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眠り猫は抱き枕を離さない  作者: しんら
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side.おねえさん 2

 

 幼い頃に、つがいと出会った。

 いつか一緒になって、どちらかが逝くまでの長い間、共に暮らすのだと思っていた。


  流行病はやりやまいで、呆気なくあの子が死んでしまうまでは。


 幼すぎて訳も分からないまま、わたしは生涯の伴侶を失った。


 クラウドが生まれる前の話だ。



 身を引き裂くような痛みや苦しみを感じたのかは分からない。あの子が亡くなった後の記憶はしばらく無いから。


 覚えているのは、前歯が抜けた間抜けな笑い顔や、熱くて少し湿った手の感触。溌剌とした話し声。締めつけるような甘い胸の痛み。


 つがいがこの世を去るならば、その時はその片割れも一緒に連れて行って欲しいと母に泣いて訴えたことは覚えている。


 残酷な言葉をぶつけてしまったことは後悔しているけれど、大人になった今でも心からそう思っている。




 何度目かに会ったときに、猫さんが言っていた言葉を思い出す。


「前世で、わたしはひとりでした。愛する人がいなかったので、寂しさすら知りませんでした」


 実感のこもった声は、わたしの胸にも沁みた。


 かつて全身全霊で求めた人。

 幼いながらに、大切にしたいと思った。


 ある日突然、想いごと全て失ったわたしは、今はもう寂しさしか知らない。

 かつての猫さんとは正反対だけれど、それしか知らないのとそれすら知らないのとは、たぶん同じで、とても悲しいことだ。


 わたしは、つがいを失くした欠陥品。孤独と共に生きていく。ひとりでも生きていけるし、気ままな暮らしはわりと気に入っている。


 それでも、心にぽっかりとあいた空洞を無視はできなかった。ずっとずっと、あの日からずっと、癒えることも消えることもなく存在する穴。欠けてしまった身体の半分。

 記憶はなくとも、本能で分かっている。


 この世界に、わたしのあの子はもういない。


 半分のままでも生きていけるけど、永遠に満たされることはない。きっと誰にも理解されることはない。死のうとしたことはないけど、いつ死んだって構わない。そう思いながらダラダラとここまで生きてきた。


 きっと彼女も、少なからず知っているのだろう。失うということを。その痛みを。


 少しだけ、互いの心の中を覗いた気がした。



 永遠に続く幸福はない。不幸なことは起こるけど、続く人生の中でまた違う喜びに出会うことはある。幸せの形はそれぞれで、誰かと比べることはできない。



 そんなことは分かっている。

 分かっているけど、あの子が恋しい。





  * * *




 よく晴れた、春の日。

 気持ちのいい風が、甘い花の香りを運ぶ。



「幸せになってね」


 なんとなく感慨深くて、猫さんの背中に声をかける。振り返った彼女は、わたしの顔を見て、なぜか浮かべていた笑顔を消した。


 どうしたのかと首を傾げると、わたしの両手を握ってこちらの目を覗き込む。少しすると、静かにうつむいてしまった。え、泣いてる?


「リディアちゃん...?大丈夫?」


「...お姉さんのことは、わたしが守ります」


「は?」


 決意したように顔を上げた彼女は、目に涙をためていた。鼻水も垂らしていた。ずずっとその鼻をすする姿に、少し引いた。きたないね。


「お姉さんの...つがいかたに、誓います」


 涙と鼻水でせっかくの化粧を台無しにし、この世で最も強い種族である竜人族を守ると宣言する猫さん。


 わたしよりずっと小さな手が、繋ぎ止めるように何度も何度も、握り返してくる。熱い。


「...だから、わたしと、家族になってください」


 ぐしゃぐしゃな顔で、

 まっすぐ、強く、そう言った。




 今日は君とクラウドの結婚式だよ。




 本番を前に、夫以外に謎の誓いを立ててしまった花嫁。


 笑える。最高に笑えるし、泣ける。




 クラウドが片付いたらもういいやと思っていたけれど、早く会いたくて仕方なかったけれど、あの子の所へ行くのは、もう少し先延ばしにしようか。


 あと少し、生きてみるのもいいかもしれない。


 新しくできた妹が、なんだか面白すぎるから。








 クリクリのつり目が愛らしい甥っ子への溺愛が止まらず、両親やヘタレと本気で取り合い、実家の庭先が世界頂上決戦の様相を呈してしまうのは、もう少し先のお話。






新しく連載を始めたいなと準備中ですが、

足踏みし過ぎて床が抜けそうです。


いつかお披露目できますように。

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