて、別の島だった可能性があるんだ」
言いながら、朔弥は手元のタブレットで地図アプリを開く。そして、沖縄本島近海の島をクローズアップして見せた。
「これが、伝承で示されていた島」
今度は地図をグッと引いた。元の島影が見えなくなって、沖縄全域、いや、日本列島全体が見えてくるくらいに。その日本地図くらいの規模の地図を少しだけ動かし、フィリピン海の方にズームしていく。やがて小さな島が見えてきた。
「僕の見解では、海賊の宝があるのはこっちの島じゃないかと思うんだ」
「……本気で言ってる?」
「ああ、僕が嘘をついているように見えるかい?」
酷い悪口が口をついて出そうになるのをなんとかこらえて、私は尋ねる。
「そう言うくらいなら、何か理由があるんでしょうね。どういうことなの?」
「うん。まずは、伝承の島じゃあないという理由から。これは複数あって、」
そう言いながら、朔弥は今度はタブレットにスライドを映し出す。見やすい感じに作りこまれていて、さながらビジネスの場でのプレゼン資料のよう。
「まずは、海流について。該当の島の周辺は、このように、海底が入り組んだ形をしている。そのせいで、年中波が荒れているんだ。一方で、伝承は少なくとも十四世紀末には存在している。その頃の東アジアの民間で使われていたような船では、この荒波を越えるのは難しい。これが理由の一つ目。二つ目は、これも地形の問題。この島は、周囲が断崖絶壁で囲まれているんだ。つまり、上陸するのが難しい。見つけづらい場所に宝を隠したくてあえて難しい地形を選んだというのも考えられるが、それならば、こんなに本島から近い場所を選ぶのは考えづらい。この島は目を凝らせば見える場所にあるし、物語的な分かりやすさで選ばれた場所なんだと思うんだ。他にも、色々と理由はあるけど……。大きくは、こんなところかな」
ズラリと列挙された箇条書き。ざっと目を通してみたが、朔弥がそう言うのであればそうなんだろう。その辺は朔弥の仕事を疑うつもりはない。
「続いて、真の『海賊の宝』の島が、こっちの……無人島であるという証拠についてだが……」
「分かった、後で資料だけ寄越してよ。長ったらしい説明は要らない」
朔弥はちょっと不満そうに、「ああ、そう」とだけ言って、ご丁寧に印刷して用意してあった資料を手渡してくれた。用意周到である。
「それじゃあ、明日あたり船を出してもらって……」
「待ってくれ、もう出発しようってのかい?」
「ダメなの?」
「……まあ、不可能ってわけじゃあないが」
「じゃあ行こう」




